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こんにちは、菁南です。
さてさて、『消防女子!! 女性消防士・高柳蘭の誕生』の発売から一か月が経過しました。
売れるかな~売れるかな~と売り上げを気にしながら神経をすり減らしてだんだんヘコんでしまい、ヘコみを通り過ぎて「もうどうでもいいやっ!!気にしたところで売れるわけじゃねーし!!」と開き直りの境地に到達しつつある今日この頃。
ジョギングの帰りに買ったかき氷で今年初の頭キーンを体験して夏の訪れを感じている僕なのであります。
たぶんね、本の発売直後って皆さんが想像するほど浮かれているわけでもないんですよ。

これ売れなかったら次は初刷部数が減るわ~これ以上減ったらおまんま食えなくなるわ~。
もしこのまま部数が減っていったらどうしよう。
三年は死ぬ気で頑張るって決めたけど、今から行政書士とか司法書士の資格の勉強でも始めといたほうがいいのかな~。
それか貯金してどこかの飲食店のフランチャイズのオーナーにでもなるか。
あーどうしよどうしよどうしよどうしよ……

と戦々恐々なのです。
僕だけなのかな??
よくわかんないけど。
担当さんにもネガ発言連発して困らせてしまったりしてます。
ごめんなさい担当さん。

皆さんそんな僕を救ってください!!
もう買ってくれましたか??
なに、買ってない?
おととい来やがれてやんでえバーロー畜生めっ!!

ではなくて、こちらでも読んで購入をご検討くださいませ。
“WEB本の雑誌”で丸善書店津田沼店の沢田さんに紹介していただきました。
『消防女子!!』の美点がすべて詰まった素晴らしい書評でございます。
FaceBookやらTwitterやらmixiやらでシェアしてくれても、イイヨ!!(スリムクラブ真栄田調で)

以前から丸善津田沼店の沢田さんが絶賛してくださっているのは存じ上げていたんですが、こういうかたちで取り上げていただいて感激です。
現在ただでさえ睡眠不足気味の担当さんに「丸善津田沼店に書店訪問させろー書店訪問させろー」と呪詛を吐き続けて重圧をかけ続け、さらなる睡眠不足に陥らせて判断力を鈍らせようと試みております。

さて、発売から一か月が経過しましたので。
ちょっとずつ『消防女子!!』のアウトテイクでも発表していこうかなと思います。
『消防女子!!』は四稿まで、つまりは四回にわたり大きく原稿を修正したんですが、その段階でけっこうボツにしたパーツが存在するんです。
初稿の段階では蘭に大学時代からの恋人が存在する設定だったりと、かなり大幅に変えてるんです。
その中でも発売された内容の捕捉になるようなパーツならたぶん発表しても問題ないかなと思いまして。
すでに読んでいただいた方には楽しめるかな、あるいは未読の方にはもしかしたら購入のきっかけになるかなと。
万が一担当さんとかに怒られるようなことがあったらこの記事自体消えるかもしれませんけど。
ネタバレしてるわけでもないし、このネタを次に使いまわせるわけでもないからたぶん大丈夫でしょう。
DVDの特典にある未公開映像的な感じで楽しんでいただければ幸いです。

