「ちょっと西野、あんた一人でぶつぶつ言ってなにやってたの。冗談は顔だけにしといてよ」
「なにって、楯岡さん今日がなんの日かわかってます?」
「知るわけないわよ。あんたのお気にのキャバ嬢の出勤日とか?」
「違いますよぉ。僕といえばキャバクラみたいな考え方、やめてもらえません? 今日はね……ふふん……記念すべき『サイレント・ヴォイス 行動心理捜査官・楯岡絵麻』の発売日じゃないですかあっ」
「あんた今、私のこと呼び捨てにした? えらくなったもんね」
「そういうタイトルなんだからしょうがないでしょう。とにかく! 僕らの活躍が一冊の本になって店頭に並ぶんですよ!」
「これ何度も何度も言ってると思うけど、なんで“僕ら”って一括りにするの? あんたなんにもしてないじゃない」
「まあまあ細かいことは言わないで。とにかく、せっかくだからたくさんの人に読んで欲しいと思って、4コマのスペースを借りて宣伝させてもらってきたんですよ」
「どうせあんたのことだから、自分が主役みたいに吹聴したんでしょう」
「なっ……なに言ってんすか! 僕がそんなことするわけ――」
「喉もとを触る“なだめ行動”……嘘ね」
「うっ……すみません。つい出来心で」
「ま、いいけど。三文作家のしょーもないブログなんかで宣伝したって、たいして見てる人もいないでしょうし」
「相変わらずきついなあ……ここを見て一人でも買ってくれれば、意味のあることでしょう?」
「かもしれないわね。一冊売れたところで重版にはほど遠いでしょうけど」
「…………。今回は全五話の連作短編集になってるんですよね。まずは『YESか脳か』。これは『このミス』2012年版に収録された短編を改稿したものです。元々が30枚程度の短い作品だったから、二倍以上の長さにするのに苦戦したらしいですね。仕草から嘘を見破る“エンマ様”こと楯岡絵麻巡査部長の登場編です」
「だいたいさ、私の魅力を30枚程度に収めていたほうがおかしいと思わない? どう考えても著者の怠慢、描写不足よ」
「はいはいわかりました。続いて『近くて遠いディスタンス』。『このミス』大賞作家書き下ろしmagazineに収録された作品で、僕らが放火殺人の重要参考人となった歯科医と対決します」
「だからなんで“僕ら”って……まあいいわ」
「次が『私はなんでも知っている』。『このミス』大賞作家書き下ろしBOOK収録の、占い師のコールドリーディングVS行動心理学の話です」
「占い師ごときが私に勝とうなんて100年早いっつーの」
「残り二話が文庫書き下ろしの『名優は誰だ』と『綺麗な薔薇は棘だらけ』です。有名演技派女優、それと男を籠絡する結婚詐欺師が、それぞれ僕らの対決する相手です」
「あんたの鼻の下が伸びまくった二編ね。どうでもいいけどなに、この終わり方。続編への色気満々じゃないの。ただでさえ忙しいってのに、これで終わりにするつもりじゃないっての?? 公務員はアルバイトできないんだから、ノーギャラでやってあげてるっていうのに。そもそもたいして売れてもいない作家のくせにシリーズ化への色気なんて見せちゃって、どういうつもりなのかしら。著者には分をわきまえろって言いたいわね。こんなことする時間があるならしこしこ『消防女子!!』の続編でも書いてろっつーの」
「いいじゃないですか。もしかしたら売れるかもしれないんだし、夢ぐらい見たって……そんな夢のないことばっか言ってるから、いつまで経っても結婚できな――」
「はあ……? なにか言った? に・し・の・くん」
「いえ……別に。そそそ、そういえば楯岡さん。僕らの台詞にくっついているアイコン。スマホや携帯電話でデコメ絵文字として使えるらしいですよ! 著者の方がわざわざ作ってくれたらしいです。たくさんの人に使って欲しいですね」
「あんたはいいけど、なんで私が眉間に皺寄せてんのよ」
「だっていつもこんな顔してますよ……少なくとも僕には」
「ふん……それにしても、よぉ~くわかったわ」
「なにがわかったんですか?」
「この著者が売れない理由がよ。4コマ描いたりCM作ったり絵文字作ったり、なにがやりたいんだかさっぱり意味不明じゃない」
「ひどい言い草だなあ。頑張って作ってくれたのに……ほら、こうやって遊ぶとけっこう楽しいですよ?」
「あきれた……一生やってなさい。私は捜査に出るから」
「あ……ちょっと待ってくださいよぉ~! 楯岡さぁ~ん!!
……あ。
『サイレント・ヴォイス 行動心理捜査官・楯岡絵麻』
は本日発売!! みなさん、どうかよろしくお願いします! CMも完成したみたいなので、SNSなんかで共有・拡散していただけると嬉しいです! 急いで作ったわりには、みんなの協力のおかげでなかなかよく出来たって著者の方もおっしゃて……って、あれ? なんで……?? なんでCMに僕が出てないんだっ!!」
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