(神奈川県横須賀市長沢)

 

 

天地も動かすばかり言の葉のまことの道をきわめてしがな  明治天皇

(あめつちも うごかすばかり ことのはの まことのみちを きわめてしがな)

 

 

強力な台風が近づいている。

朝、早く眼が覚めたので投函がてら海を見に行った。

遠く離れた三浦半島の海も、なにやら不気味な力を蓄えているようだ。

 

上記の和歌は明治天皇の御製。

 

世界を動かすほどの力強い言葉を使いこなすほどのまことの道を極めてみたいものだ。

 

という意味。

 

世界征服か?

帝国主義か

侵略の野望か?

 

などと野暮なことを考えてはいけない。

この場合の天地は「森羅万象」と考えるべきだろう。

 

古今和歌集・仮名序でも、紀貫之は、

 

力も入れずして、

あめつちを動かし、

目に見えぬ鬼神もあはれと思はせ、

男女のなかをもやはらげ、

猛きもののふの心をなぐさむるは、歌なり

 

と言っている。

 

和歌は力を入れずに天地を動かすことが出来る

 

と言っているのだ。

この和歌はおそらくこの古今和歌集の言葉が念頭にあるのだろう。

西行法師も、

 

和歌即真言

(わかそくしんごん)

 

と言っている。

 

いにしえより日本人は「言葉」には不思議な力が宿っている、と信じていたのだ。

 

よく酒の席などで、注目している俳人はいるか? と聞かれることがある。

いろいろな人の名を上げるのだが、その中で、

 

角川春樹

坪内稔典

夏石番矢

 

の三氏をよく上げる。

 

向日葵や信長の首斬り落とす    角川春樹

たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ   坪内稔典

ひんがしに霧の巨人がよこたわる   夏石番矢

 

このお三人、三者三様で、相容れないものがあり、きっとお三人とも「一緒にするな!」と怒りそうだが、この三人には、「写生」だの、「表現」だの「技法」だの、そういうちまちましたものを越えた、

 

言葉の力

 

もっと言えば、

 

言霊(ことだま)

 

を持っている人たちである。

そこが共通している。

 

「言葉」は、正岡子規が「写生」を提唱して以来、「かがやき」や「力」を失い、風景や感情を表現する為の「道具」となってしまった。

「言霊」というと、わかりづらいが、簡単に言えば、言葉の持つ「かがやき」「力」「調べ」を強く意識しているのが三人だと思う。

それは「意味」よりも「優先」されるのである。

春樹さんなどは、

 

現代俳句に「言霊」を復活させた人

 

と私は言っている。

問題はそれが一代で終わってしまうかどうかだ。

 

「写生」はあくまで表現の一手法。

簡単に言えば、

 

よく意味はわからないけど、なんだか「言葉」がキラキラしている、圧倒される。

 

これはこれを意味して、これはこういう意味で…と解説出来てしまう詩歌はつまらない。

松尾芭蕉の、

 

古池や蛙飛び込む水の音

 

のように、うまく説明できないけど、なんかいい、という俳句。

かっこよく言えば「説明」「解説」を固く拒否しているかのような俳句。

そういうものこそ最上と置くべきである。

 

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