というわけで本日は第一回。

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 李秀英(り・しゅういん)はサイドデッキに立ち、手すりから身を乗り出した。
 ハワイの島影は、すでに水平線の彼方だ。視界には空から海へと、一面の青いグラデーションが広がっている。
 潮の香りを思い切り吸い込むと、胸の中に解放感が溢れた。オールバックに撫でつけた自慢のロマンスグレーを乱す偏西風の悪戯も、おおらかな気持ちで受け止めることができる。もうかつてのように部下を叱り飛ばす必要はない。誰かを蹴落とすことも、出し抜くことも、考えなくていい。人生でやるべきことは、すべてやり尽くした。
「あなた、こちらにいらしたの」
 隣に寄り添ってきたのは、妻の芳(ふぁん)だった。赤いシフォンのドレスに身を包んだ芳は、顔にかかる髪の毛を払いながら微笑んだ。目尻の皺や頬の染みに四十年に及ぶ夫婦生活の年輪を刻んではいるが、秀英の愛情は結婚した当時からいささかも衰えることはなかった。妻の献身的な支えがあったからこそ、ここまで来ることができたのだ。
「海はいい。大きくて、優しく、そして強い」
 秀英は太陽を照り返して、あちこちが宝石のように輝く太平洋を見渡した。
「あなたみたいですね」
芳は微笑みで応える。
「私が? 冗談だろう。私には優しさが足りない。社員たちが陰で私をどう呼んでいたのか、おまえも知っているだろう」
「ええ、存じています。始皇帝」
 紀元前二二一年に中国統一を成し遂げた、最初の皇帝の名だ。秀英は上海の小さな町工場に過ぎなかった『上海宝来電子』を、米系電気機器メーカーの力を借りて、中国国内でトップクラスの売上げを誇る大企業にまで育て上げた。その豪腕を称して、社員は秀英を始皇帝と渾名している。そこには敬意とともに、目的のためには手段を選ばない冷徹さへの畏怖がこめられていることも、秀英は知っていた。
「始皇帝ならまだいい、帝辛という呼び名もあるぞ」
 暴虐な政治を行なって殷王朝を終焉に導いたとされる帝の名前だ。こちらには敬意の欠片もなく、たんに憎しみだけしかこめられていないだろう。
 妻は手の甲を唇に近づけ、うふふと上品に笑った。
「もういいじゃないですか。あなたはずっと戦ってきたんですもの。人の恨みを買うようなことも、あったでしょう」
「恨みだらけだ」
 振り返ると自分を憎む顔しか浮かんでこないのは悲しい。しかしそう感じるようになったのは、ごく最近になってからだ。社長の座を息子に譲り、引退するまでは必死だった。他人に情けなどかけては、生き残れないと思っていた。会長になって悠々自適の生活を送るようになった今、かつて容赦なく斬り捨てた人間たちはどうしているだろうかと、よく考える。
 手すりに置いた手に、妻の手が重なった。その温もりに心がほぐれ、思いがけず涙が溢れそうになる。
「大丈夫。あなたを恨んでいる人もいるでしょうけど、あなたに感謝し、あなたを必要としている人も、それ以上にいますから……その筆頭が、私です」
「芳……」
「本当のあなたが優しい人だということを、私はよく存じています。ですからずっと、あなたについてきたんです」
 瞳を潤ませる秀英に、妻は柔らかく頷いた。
「それに見てください、これがあなたの成し得たものです。この船こそが、あなたの人生が正しかったという証明です」
 芳は眩しいものを見る目つきで、サイドデッキから船内を振り返った。窓の中ではきらびやかなシャンデリアの下で、ドレスアップした乗客が優雅に食事をとっている。
「本当に素晴らしいわ」
「航海は楽しんでいるか」
「ええ、もちろん。こんなに素晴らしい船をあなたが作ったなんて、信じられない」
「おれが作ったわけじゃない、金を出しただけだ」
「でも、設計の段階から、いろいろと注文なさっていたでしょう」
「まあそうだな……この船は、おれの夢の結晶だから」
 秀英にとって、豪華客船の建造は悲願だった。
 中国船籍のクルーズ客船『宝来号』は、秀英が社長を務めていた『上海宝来電子』が多額の出資をして建造された。総重量四万トン、全長二三〇メートルという規模の客船を建造できる企業は、世界にも多くない。巨大クルーズ客船建造の市場は、欧州大手四社の寡占状態だ。
 中国人の手による、中国船籍のクルーズ客船で世界一周旅行を。
 クルーズ客船で世界じゅうを旅することが唯一の趣味だった秀英がはっきりと夢の方向性を定めたのは、「洋上の宮殿」と形容される世界最大の英クルーズ客船『クイーンメリー2』に乗船したときだった。並走するクルーズ客船が玩具にしか見えない巨大さに圧倒され、贅を尽くした豪華な内装にため息を吐き、よく訓練された乗組員たちの提供するサービスに感動した。それゆえ、ひと回り小さい『宝来号』も、基本的なデザインは『クイーンメリー2』を踏襲している。遠目に見ればどちらかわからないほどそっくりな外観が、世界じゅうのクルーズ客船マニアから批判されていることは知っていたが、まったく気にはならなかった。好きだからこそ真似るのだ。憧れの俳優やミュージシャンの服装を真似る心理と、どこが違うというのか。
「移動する三ツ星ホテル……」
 妻が夢見る少女のように呟いたのは、秀英が進水式で『宝来号』を讃えるときに使った表現だ。あのときも、感極まって瞳が潤んでしまった。最近とみに涙腺が緩くなっものだと、秀英は苦笑する。
「まさしくその通りだと思います。これはただの船じゃない、最高のサービスを提供する三ツ星ホテルだわ。ずっとここにいたい。もうすぐ旅が終わってしまうのが寂しいもの」
「そうだな。しかし、無事上海に帰ることができれば、中国初の快挙だ」
 これまでに中国製のクルーズ客船が、世界一周旅行を行なった前例はない。もしもこの快挙が大々的に報じられれば、右肩上がりの経済成長の中で湯水のように金を使うニューリッチたちは、こぞって『宝来号』に乗船するだろう。
 第一線を退いてはいるが、鋭い経営者の嗅覚はまだ衰えていなかった。たんなる夢の実現ではない。莫大な金を生み出すチャンスへの投資でもあった。
上海を出航した『宝来号』は、シンガポール、南アフリカのケープタウン、スペインのバルセロナ、イタリアのナポリとベニス、トルコ・イスタンブール、ポルトガル・リスボン、アメリカのボストン、ニューヨーク、パナマ運河を経てメキシコのアカプルコと各地に寄航しながら、世界を一周する予定になっている。
百日以上に渡る旅程も、もう残りわずかだった。九日後には最後の寄港地である横浜に寄港し、翌日には上海に向けて出港する。上海では市長も出席のもと、華々しい式典で迎えられることになっている。
『上海宝来電子』出資による豪華クルーズ客船『宝来号』、世界一周旅行から無事に帰港、我が国建造の客船としては初の快挙――。
 中国中央テレビのニュース映像に映し出される『宝来号』の勇姿を想像して、秀英は昂る気持ちを抑えられなくなった。
「芳、踊ろうじゃないか。昔みたいに」
 秀英は妻の手をとり、抱き寄せた。
「なにをおっしゃるの……こんなところで」
 芳は戸惑う様子を見せたが、腰に手をまわしてステップを踏むと、しっかりついてくる。
「今までおれを支えてくれて、ありがとう」
 リズムをとりながら感謝を告げると、妻は微笑みを浮かべた。唇の端がわずかに震え、心なしか瞳が潤んでいる。
 間違っていなかった、おれの生き方は、おれの人生は――。
 秀英は目を閉じて身体を揺らし、ゆったりと幸福に身を委ねた。

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……長っ!!
読むの疲れちゃいましたね。
まー僕自身はコピペしてるだけですけど。
これは三稿の段階で削除したパーツです。
李夫妻がその後物語に絡んでくることがないということで削除になりました。
ところどころの情報を本編に挿入しているのがわかると思います。
入稿には至っていないので、誤字なんかがあってもご容赦くださいませ~。





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