「ったく、せっかく支えてやったのにビンタはないだろ、ビンタは!」
「拓也が目の前にいるからいけないんでしょ!」
線路を歩きながらも、拓也と泉の口論は絶え間なく続いている。相変わらずの森の中だが、リラックスできる雰囲気ではない。
他のメンバーは、巻き込まれないよう距離を取って歩いていた。ブイモンがちらちらと二人の様子を見ている。
「……大輔、あのままでいいのかな?」
「あー、大丈夫なんじゃないか? ケンカするほど何とかって言うし」
「あれのどこが仲良さそうなんだよ」
大輔の答えに、何故か純平が反応した。
「俺もよく知らないけど……よくそう言うだろ」
「俺は全然そうは思わないね」
一方的に話を断ち切って、泉達の方へ駆け出す純平。大輔は訳が分からず頬を掻いた。
「きっと、泉さんが他の男の子と仲良くしてるのが嫌なんだよ」
友樹がこっそり耳打ちする。そういう気持ちなら大輔にもよく分かるが……純平の態度は、何となくそれだけではないような気がした。
で、その中身はというと……やはり考えても分からないのだが。
ブイモンが大輔をつついた。
「そんなに気になるなら直接聞けばいいじゃんか」
「あ、それもそうだな! 俺ちょっと行ってくる!」
大輔はにっと笑って純平を追って走り出した。
「おーい、純平!」
その声に拓也達三人が振り向く。
タイミングを狙いすまして、拓也達の向こうから黒い影が跳びかかった。
「っ! 伏せろ!」
大輔が叫ぶと、拓也達が慌ててしゃがみこんだ。そのすぐ上を影が行き過ぎる。
拓也と大輔の間に着地する影。ボコモンが声をあげた。
「あー! あれはケルベロモンじゃ!」
「……誰だっけ?」
ネーモンと一緒に、友樹が首をかしげる。
ケルベロモンが唸り声を上げた。
「炎の町での戦い、忘れたとは言わせんぞ!」
「ああ! あの時吹っ飛ばしたケルベロモンか!」
「なんだそうか! いやー、悪い。忘れてたわ」
ブイモンと大輔が、そろって苦笑する。対してケルベロモンの表情は怒りにゆがんでいく。
「お前らのせいで炎の町はスキャンできないし、トレイルモンにはひかれるし……許さんぞ!」
「また返り討ちにしてやるさ。いくぞ、ブイモン!」
大輔がD-ターミナルとデジヴァイスを取り出した。
「僕も手伝う!」
「私も!」
友樹と泉もデジヴァイスを手に駆け寄る。
途端、ケルベロモンがにやりと笑った。
「今だ、ハグルモン!」
そばの茂みから、顔のついた歯車が飛び出した。
驚く間もなく、ハグルモンが口から小さな歯車を吐き出した。
「《ダークネスギア》!」
「うわっ!」
大輔は思わずD-ターミナルで顔をかばった。
しかし、何も起こらない。同じように目をつぶっていた泉達も、拍子抜けしている。
「なんなの、今の?」
「さあ。それより進化だ進化!」
大輔がデジヴァイスをブイモンに向けた。
「デジメンタル・アップ!」
「ブイモン、アーマー進化!」
「燃え上がる勇気、フレイドラモン!」
……ブイモンのままである。
「あ、あれ? 大輔、デジメンタルが来ないよ?」
「んなわけあるか。もう一度、デジメンタル・アップ!」
いつもならD-ターミナルからデジヴァイスへ、デジメンタルが転送される。しかし、何の反応もない。
「僕達も進化できない!」
友樹の悲鳴。デジヴァイスをいじっていた泉が声をあげた。
「何これ! デジヴァイスが変よ!」
まさか、と思い大輔もD-ターミナルを開く。
そこにデジメンタルの表示はなく、意味不明の文字列で埋め尽くされていた。
純平も泉のデジヴァイスをのぞき込み、目を見開いた。
「ウイルスだ! コンピュータウイルスで、デジヴァイスがおかしくなってる!」
「じゃあさっきの歯車が」
「やっと気づいたか!」
拓也の言葉をケルベロモンが遮る。
「その機械さえ動かなきゃ、お前達は何もできないからな! ハグルモンを見つけてきて正解だったぜ!」
ハグルモンに自分の意思はないのか、ケルベロモンの横で黙って浮いている。
「借りは返すぜ! 《ヘルファイア》!」
緑色の炎が大輔達を襲う。逃げろ、と拓也が叫び、全員が散り散りに走った。炎は草や木に燃え移り、森を毒々しく照らす。
大輔とブイモンは木の陰にしゃがんだ。大輔がデジヴァイスを見る。D-ターミナルはやられたが、デジヴァイスは正常だ。でも、デジヴァイスだけじゃ。
大輔の脳裏に、以前ヒカリを助けに行った時の事がよみがえった。あの時、タケルはデジヴァイスだけでパタモンを進化させていた。ブイモンも、同じ進化ができるかもしれない。
「そうだ、アーマー進化じゃなくて、普通の進化なら! D-ターミナルがなくてもいけるはずだ!」
大輔の言葉に、ブイモンも頷いた。
「分かった! 俺、やってみる!」
◇◆◇◆◇◆
本当に忘れられかけてただろうケルベロモン。元気です。
細々とした部分ですが、前回の題名のつけ方を間違えてたので、修正しました。星流が個人的にこだわってる所なので、別に直さなくてもどうってことないんですけど……ま、一応。