第73話 夢の終わりに! 思いがけない導き | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

「《炎龍撃》!」
 体の前で構えた剣から、炎をまとった刃が撃ち出される。
 しかし、連戦による疲労は肉体的にも精神的にもピークに達していた。
 精度の荒い攻撃は、敵にたやすくかわされる。
「《スターライト……ぐっ。拓也!」
 その向こうでマグナガルルモンが膝をつく。二人とも限界だった。
 黒いエネルギー体がカイゼルグレイモンに向けて放たれる。動かなければと思うのに、足がもう動かない。
 この夢の世界で負けたらどうなるのか。目覚めるのか、それとも永遠の眠りになってしまうのか。分からない。
 でも少なくとも分かっている事が一つだけある。
 自分達はこんな所で力尽きるわけにはいかないという事。まだやるべき事が残っているのだから。
 歯を食いしばって前を見据える。強大な技が目の前に迫る。


 そして、視界が急に開けた。
 迫っていた攻撃も、そもそもの敵の姿も見当たらない。
「消えた……?」
 進化を解いて、拓也が辺りを見回す。暗い空間は嘘のように静まり返っている。
「俺達を戦わせるのに飽きた……というわけではないよな」
 輝二も進化を解いて拓也に歩み寄る。
 二人が並んで立つと、頭上から光が差した。それは勢いを増し、瞬く間に二人を包み込んだ。




―――




「……だな」
 最初に蘇ったのは聴覚だった。聞き覚えのない声と、板をずらす音が聞こえる。
 拓也がまぶたを開くと、現実の光が眼球の奥を突き刺した。体を起こそうとすると、全身の血が逆流するような吐き気を感じた。
「うっ……」
 耐えきれずにまたあお向けに倒れこむ。
「無理をするな。記憶をかき回されて、お前達の体は弱っている」
 先程の声が前よりはっきりと聞こえた。素っ気ないが、拓也達を気づかっているようだった。
 今度は床にひじを付きながら、ゆっくりと体を起こす。配線や箱に手が触れて、自分達が閉じ込められていた事を思い出した。
 閉じ込められていた箱に寄りかかりながら、どうにか上半身を起こす。
 何かがぶつかる音に、拓也の視線が右に向く。ぼやけた視界に、自分と似たように体を起こす輝二が映った。
 ひとまず、二人とも無事だった。
「ウルカヌスモン、二人の身柄は一時期預けてもらう」
 先程の声が少し離れた場所で話している。そちらに目を向けるが、照明か何かが目を差してほとんど見えない。
「帰ってくるなり好き勝手やりよって。ユピテルモンが聞いたらただじゃ済まされんぞ」
 ウルカヌスモンの不機嫌そうな声。
「ユピテルモン、ユピテルモンと奴はお前の保護者か?」
 先程の声に嘲るような響きが混じる。
 しばし黙りこんだ後、ウルカヌスモンが鼻を鳴らした。
「勝手にしろ! わしも欲しいデータは一通り手に入れたしな」
 誰か――恐らくウルカヌスモン――が立ち去る音。しばらくして、乱暴に扉が閉められる音。
 そして誰かが歩みよってくる音。拓也達は弱った身を強張らせた。視界もはっきりしない、体の自由もきかない状況で、近づいてくる者が敵なのか味方なのかも分からない。
 拓也の横で足音が止まった。
 その手に何か握らされた。目を細めて見ると、ビスケットのような物らしい。鼻に近づけると香ばしい香りがする。
「食べろ。薬のような物だ。回復が早まる」
 先程の声が言った。輝二にも同じ物を握らせている。
 それでも拓也達は素直に食べる気にはなれなかった。これが毒である可能性だってある。
「心配するな。お前達を殺すつもりなら、とうにそうしている」
 声が静かに言った。
 拓也が、続いて輝二がビスケットを口に運んだ。程よい甘さが舌からのどへと滑らかに広がる。それにつれて体のだるさも消え始めた。
 まばたきすると、目もはっきり見えるようになった。
 視線を巡らせると、二人のそばに一体のデジモンが座りこんでいた。
 青い鱗の鎧を全身にまとったデジモンだ。上半身は人間に似た形だが、下半身は魚の姿をしている。大きさはウルカヌスモンと同じ位か。
「あんたが俺達を悪夢から起こしてくれたのか?」
 輝二の問いにデジモンが頷く。
「そうだ。私が城を離れている間にひどい目に遭わせてしまった。申し訳ない」
 そう言って頭を下げてくる。
「『申し訳ない』って言われても、俺達まだあんたが誰なのかも分からないんだけど……」
 拓也が戸惑いながら聞く。前に会った事があるか、記憶を辿ろうとしても頭痛がひどくなるばかりで思い出せない。

 デジモンは二人を見ながら静かに答えた。
「そうだな。自己紹介をしていなかったか。私はネプトゥーンモン。オリンポス十二神族の一体だ」
「十二神族だと!?」
「じゃあミネルヴァモンやウルカヌスモンと同じじゃねえか!」
 輝二と拓也が叫び、直後に揃ってめまいに襲われた。
 箱の壁にもたれかかる二人に、ネプトゥーンモンはもう一枚ずつビスケットを握らせた。
「怒るのも無理はないが……十二神族の全員がお前達の敵ではない。私はお前達の味方だ」



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拓也輝二復活です!
そして満を持して(?)ネプトゥーンモン登場です。
今回やや短いですがきりがいいのでここまで。

今回初登場のデジモン
ネプトゥーンモン