白鳥の柩の上を鳴き交はす 小島 健
(はくちょうの ひつぎの うえを なきかわす)
健さんはかつてのわが兄弟子である。
今日、なにげなく「河」をめくっていたら、その作品群から、健さんのお父様が亡くなられたことを知った。
こういう言い方はいいのかどうか知らないが、感心した。
雪晴の中へ棺の浮きにけり 小島 健
亡骸の呼んだか真夜の雪起し
雪の葬海軍流の挙手もあり
喪ごもりの日々や越後は雪ならむ
春の雪仏間明るくなりにけり
同時作である。
圧巻だと思った。
健さんは新潟県上越、(高田だったか?)の生まれ。
雪国の生まれである。
私は健さんの越後を詠んだ句が好きである。
手元に句集がないのでこまかく引けないが、
邪鬼踏んで眼ひらけり夏景色
これはおそらく、越後の英雄・上杉謙信の信仰した毘沙門天を詠んだもの。
畦塗つて弥彦へ泥を飛ばしけり
これは越後の神の山・弥彦山麓の畦塗りの風景。
越後の風土が豊かに眼前に広がってくる。
この作品群も父を悼む心と、越後の風土が豊かに、そして哀切に溶け合っている。
掲句。
新潟は白鳥飛来の有名地である。
雪に埋もれた越後の平野へ、今、柩が厳かに送り出される。
その上を白鳥が鳴き交わしているのである。
その声は、
慟哭の声
として、作者の胸に迫ったことだろう。
古代、「しらとり」は亡くなった者の魂の化身である、と信じられていた。
そう考えれば、その声は、父の声そのものだったのではないか。
越後は私がもっとも敬愛する上杉謙信の地である。
東京で生まれ、それを誇りとしているが、こういう句を読むと、この豊かで美しい越後の雪の里に生まれた作者をうらやましく思う。
まさしく「挽歌」である。