若人のすなる遊びはさはにあれどベースボールに如く者はあらじ
(わこうどの すなるあさびは さわにあれど ベースボールに しくものはあらじ)
正岡子規
今日は一つだけ仕事して、昼ごはんの為の駅前スーパーに行く。
気温は20度ありそうだが台風並みの大風が吹いている。
まったく気づかなかったが、今日は海辺でマラソン大会が行われたようだ。
「北下浦ふるさとマラソン大会」という大会で、最長でも10キロマラソンという気軽なマラソン大会である。
毎年、「来年こそトレーニングして参加しよう」と思うのだが、すぐに忘れてしまい、まだ一度も参加していない(笑)。
この大会のユニークさはマラソンの他に「SUP大会」も行われることだ。
「SUP」とは「スタンドアップパドルボード」のこと。
(写真は「瀬戸内・上島町で離島エコツーリズム」のHPから)
が、これは今日の強風による波浪の為、中止となったようだ。
いかにも海辺のマラソン大会らしく、なかなかいい企画だ。
この「SUP」もぜひやりたいと思っているのだが、まだやっていない。
私はいつでも「口」ばっかりだ(苦笑)。
昼ご飯を食べつつ「ドジャース対韓国プロ野球チーム」の試合をテレビで見ていた。
こうして休日の午後に野球中継を見ながらのんびりするのは何十年ぶりだろう。
今日は大した仕事をしていないが、まあ、いいだろう。
冒頭の短歌は正岡子規が「野球」(ベースボール)を詠んだもの。
子規は明治時代に輸入された「ベースボール」をいち早く取り入れ、元気だった頃、熱中した。
没後100年の平成14年、子規は「野球殿堂入り」を果たしている。
草茂みベースボールの道白し
夏草やベースボールの人遠し
などの句を残している。
〈夏草や〉の句は東京都の上野公園に子規記念野球場というのがあり、句碑が建っている。
打者、走者、四球、直球、飛球
という用語は子規が作っているのだ。
「野球」という言葉も、子規が本名「升(のぼる)」をもじって「野(の)球(ぼーる)」という雅号を使っていたことから、子規が命名した、という説があるが、最初に命名したのは第一高等中学校の野球部員・で中馬庚である。
が…、子規が「野球」という雅号を使ったのは明治23年(1890)、中間が「ベースボール」を「野球」と翻訳したのはその四年後(1894)。
中間は野球部の「部史」を刊行し、そこで「野球」という翻訳を発表したのだ。
子規が「野球」という言葉を「ベースボール」の和訳として、文章で発表したり、俳句で詠んでいれば、子規が命名した、ということとなっただろう。
ただ、上記のように、子規の野球を詠んだ句や短歌を見ればわかるが「野球」という言葉は使われていない。
子規は「ベースボール」=「野球」という認識はまだ持っていなかったのではないか、と考えることが出来る。
実際、子規は明治29年(1896)に新聞『日本』の子規の随筆『松蘿玉液』で
ベースボールいまだかつて訳語あらず
(「ベースボール」に未だ日本語に訳した言葉はない)
と書いている。
このことから子規は「野球」の名付け親ではないことがわかるのだ。
〈若人の…〉の短歌だが、「さはに」は「多に」であるから、
若者の楽しむ遊びはたくさんあるけれど、野球より面白いものはない。
という事になるだろう。
たいした歌ではないが、実に健康的で、子規の熱中ぶりが伺えて、読んでいて楽しい。
ちなみに高浜虚子と子規の出会いも「野球」である。
虚子は子規とは「出会い」を『子規居士と余』というエッセイで書いている。
松山城の北に練兵場がある。
ある夏の夕其処(そこ)へ行って当時中学生であった余らがバッチングを遣っていると、其処へぞろぞろと東京がえりの四、六人の書生が遣(や)って来た。
(略)
「おいちょっとお借しの。」
とそのうちで殊(こと)に脹脛(ふくらはぎ)の露出したのが我らにバットとボールの借用を申込んだ。
(略)
他の東京仕込みの人々に比べあまり田舎者の尊敬に値せぬような風采であったが、しかも自ら此(こ)の一団の中心人物である如く、初めはそのままで軽くバッチングを始めた。
(略)
そのバッチングはなかなかたしかでその人も終には単衣(ひとえ)の肌を脱いでシャツ一枚になり、鋭いボールを飛ばすようになった。
そのうち一度ボールはその人の手許を外れて丁度余の立っている前に転げて来たことがあった。
余はそのボールを拾ってその人に投げた。
その人は「失敬。」と軽く言って余からその球を受取った。
この「失敬」という一語は何となく人の心を牽(ひ)きつけるような声であった。
やがてその人々は一同に笑い興じながら、練兵場を横切って道後の温泉の方へ行ってしまった。
このバッターが正岡子規その人であった事が後になって判った。
そう考えれば「近代俳句」、そして「現代俳句」は「野球」の恩恵の上に成り立っている、という見方も出来なくはない(笑)。
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