おかしい。
今いるデジタルワールドは、大輔の知るそれとは明らかに違っていた。
まず、大輔の知るデジタルワールドはこんな穴ぼこだらけではない。
次に、その原因だという「ケルビモン」なんて大輔は聞いたことがない。
逆に、つい先日までデジタルワールドを荒らしていた「デジモンカイザー」を誰も知らない。
しかも、太一や大輔達選ばれし子どもの事すら知ってる人がいない。
そもそも、デジタルワールドに来たら自動的に変わるはずの大輔の服装が、電車に乗る前のままだ。
そして何より――。
「どうして京や光子郎さん達と通信できないんだよ~!」
今大輔がいるのは炎のターミナル近くの森の中。
さっきからD-ターミナルで現実世界にメールを送ろうとしているのだが、「送信できませんでした」としか表示されない。デジタルワールドなら大抵の場所で通信ができるはずなのに。
思えば夕方近くに学校を飛び出したわけで、今は夕飯の時間をとっくに過ぎているはず。仲間や家族が心配しているのは間違いなかった。
「どうしよう……」
頭を抱える大輔に、ブイモンもかける言葉が見つからないらしかった。
一方で、他の子ども達はデジタルワールドに夢中のようだった。
「おーい大輔! こんな所にいたのか」
そう言って歩いてきたのは拓也。その後を白いデジモン――ボコモンと狐のデジモン――ネーモンがついてきている。この世界について説明してくれたのがこの2匹だった。
「何やってるんだ?」
「いや、別に!」
D-ターミナルをのぞき込もうとする拓也に、大輔は慌ててD-ターミナルをしまいこんだ。
ケルベロモンを追い払ったおかげで、拓也達は大輔を尊敬の目で見るようになっていた。初めての世界で不安を感じていないのも、大輔がいるという安心感のせいなのかもしれない。
そう考えると、言わない方がいいこともある。実はここは自分の知ってる世界と違うらしいということや、仲間と連絡が取れずに焦っていること。
今は自分とブイモンの秘密にしておいた方がいい。
だから、デジヴァイスのことやパートナーデジモンのこともあまり話していなかった。
「それより、どうかしたのか?」
大輔が聞くと、拓也がああ、とつぶやきながら頬を掻いた。
「それがさ、さっきから友樹と純平が見当たらないんだよ。散歩に行くって言ったまま。泉と手分けして探してるんだけど、何かトラブルに巻き込まれてるんじゃないかって思って」
「パグモンに追いかけられてたって聞いたしね~」
ネーモンが付け加える。
「パグモンの話なら、前にパタモンに聞いたことあるぜ。すっごく意地悪なデジモンなんだ、って」
ブイモンが大輔を見上げた。大輔達を待っている間、デジモン同士でよく話すらしい。
「そっか。じゃあ早く探してやらないとだな」
大輔が立ち上がった。デジタルワールドでパートナーデジモンなしで歩き回るのは危険だ。平和な時ならともかく、カイザーやケルビモンのような強大な敵がいる時は。
それを証明するように、遠くから足音が近づいてきた。
泉だ。何かを高く掲げながら走ってくる。
「みんな! これが森の中に落ちてたの!」
泉が持っているものを見て、大輔の目が丸くなった。
「まさか、デジヴァイス!?」
一瞬仲間の誰かのかと思った。けれど、近づいてよく見ると自分達のとはデザインが違う。太一達のものとも違う。
「この緑のは、友樹が持ってたやつよね」
泉の言葉に、拓也が頷いた。
「ああ、俺のはちゃんとここにあるし」
そう言って拓也もポケットから赤いデジヴァイスらしきものを出す。
「拓也、それいつの間に?」
事情も分からないまま大輔が聞くと、拓也はすぐに答えた。
「トレイルモンの中にいた時、携帯がこれに変わったんだ。『これはあなたのデジヴァイスです』って女の人の声も聞こえた」
「何で俺は気づかなかったんだ……?」
大輔は考えこんだ。
答えは「ちょうどその時壁に激突して苦しんでいたから」である。
「私も持ってるわよ。純平も」
泉も紫のデジヴァイスを大輔に見せる。
「じゃあ、拓也達も俺と同じ選ばれし子どもなのか?」
大輔の疑問はボコモンにさえぎられた。
「そんなことより今は純平はんと友樹はんの事じゃろうが! のんびりしとる場合じゃないハラ!」
「っと、そうだった! 泉、デジヴァイスのあった所に案内してくれ!」
大輔の声に、泉が真剣な顔でうなずいた。
泉を先頭にして、大輔達は森の中を走り出した。
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拓也がすっかり脇役(苦笑)