第121話 それぞれの進む道! 会わないという事 | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 半日も過ぎて、ようやく「信也を見た」ってデジモンが見つかった。近くの村の住人で、城まで来てくれたらしい。

 純平さんから聞いてすぐ、僕は応接間へと駆け出した。

 早く信也を探し出したかった。心配してるからじゃなくて、あの胸ぐらをつかんででも聞きたい事があった。


 どうして何も言ってくれなかったんだ!


 信也が姿を消したと分かってから、トゥルイエモンが座り込んでうなだれ、話してくれた。

 スピリットの力を限りなく引き出す信也の特性。そのせいで炎のスピリットが負った傷。

 そして、信也が会話を盗み聞いたんだろうって事も。

 傷だらけになったスピリットを見せられた時は、泣きたいくらいに落ち込んだ。

 スピリットの姿がショックだったんじゃない。信也がこんな大事なことを、僕に相談せずにいなくなった。それが信じられなかったんだ。

 去年の春に会ってから、当たり前のように一緒にいた。サッカーチームでの練習だけじゃない。その後もぐずぐず居残って、くだらない事も悩み事もみんな信也と話してた。

 デジタルワールドに来てからもそうだ。信也が拓也お兄ちゃんを必死に追いかけてるのは分かってたし、僕も協力してあげようって思ってた。一緒に戦う練習をして、デジモンの事を教えた。

 僕のダブルスピリットやユノモンの言葉に悩んでいた事も、分かってたんだ。でも、きっといつものように相談しにきてくれると思い込んでた。無理に聞き出そうとしても余計に強がるだけだから。信也の方から言ってくれるのを待とうって、思ってたんだ。

 なのに、信也は僕を頼ってくれなかった。何でも話してくれるって思ってたのは、僕だけだったのかな。僕が無理やりにでも聞いてあげてれば、こんな事にならずに済んだのかな。

 心の中に、寂しい穴でも開いたみたいだった。

 信也に会えば、話せば、その穴が埋まってくれる気がした。


 応接室に駆け込むと、ソファに座っていたデジモンが顔を上げた。ブリッツモンが小さくなったような、青いカブトムシ型のデジモンだ。背は僕より少し低い。

 話していたボコモンが立ち上がって、デジモンを手で指した。

「友樹はん、純平はん。こちらはコカブテリモン。夜中に信也はんを見たと言うておるんじゃ」

 コカブテリモンは緊張してるのか、固まったまま小さくうなずいた。

 やっと見つけた信也の手がかり。僕はコカブテリモンの目の前に迫った。

「見たってどこで?」

「あ、え、ええと、村の近くで……で、でも夜だったから人間かどう」

「それで、信也はどこに行ったの!?」

「ひっ! た、多分あの方向は、あ、でも、ちゃんと見ていたわけじゃ」

「いいから教えてよ!」

 僕はコカブテリモンの肩越しに、ソファの背もたれをつかんだ。

「か、風のエリアの方に歩いていったかと」

「君の村からその方向に徒歩だね。分かった!」

 早く信也を見つけ出さなきゃ。今からならきっと追いつける。


 駆け出そうとした僕の肩を、誰かがつかんだ。振り返ると、純平さんが後ろに立っている。

「落ち着けよ、友樹。コカブテリモンもびびってるぜ」

 落ち着けったって。僕は純平さんの手を振り払った。

「ムリだよ! 拓也お兄ちゃんと輝二さんがいなくなって、信也までいなくなっちゃって! みんなバラバラで……純平さんは何とも思わないの!?」

 最後は声がのどに絡んだ。純平さんの顔が涙でにじむ。

「俺だって、何も考えてないわけじゃないさ」

「だったら、信也を探そうよ! 進化も出来ないし、すごく傷ついてるだろうし、ほっとけないよ!」

 純平さんが少しだけ黙った。

「友樹、お前さ。信也に会ったら何て言うつもりなんだ?」

「えっと、僕に黙っていなくなるなんてひどい、とか、スピリットの事は気にする事ないよ、とか……」

 自分で口に出してるうちに、違うかもしれない、と思った。

 これは僕が言いたい事だ。相談してくれなかった寂しさを叩きつけるだけ。僕の気もちをぶつけるだけだ。きっと、信也が言ってほしい言葉は違う。

 2年前、僕も進化できない時はあった。敵にスピリットを取られたり、カイゼルグレイモンのためにスピリットを預けたり。でも、この先絶対に進化できないなんて思った事はなかった。

 今の信也は、アグニモンにもヴリトラモンにもなれない。それどころか、二度と戦えないかもしれない。もしスピリットが回復したとしても、ダブルスピリットはできない。永遠に。

 そんな信也に、僕は何て言ったらいいんだろう。

 立ち尽くす僕の頭を、純平さんが帽子ごと掻き回した。つばが視界にかぶる。

「な。進化できる俺達が会っても、何を言っても、今の信也には逆効果だ。少しほっといてやろうぜ」

「でも、戦いに巻き込まれたら」

「忘れたのか? 2年前の俺達だって、スピリットなしで歩き回ってた時があるんだ。信也もただのバカじゃないからな。自分の身くらい自分で守れるよ」

「ただのバカって……信也が聞いたら怒るよ」

 そう言いながら、小さく笑いがこぼれた。純平さんも明るい声を出した。

「あいつも怒る元気があるなら大丈夫だって。俺達は、俺達に出来る事を頑張ろうぜ」

「うん。信也も、いつか戻ってきてくれるよね」

 僕は涙をふいて、大きく頷いた。僕達に出来る事。結界をなくしたエリアを助けに行く。信也とも一緒に決めた事だ。

「俺は氷のエリアに最初に行こうと思うんだけど、どうだ?」

 純平さんは、雷のエリアより氷のエリアを提案してくれた。僕に気を使って、僕の気が向きやすい場所を言ってくれている。さりげない気もちが嬉しかった。

 僕は帽子のつばを押し上げて、純平さんを見上げた。

「ありがとう、純平さん」

 純平さんは照れ臭そうに頬をかいた。




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信也がいなくなって、友樹達もシリアスモードでした。友樹が一番落ち込んでるだろうとは思ってましたけど、書いてみたら思った以上に凹んでてびっくりしました←


今回は話の筋はしっかり決まってたのに、書くのに時間かかりました。いや、こないだの特撮に友樹と同じ声優さんのゆるキャラが出てきまして。その「きゃっほーい!」なテンションがはっちゃけた時の友樹とかぶり……。

結果、シリアスな友樹を復旧するのに日数がかかったのです(笑)


今回初登場のデジモン

コカブテリモン