第109話 たった一人の杞憂(しんぱいごと)! 背後にひそむ不安 | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

「えっとまずは……助けてくれてありがとう、かな」

 俺は凹みながら言った。起こった事は仕方がないんだ、うん。

 小熊デジモンと四足デジモンが寄ってきて座った。肉リンゴや魚を抱えてるのを見ると、食糧調達の帰りらしい。

 小熊デジモンが先に口を開いた。

「どういたしまして。君が空から落ちてきた時は驚いたけどね。ところで――」

 小熊デジモンが勢いよく顔を近づけてきた。

「君って、人間だよね?」

「さっきも聞かれたけど、そうだ」

「そっかぁ。やっぱりそうなんだぁ」

 小熊デジモンは、なぜか嬉しそうに俺と恐竜デジモンを見比べる。

「……何だ?」
「ユウキも人間だった時はこんなにかわいかったんだなーって」

 ちょっと待て。

「俺をどう見たら『かわいい』になるんだっ!?」

「今さらっと重要な事言ったな!?」

 恐竜デジモンと俺の声が重なった。小熊デジモンはにこにこしたまま返事をしない。

 横で見ていた四足デジモンがため息をついた。

「お前らなぁ。コントより先にやることがあるだろ。自己紹介とか、情報交換とか」

 コントをやっていたつもりはないんだが……言われてみればその通り。


 小熊デジモンが真っ先に手を上げた。

「じゃあ僕から自己紹介するよ。名前はベアモン。見ての通りのごく普通のベアモンだよ」

「ごく普通か……? 俺はエレキモン。正真正銘のごく普通のエレキモンだ」

「俺の名前はギルモン。元は人間だったんだが、なぜか今はギルモンになってる。人間としての名前は紅炎勇輝こうえんゆうきだ」

「ふーん、そうか。よろしくな」

 俺の返事があっさり過ぎて、ユウキ達は拍子抜けしたらしい。顔をまじまじと見られた。

「俺が元人間って言っても、驚かないのか?」

「ああ。人間がデジモンになるってよくあることだし」

 俺の返事に、三人の目が点になった。あれ、てっきり俺達みたいにスピリットのある世界なのかと思ったんだけど……違うのか?

 疑問はひとまず脇に置いて、俺も自己紹介する。

「俺は神原信也。見ての通りの人間だ」

 ユウキの口が「か・ん・ば・ら?」と動いた。

「ひょっとして、お前神原拓也の弟なのか?」

 久しぶりに兄貴の弟呼ばわりされた。なのに、不思議と前みたいな怒りは湧いてこなかった。着実に兄貴に追いついている。そんな実感があったからかもしれない。

「ユウキは兄貴の知り合いか? ユウキの世界にも『神原拓也』がいるとか?」
「知り合いというか……俺が一方的に知ってるだけだ」

 一方的に知ってるって、テレビの芸能人じゃあるまいし。

 ひょっとして、異世界の兄貴は有名人だったりするのか? 想像したら少し気分が悪くなって、それ以上聞くのはやめた。話を変える。


「さて、情報交換だけど。ここはユウキ達がいたデジタルワールドとは別のデジタルワールドだ。最近まで俺達と敵が戦ってて、その影響で時空のゆがみができてた。ユウキ達はその一つに吸い込まれたってわけだ」

「ずいぶん詳しいんだな」

 エレキモンが肉リンゴをかじりながら言う。俺は軽く肩をすくめた。

「何度もあったからな。こうやって異世界のデジモンが迷い込んでくるの。一つだけ違うのは」

 そこまで言って、俺は次の言葉をためらった。今までと一つだけ違う、だけど大問題な事。

「違うって何が?」

 ベアモンが首をかしげる。

 俺は覚悟を決めた。


「お前達の帰る手段がないって事だっ!」

 一瞬の沈黙。


「そうかー。それは困ったねぇ」

 ベアモンがのんきに言いながら魚をくわえた。そういや家のテレビの上にあったな、おじさんの北海道みやげの木彫りの熊……。って、そうじゃなくて!

「すぐに帰れないとなると、本格的に寝床を確保しないとだな。昨日みたいに野宿を続けるわけにもいかないし」

 さっそく今後の方針を考えるエレキモン。いや、頼もしいっちゃ頼もしいんだが。

 俺はユウキに顔を向けた。

「いつもこんな調子なのか? ユウキもあまり驚いてないみたいだけど」

 ユウキは手の爪で頭をかいた。

「うーん、元いた世界でも、俺が人間世界に帰る方法は分かってなかったし……正直今までと変わった気がしない」

「そ、そうか」

 俺は肩の力を抜いた。なんだ、心配してるの俺だけじゃないか。




 ひとまず、三人を城まで連れて帰る事にした。俺だけじゃ三人を元の世界に帰す方法なんて分からないし、あのまま野宿させておくわけにもいかないし。

 この世界について説明しながら、城への道を歩く。


 誰かに見られている。


 勢いよく振り返ったが、森の中に人影はない。

「どうしたんだ?」

「……何でもない」

 ユウキに聞かれて、首を横に振る。気のせいだったのか。

 でも、助けられる前の声といい、今の視線といい、気味が悪い。

 ユウキ達の前では、不安な顔しないようにしないと。俺は何気ない会話を続けながら、森の中を歩いていった。



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表面的には平和です。若干ホ○ーじみた描写もありますが、○ラーにはなりません(断言)

星流自身が○ラーアレルギーですからっ!(断言)