荒野の中を一本、乱暴な線が走っている。ちょうど巨大な爪が地面をえぐっていったかのように、深く細く、地平線の果てまで続いている。
その底で、拓也は泣きじゃくる友樹をなだめていた。
「なあ、俺が悪かったって。泣かれると俺だってどうしたらいいか分かんないよ」
拓也の声が聞こえているのかいないのか、友樹はぐずぐずと鼻をすすっている。
「大輔はなぐさめに行かなくていいの?」
ブイモンの言葉に、大輔は立ったまま眉尻を下げる。
「いやあ、俺も泣いてるやつの相手ってあんまししたことないからな……。伊織みたいに凹んでても話の通じる相手ならいいんだけど」
涙の滝を流す3年生を見ていると、つくづく火田伊織は特殊なんだと思ってしまう大輔だった。
それにしても、一番の問題は友樹が泣き止むかどうかではない。
「これ、登るのは大変だよな……」
「大変っていうより無理だろ」
空を見上げてつぶやく大輔に、ブイモンが突っ込む。
目の前には断崖絶壁。手をかけられそうな出っ張りも少ない。ネーモンが無謀にもよじ登ろうとしたが、3歩目で手元が崩れて頭から落ちた。
「助けてもらおう!」
「誰が来るんだよ」
ブイモンの叫びに、大輔が突っ込む。
荒野ルートに来たメンバーは全員落ちてきてしまった。頼みの綱は泉達だが、さっきケンカしたばかりだし、異変に気付くには時間がかかるだろう。
目を回しているネーモンを蹴飛ばし、ボコモンがため息をついた。
「これじゃ、ロケットでもない限り帰れんぞい」
「そうだよな、ロケットでもないと……ロケット……それだあっ!」
大輔の大声に、ボコモンもブイモンも飛び上がった。ついでに友樹が驚いて泣きやんだ。
「ブイモン、フレイドラモンにアーマー進化だ!」
その言葉に、ブイモンも大輔の意図を察した。
「おう! 任せとけ!」
「デジメンタル・アップ!」
「ブイモン、アーマー進化!」
「燃え上がる勇気、フレイドラモン!」
「《ファイアァ……ロケットォ》!」
フレイドラモンが全身をたぎらせ、土煙を上げて跳ぶ。火の粉をまき散らしながら、その体は空めがけて駆ける。大輔達が見守る中、その姿は小さくなっていく。
小さく。
小さく。
…………。
大きく。
大き、グシャッ。
フレイドラモンロケットは墜落した。アーマー進化が解ける。
「文字通り火力が足りなかったようじゃな」
「そんなあ」
ボコモンの分析に、大輔がへたり込む。
その横に歩み寄るブイモン。
「ごめん、大輔。俺が空を飛べないばっかりに……」
「気にするな、ブイモン! たまたま空を飛べないとどうにもならない状況になって、たまたま唯一進化できるお前が飛べないってだけだ! お前のせいじゃない!」
「大輔……! ありがとう!」
涙目になったブイモンが大輔に飛びつく。この瞬間、二人は絆が深まったのを感じた。
それを複雑そうな顔で見つめる拓也達4人。「ブイモンが飛べれば万事解決だったよね」ということに変わりはないわけで、つまり大輔の言葉はフォローになってない。
しかし、それを二人に告げるのは
「……さて、次の手でも考えようか」
拓也が何気なく言って、友樹とボコモンとネーモンとで作戦会議を始めた。
『本宮劇場』をやっていた大輔とブイモンも、そそくさと輪に入ろうとする。
その行く手にふと影が差した。
見上げると、谷のふちから出ている顔が一つ。逆光だが、バンダナを巻いたその人物には見覚えがある。
「道理で地の底から声が響いてくると思った。珍しいキノコでも採れるのか?」
無表情の中に呆れを織り込んだ表情と声。
「輝二ーーーー!」
「よく来てくれた!」
「助けてくれなはれー!」
一同が心から喜びの声を上げる。
愛想のない輝二が、今だけはヒーローに見えた。
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今回何をやったかと言われると、ギャグをやったとしか言いようがないです。あ、アニメより早く輝二が登場しました←
いや、ギャグも大事なんですよ。話の筋だけだと素っ気なくなっちゃいますから。特に私の書く話の場合は!