「はーっ、助かった!」
ロープを登り切った所で、大輔は仰向けに寝転んだ。
輝二が使えそうなツタを探してきて。それをまず軽いブイモンが登って。大輔が下から「デジメンタル・アップ」して馬力のあるライドラモンにして。自力で登れない友樹やボコモンやネーモンを引っ張り上げて。最後に拓也と大輔が登って。
それだけの手順を経ると、ずいぶん時間がかかった。既に日は傾き始めている。
大輔が横を向くと、輝二も地面に座って息を吐いていた。輝二にとってもそれなりに重労働だったらしい。
大輔は上半身を起こして、輝二に向き直った。
「ありがとな。ここまでして助けてくれるなんて、お前けっこういい奴だな」
輝二はしかめ面になって視線を逸らした。
「別に。この間の借りを返そうと思っただけだ」
「借りって、ああ、レアモンと戦った時の事か?」
大輔本人は貸しとも何とも思っていなかった。むしろ助けに行くのが間に合わなくて、輝二を危険にさらしたと思っていたくらいだ。
あっけにとられる大輔に、輝二は頭を振って立ち上がった。
「お前が気にしてないならいい。俺はもう行く」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
拓也が慌てて呼び止めた。
「もう夕方だってのに、今からどこに行くんだよ?」
「疲れてるんだし、今日は僕達と一緒に休まない?」
友樹の言葉にも輝二は表情を変えなかった。
「俺はお前達とつるむ気はない」
「じゃあさ、野宿に良さそうな場所を探すくらいは――」
大輔の言葉の途中で、輝二が片手を伸ばした。地面の裂け目を指さす。
「この裂け目沿いに三十分くらい歩くと、村がある。そこでなら一晩くらい泊めてもらえるんじゃないか」
「なんだ、もう目的地は決まってるんじゃないか!」
大輔が笑顔で輝二と肩を組もうとして、あっさり避けられた。
輝二はそのまま村とは逆方向に歩き出す。
「俺はあの村にはもう用はないからな。勝手にしろ」
そう言って二度と振り返らなかった。
大輔は不機嫌な顔になって腕を組む。
「何だよ、せっかく仲良くなれたかと思ったのに」
その横で、ブイモンが自分の腹を押さえた。
「大輔、俺進化したら腹減ったよ。早くその村に行ってみようぜ」
「僕も疲れちゃった……」
ブイモンの言葉に友樹も頷く。
「それもそうだな。よし、行こう」
拓也の掛け声で、一行は輝二と逆方向に歩き始めた。
―――
「あら、拓也! 大輔達も!」
村に入ってすぐ、聞き覚えのある声がした。木をくりぬいた家から、泉が駆けてくる。
「どうやらもう一本の線路はこの村への直通ルートだったようじゃな」
ボコモンが一人で納得する。
泉が一同を見回し、土ぼこりにまみれているのに目を止めた。
「どうしたの? やけにくたびれてるみたいだけど」
「いやあ、あっちの道が通行止めになってたんだ。な、大輔?」
「そうそう、風が強くて行ったり来たりしただけでほこりっぽくなっちゃってさ~」
あはは、と拓也と大輔が乾いた笑い声を立てる。口喧嘩した手前、『崖に落ちました』とは口が裂けても言えない。
「そ~いえば純平は?」
ネーモンの言葉に、泉も思い出した、というように手を叩いた。
「デジヴァイスにスピリットらしい反応があったの。それで純平と探してるんだけど見つからなくて。拓也達も探してみてくれない?」
スピリットと聞いて拓也が反応した。
「本当か! もしかして俺のか!?」
「それは分からないけど、探してみてもいいんじゃない?」
泉に言われて、拓也はデジヴァイスを手に走り去っていった。
大輔も追いかけようとしたが。
その前に二人分の腹の虫が鳴いた。
「大輔~」
「大輔さ~ん」
ブイモンと友樹の切実な目線。
大輔は苦笑いしながら泉に聞いた。
「なあ、この村で夕飯食べれそうな所ってないか?」
拓也には悪いが先に食べさせてもらおう。
大輔達が「そよ風村名物 ラムの実のスープ」をお腹いっぱい飲んだ頃。ばてた拓也と純平が戻ってきた。聞くまでもなく、スピリットは見つからなかったらしい。
「この辺にスピリットがあるのは確かなんだし、明日もう一回みんなで探してみようぜ」
大輔が二人を励ます。大輔や仲間が持っているデジメンタルだって、手に入れるにはあれこれ苦労があったものだ。村の中を探すだけなら大した事はない。
村のフローラモン達が用意してくれた柔らかいベッドに横になって、大輔達は和やかな夜を過ごした。
◇◆◇◆◇◆
初期のツンドラ輝二は作者的にも扱いづらいです(苦笑)なかなか大輔達と一緒に動いてくれないんですから。