パンチドランカーに成り果てた矢吹丈が、
世界チャンピオンと戦うっていうことは、
死にに行くようなもの。試合直前の
控え室で、これまでことごとく
敵対していた白木葉子が告白する。
「すきなのよ矢吹くん、あなたが‼︎
すきだったのよ…
最近まで気がつかなかったけど。
お願い!わたしのために、わたしのために
リングに上がらないで‼︎」
葉子の思わぬ告白に驚きを隠せずに
いるも、矢吹は、自分が本当にやりたいこと
本能に純粋に向き合って、こうつぶやく。
「リングには世界一の男、ホセ・メンドーサが
おれを待ってるんだ。だから、いかなくちゃ…」
「ありがとう…。」
…
世界チャンピオンのホセ・メンドーサは
とても紳士的で、家族思いで、全てを
持ち合わせた、幸せを絵に
描いたような人物。彼のボクシング自体も
スマートにスピーディーに相手を倒す。
そつがなく、クールでカッコいい戦いっぷりだ。
一方、矢吹丈は本能剥き出し。
がむしゃらに泥臭く相手と対峙する。
いくつもの挫折を繰り返し、自分の心との
葛藤に明け暮れる。そこにはボクシング一色の
生活しかない。遊びも恋愛もない。
この両極にいるような2人の試合が始まる。
…
この試合の場面が、何かの折にふと
蘇ってくることがある。それだけで
目頭が熱くなる。涙目になっている。
チャンピオンからのパンチを何度も何度も
浴びてリングに倒れこむ。
繰り返し、繰り返し。一方的な展開だ。
チャンピオンは、これでジ・エンドって
何度も思った事だろう。
それでも矢吹は必死に立ち上がり、
這い上がってくる。これでもか、と。
しつこい…。なんでこいつは立ち上がって
くるんだ。もう終わらせよう。
ラウンドを重ねるごとに、微妙なズレが
生じてくる。ヒットしていたホセのパンチは
急所をはずれ、逆に矢吹のパンチが
ホセの顔面を捉える。
ボロボロの矢吹が反撃に出てきたのだ。
これを書いてる今も思い出すだけで、
ジーンとして鳥肌が立ってくる。
自分の記憶から引っ張り出しているので
正確なストーリーではないかもしれない。
ただ、自分の中にあるホセ対ジョーの
試合は解釈はどうであれ、根底に流れて
いるんだ。大きな者に立ち向かう勇気。
そして、それ自体を心底楽しむ心。
見せかけの楽しさではなくて、「一瞬」の
輝きを掴み取ること。
言葉にするととても薄っぺらく
感じるんだけど、これは言葉で伝えるべき
ものではなくて、キャラクターの表情とか
台詞、コマの動かし方、間の取り方、
そして、壮大なるストーリーから
それぞれのひとがそれぞれ感じ取る
ものなのだと思う。だから間接的には
絶対に伝わらないもの。
試合は最終15ラウンドが終了し、決着つかず。
判定に持ち込まれる。
あのクールでカッコいいホセ・メンドーサの
顔は老人のごとく疲れ果て、白髪にすら
様変わり。ヨロヨロと立っているのがやっと。
試合を終えた矢吹はセコンドに葉子を
呼び、戦っていたグローブを彼女に託す。
あんたに持ってて欲しいんだ、と。
そして、矢吹の、真っ白な灰になった、
っていうあの最終ページ。
…
東京ソラマチ開催の
「あしたのジョー展」を観て。
語り尽くせない。
子どもの頃に読んだ漫画っていうのは
「自分」を形成する上で大きな大きな
意味を持ってる、ってことに大人に
なって気がつくもの。



