(和歌山県和歌山市 和歌の浦)

 

【原 文】

    高 野
 ちちははのしきりにこひし雉の声
 ちる花にたぶさはづかし奥の院   万菊
    和 歌
 行春にわかの浦にて追付たり
    きみ井寺


【意 訳】
   高 野
 ちちははのしきりにこひし雉の声
 ちる花にたぶさはづかし奥の院   万菊

   和 歌
 行春にわかの浦にて追付たり
   紀三井寺 


【注 釈】
〇高野…和歌山県北部、伊都(いと)郡高野町にある古義真言宗総本山・金剛峯寺。空海の開山。標高800メートルの山上盆地にひろがる一大宗教地帯。弘仁7年(816)、嵯峨天皇より空海に下賜された。
〇〈ちちははの~〉…行基(668~749)伝の高野山の和歌〈山鳥のほろほろと鳴く声きけば父かとぞ思ふ母かとぞ思ふ〉を踏まえた一句。古来、詩歌に於いて「キジの声」は亡き父母の声を想起するものとされていた。

※参考

 

〇〈ちる花に~〉…「たぶさ」は髻(もとどり)。髪を頭の上に集めて束ねたところ、またはその髪。 

〇和歌…和歌山県北部、和歌山市南方の海岸、和歌の浦。『万葉集』以来の歌枕。西行が雨を降り止ませた逸話でも知られる。

 平安時代より高野山参詣帰りの立ち寄り地として人気があった。

〈若の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴(たづ)鳴き渡る〉山部赤人『万葉集』巻6・919
〇きみ井寺…紀三井寺。和歌の浦東岸、真言宗(現在は救世観音宗総本山)・金剛宝寺護国院。伝・宝亀元年(770)開山。山内に湧く三井水(さんせいすい:吉祥水・清浄水・楊柳水)が俗称の由来。名草山の中腹にあり和歌の浦を一望出来た。(前書きだけあり句は未掲載。)