「祖国と青年」6月号、今月の主張 | 月刊誌『祖国と青年』応援ブログ

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青木聖子とその仲間たちが、『祖国と青年』や日本協議会・日本青年協議会の活動を紹介したり、日々考えたことを綴ったりします!
(日本協議会・日本青年協議会の公式見解ではありません。)

 「祖国と青年」6月号の巻頭言は、「『緊急車両の燃料不足はデマ』への反論」と題して、大葉勢清英さんが書かれていますので、以下、ご紹介します。



 深刻だった緊急車両の燃料不足


 今年の五月三日前後は例年以上に憲法論議が高まりを見せ、大規模自然災害などから国民の命と安全を守るための「緊急事態条項」の必要が各地で主張された。


 東日本大震災では、直接の地震や津波で亡くなった方以外に、震災関連死で一千六百三十二名の方が亡くなった(復興庁)。関連死の主な理由は特に燃料に関するものが多く、当時の政府が、災害対策基本法に基づく「災害緊急事態」を布告し、生活必需物資の統制や業者への命令を可能とする「緊急政令」を出していれば、かかる犠牲はもっと抑えることができたはずだ。


 しかし、法律だけに基づく私権の制約は、憲法違反とされる恐れがあり、政府は布告を躊躇した。緊急事態に際し、既存の法律が十分に適用されるためにも、憲法への緊急事態条項の明記は喫緊の課題である。


 一方、憲法改正反対派は、緊急事態条項の議論を封じるために、悪質なネガティブキャンペーンを展開している。特に四月三十日、「憲法公布七十年『緊急事態条項』は必要か」と題して組まれたTBSの報道特集は、「東日本大震災で緊急車両が燃料不足に陥り、人命が失われた事実はない」とし、推進派の意見はデマだとした。同種の反対論は他でも散見されるため、以下、反論しておく。


 TBSは、「岩手・宮城・福島の被災三県にある全三十六の消防本部に取材したところ、燃料不足によって救急搬送できなかったという回答は一件もなかった」と報じ、さらに『まんが女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』を取り上げ、「被災地では救急車などの緊急車両でさえガソリンが足りなくなり、本来なら救急車で運ばれて助かったかもしれない多くの命が亡くなった」との記述は誤りだと指摘した。


 今回のTBS報道は消防本部への取材のみを根拠としているが、「燃料不足によって救急搬送できなかったという回答は一件もなかった」ということだけで、それがそのまま事実であり、「関連死はなかった」と断言できるのか。


 復興庁がまとめた資料「震災関連死の原因として市町村から報告があった事例」(平成二十四年八月二十一日)には、「交通事情による初期治療の遅れ」の具体例として「救急車を呼んだが、ガソリンがなく自力で運ぶよう要請があった」と報告されている。


 また、『岩手県東日本大震災津波の記録』(平成二十六年一月十七日)には、「陸前高田市及び大槌町で全てのガソリンスタンド(以下『SS』)が流失するなど、多くのSSが被災し、発災直後は、避難所の暖房用燃料や消防・救急等の緊急車両への給油が行えないひっ迫した状況であった」とも記されている。


 これらの資料からも、ガソリン不足で現地に行けなかった救急車が存在したことは明らかである。


 また、緊急車両が燃料不足に陥った事例として、仙台市の『東日本大震災 仙台市の被災状況』(平成二十四年十二月)には、「迅速な対応を阻害した要因」の第一に「燃料の不足」が上げられ、「非常用発電、緊急車両・公用車・作業車の燃料、避難所の暖房のための燃料が払底」とある。


 燃料不足は、避難所や病院でも大きな問題となった。


 例えば、約三百人が避難していた大槌町の安渡小学校では燃料不足でストーブが二台ほどしか使えず、高齢者や乳幼児、海水を飲み肺炎を起こした被災者らが次々と高熱を出し救急車で運ばれた(「岩手日報」平成二十五年一月四日)。


 「ガソリン不足で起きる震災関連死」の特集を組んだ「週刊日本医事新報」(№四五四八・平成二十三年六月二十五日)において、上田耕蔵氏(神戸協同病院長)は、孤立した病院などで「水や食糧の不足だけでなく、暖房なし、停電によるエアマットの停止、痰の呼吸困難の状況等が続き、少なくない方が亡くなられました」と述べている。


 緊急政令が出ていれば回避できた事例


 災害対策基本法に基づく「緊急政令」が出されなかったことにより、被災地への燃料供給をめぐり、様々な弊害が起こっている。


 例えば、海江田経産相が、震災から六日後の三月十七日、タンクローリー三百台の確保を明言したが、二十一日段階で手配ができたのは二百台足らずに留まった。岩手県知事が強く燃料を求めても、西日本で十分流通している燃料は被災地に届かず、県は地元の石油元売り各社に頭を下げ、自前で確保するしかなかった。


 また、県外から支援物資をトラックが届ける際、被災地で給油できなければ戻れなくなることから、全日本トラック協会は、「物資を輸送するトラックに確実に燃料を供給できるようにしてほしい」と国に申し入れた。ところが、国土交通省は、「何とか解決策を見出したいが、まずは石油業界とトラック業界が話し合ってもらわないと」と回答し、政府が率先して燃料確保に乗り出す姿勢はなかった。


 また、政府は三月十六日、福島県のいわき、相馬、田村、南相馬各市に緊急避難用ガソリンのタンクローリーによる運搬を開始した。しかし、放射能を恐れた運転手側の要望でトラック約四十台が郡山市でキーをつけたまま乗り捨てられる事態となった。このため、福島県は、県内で自衛隊や県石油商業組合などにドライバーの確保を要請しなければならなかった。


 これらは、国が「災害緊急事態」を布告し、生活必需物資の統制や業者への命令を可能とする「緊急政令」を出していれば起こらなかったと思われる事例である。想定外の大規模自然災害の到来も否定できない今日、緊急事態条項の新設は喫緊の課題である。