(兵庫県高砂市高砂神社 相生の松)
たれをかも知る人にせむ 高砂の松もむかしの友ならなくに 藤原與風(『小倉百人一首』)
【意訳】
知る人はみな相次いで世を去ってしまい、私は誰を友としたらよいのだろう。
私のように年老いた、高砂の松も、昔の友のかわりになるわけではないのだし…。
歩き旅をすると、その地の「地名」について考える。
もちろん、勝手に考えているだけで、正解かどうかはわからないし、検証もあまりしない。
ただ、歩きながらぼんやり考える…、そういうのを歩き旅の楽しみとしているのである。
例えば「今川」「今宮」「今津」「若宮」など、「今」「若」という字は「新」をあらわしていることが多い。
「今宮」「若宮」は「新しい神社」が建った場所、神社が移転して来た場所…、「今川」は開削工事などをして、新しく川が流れた場所…、「今津」は新しく出来た港…、という意味であろう、と考える。
また、「中曽根」「大曽根」など、「曽」の言葉がつくところは「水」「洪水」「堤」などを意味することが多い。
かつて、水害があった場所、つまり、「川辺」を意味することが多い。
まあ、「正解」であるかどうかはわからないが、あとで確認すると当たっていることもある。
もっとも「会津若松」の「若松」は、「新しい松阪」という意味で、豊臣秀吉の時代、伊勢松坂を治めていた蒲生氏郷が、ここに転封となり、そう命名したし、東京都杉並区今川というところは、駿河の戦国大名・今川家が江戸時代治めていたところから「今川」となったし、私がかつて住んでいた埼玉県の「八潮」というところは「潮止」「八幡」「八条」が合併して、頭文字を採って、地名とした。
そういう風になってしまうと、私の頭ではいくら考えても予想は出来ない。
まあ、それでもあれこれ考えるのが楽しいのである。
そんな中、兵庫県姫路の先に「相生」(あいおい)というところがある。
「相生」という地名は日本全国に存在する。
「相生」とはどういう意味だろう?
と昔から考えていた。
上記のような「ヒント」のようなものが何も浮かばなかったのである。
おそらく、
共に生きる
という意味だろうが、どうしてそれが「地名」になった、というのがわからなかった。
先日、姫路へ出かけた時、隣町の高砂市へ行った時に初めて理解出来た。
相生は、
相生の松
のことであろう、と考えたのだ。
「相生の松」とは、
雄株と雌株の2本の松が寄り添うように生え、一つの根から生えたように見える松
のことである。
簡単に言えば「夫婦松」であろう。
調べてみると、兵庫県相生町というのは、それが由来ではないようだが、多くの「相生」という地名には、きっと、かつて、或いは現在も、
「相生の松」があるところ
と予想出来るのではないか。
「一本松」「二本松」「三本松」という地名もよく見かける。
「松」の木は目立つし、元々おめでたい樹木であるから、そこから地名となった、というのは十分考えられる。
ちなみに、写真の松が、兵庫県高砂市の高砂神社境内にある「相生の松」。
この松は五代目で、秩父宮勢津子妃殿下お手植えの松だそうである。
案内板によれば、
その根は一つで、雌雄の幹左右に分かれていたので見る者、神木霊松などと称えていて…云々
とある。
鈍感な私にはさほどの感懐はないが、こういう松は珍しいようで、それだけに「地名」となったのではないか、と考えた。