今年の10月
私が講師を務めていますヤマハ大人のピアノ教室に
八木さんとおっしゃる 79歳の男性が
新しくご入会されました

初めてレッスンでお目にかかった日

失礼ながら お年から想像して
初心者レベルの方だとばかり思っていましたら

ベートーベンの「ト調のメヌエット」の楽譜を持参されて
たどたどしいながらも
きちんと楽譜どおりに演奏されました

少し意外に思った私は
「これまでにどこかでお勉強なさったのですか」と
お尋ねをしました


すると
「実は 亡くなった父が昔 音楽学校の先生をしていまして
私は小学生の頃 父から手ほどきを受けました」

とおっしゃいます


それを聞いて 私は
なるほどそれで・・・と合点がいきました


その後
レッスンを重ねていく間に
親しくお話もさせていただくようになり
ある時 八木さんがご幼少の頃は岡山にお住まいだったことを伺いました


岡山といえば
私は現在 お茶のお稽古のために月に一回岡山まで通っていますので
そのことを申し上げると

八木さんは
「岡山に『芭蕉庵』という老舗の和菓子屋があるんですけれども
そこのお嬢さんが 昔 父のところにピアノを習いに来られていたんですよ

今生きておられたら90歳はとうに過ぎておられると思いますが・・・

子供の頃 よく父が芭蕉庵のお菓子を買ってきたもんですが
子供にはもったいないと言われましてね・・・」 

と 笑いながらおっしゃいます


私は 驚きました


「芭蕉庵」は 岡山の稽古場のすぐ近くにあり
しかも 稽古場ではいつも そのお店のお菓子を使っているのです


そこで 先日
岡山での稽古が終わった後 
私は 芭蕉庵に出向き

お店の女性の方に 
先代の奥様がピアノを習っていたという
八木先生のお話をさせていただきました

すると
店の奥の方で 杖をかかえて椅子に腰掛けていたご老人が顔を上げ

「八木先生!? 
ああ・・懐かしいお名前を聞かせていただきました!
そうですか・・・八木先生のご縁で・・・」と

うれしそうにおっしゃるのです


歩み寄って お話を聞きますと
その方は芭蕉庵のご主人で
お母様が その昔 確かに八木先生のもとでピアノを習っておられたといいます

そして そのお母様の影響で
ご主人自身もクラシック音楽がとてもお好きになり
当時は高価だったSPレコードを何枚も買いそろえ

その後はオーディオに凝るようになり
これまでに200回以上もレコードコンサートを開いているという
お話を聞かせてくださいました

続いてご主人は ひとしきり音楽談義を披露してくださった後
最後にもう一度
「懐かしい名前を聞かせてくださってありがとう」と
深々と頭を下げられました

私もご主人にお礼を申し上げ
銘菓「旭川」を八木さんへのおみやげに買い求め
芭蕉庵を後にしました


時間を越えてつながった
人と人とのご縁に
私は 言葉にできない暖かさを感じさせていただきました


まだ日本ではピアノ人口の少なかった昭和時代の始め
芭蕉庵のお嬢様にピアノをお教えしたという
今は亡き八木先生の息子さんに
明日のレッスンで おみやげ話に添えて「旭川」をお渡ししたいと思います

 聖なる日常~2013岡山銘菓 旭川 芭蕉庵製