こぶしに雷をまとい、アンドロモンが殴りかかってくる。フレイモンが跳びのいた直後、こぶしが床のタイルを砕く。それでも弾けた電気にあおられ、フレイモンは何度も転がった。
背中が泡立つような感覚に振り返れば、あと数センチの所で壁の電流が火花を散らしている。思わず背筋を伸ばして、慎重に壁際を離れた。攻めても電気、退いても電気だ。
ストラビモンが腰を落とし、床を蹴って接近。振り向いたアンドロモンが胸部の装甲を開くが、電撃が放たれる前にストラビモンが片手を床に着いた。電撃はストラビモンの頭上を抜ける。ストラビモンは勢いを殺さぬまま、スライディングのように足払いをかけた。
が、不意を突かれたにも関わらず、アンドロモンは身軽に跳んで避けた。更に空中で両手を組み、足元のストラビモンへと振り下ろす。
「《トールハンマー》」
「《ベビーサラマンダー》!」
迫った一撃は、フレイモンの妨害で左にそれた。着地体勢の崩れたアンドロモンを、ストラビモンが蹴飛ばし距離を取る。フレイモンの横に降り立った。
フレイモンが敵に視線を向けたまま、ストラビモンに聞く。
「どうした? お前の攻撃が簡単に避けられるなんて」
光の闘士の長所は速さにある。迫る攻撃を見切り、敵の反応より先に技を叩き込む。
ストラビモンが顔をしかめた。
「あいつ、重量の割に妙に速い。雷のデータを取り込んでも、ここまでには!」
言い終わる前に雷弾が発射され、二人は左右に分かれて跳んだ。
フレイモンがふと壁の電流に目をやり、閃いた。
「そうか、電気の多い場所だから、奴の速度や攻撃がパワーアップしてるんだ!」
属性に合った環境であれば、デジモンの能力は底上げされる。拓也達にも覚えのあることだった。
この電流さえ止めれば、アンドロモンは弱るはず。
頭突きをしてきた敵を、フレイモンが斜めに組み伏せた。
「俺が時間を稼ぐ! 動力源を探してくれ!」
「分かった!」
ストラビモンが素早く答え、部屋を見回す。
動力源になりそうなのは、壊れた台座くらいしかない。ストラビモンが駆け寄ると、台座の裏からユニモンが顔を出した。
「ユニモン、台座の中にまだ動いている機械はないか?」
「結構痛んでますけど……あ、ここは元気そうですね」
ユニモンが一か所を前足で指した。ストラビモンがその横にしゃがみ込む。
配線が垂れ下がる奥に、無傷の基盤があった。黒塗りのバッテリーパックの横から電気が絶え間なく流れ出している。非常電源なのか、ブリッツモンがここを守るために最後に残したエネルギーなのか、それは判断がつかなかった。とにかく、これを壊せば部屋を取り巻く電気は消える。
「いいんですか? 電気がなくなるってことは」
ユニモンが心配そうにストラビモンに聞く。ストラビモンは硬い表情で頷いた。
「分かってる。だが、アンドロモンに対抗するにはこれしかない」
ストラビモンは右手の爪を振り上げた。
「ブリッツモン、許せ!」
鋭い爪が、バッテリーを切り裂いた。パン、と音を立てて、バッテリーは破裂した。
直後、壁に走っていた電流が消える。弾ける音のしなくなった部屋は、一瞬静寂に包まれた。
「ごほっ。上手くいったみたいだな!」
せき込みながら、フレイモンが叫ぶ。胸をかばい、右足を少々引きずってはいるが、まだ戦えそうだ。
ストラビモンもフレイモンの横に並ぶ。
「代わりに酸素は発生しなくなった。長居すると窒息するぞ」
「その前に、敵を倒して脱出しろってことだな」
「あと、炎も最小限にな」
「あ゛っ……おう」
物を燃やすには酸素を消費する、というのは拓也でも知っている知識である。むやみな技の使用は自分達の寿命を縮めかねない。相手が呼吸と無縁な機械であればなおさらだ。
改めて敵に向き直る。有利なフィールドが解除されても、その表情に変化は見られない。アンドロモンはフレイモンめがけて走る。その勢いのまま、電気をまとった右手を振りおろす。
「《ミョルニルサンダー》」
鈍い音がした。
フレイモンは一歩も動かず、クロスさせた両腕を掲げていた。電気で肩まで
フレイモンはにっと笑った。
「いける!」
その姿勢のまま体を熱し、炎のオーラをぶち当てる。アンドロモンは吹き飛ばされ、一回転して着地した。
しかし、立ち上がる前にストラビモンが詰める。
「《リヒト・ナーゲル》!」
背中を切り裂かれ、アンドロモンが咆哮を上げる。胸部の砲口から、雷弾を乱射する。多くは天井や壁に着弾し、爆発する。
肩に迫った雷弾をぎりぎり避けて、フレイモンが駆ける。全身に炎をまとい、ひねりを加えて跳ぶ。
「《ベビーサラマンダー……ブレイク》!」
回し蹴りが、アンドロモンの首を捉えた。機械人形は勢いのまま吹き飛び、壁に叩きつけられた。
その体に、デジコードが浮かぶ。フレイモンがデジヴァイスを向けた。
「汚れた悪の魂よ、このデジヴァイスが浄化する! デジコード・スキャン!」
デジコードが吸い込まれ、アンドロモンはデジタマとなって去っていった。
気が抜けて、進化の解けた拓也はその場にへたり込んだ。輝二も珍しく、膝に手をつき深く息を吐く。
「けほっ。なんとか倒せたな」
拓也の言葉に、輝二も顔を伏せたまま頷く。
戦いの疲れもあるが、どうにも息が整わない。輝二がのどに手を当てる。
「せっかく短期決戦で済ませたのに、はあ、妙に苦しくないか?」
「なんだよ、俺はちゃんと炎最小限で済ませたぜ」
「そうじゃなくて、もっと別の」
「あああ! 二人とも上! 上!」
ユニモンの悲鳴に、二人は天井を見上げた。
先程の雷弾で、天井の痛みが激しくなっていた。ただでさえ丈夫でない建物である。建材の隙間から水が幾筋も流れ落ちてくる。
「やばぃっ!」
拓也が言い終わる間もなく、天井が決壊した。泥水が一気に叩きつけてくる。
「この安普請め!」
輝二が悪態をつきながら走るが、三歩もいかないうちに足をとられた。
ユニモンがとっさに青白い光をまとい、二人を助けようとする。
「拓也さん、輝二さん!」
だが、水の勢いに邪魔されて間に合わない。
二人の体は、あっけなく濁流に飲み込まれた。
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気づけばフロ02もユナイトも雷の話。電気の描写ばかり書いています(苦笑)毎度のことですが、科学的におかしなところがあっても生温かい心でスルーしてやってください(汗)
味方の技が少ないので、最後一個足してしまいました。《ベビーサラマンダーブレイク》……今後も出てくるかは未定です←