薄氷の終はりはいつも火のごとく  加藤かな文(かとう・かなぶん)


「家」所属。
愛知県生まれ、愛知在住。
文章にも長けた40代の精鋭である。

「薄氷(うすらい)」は、水たまりやバケツに張る春の薄い氷のこと。冬の場合は寒さが厳しいので「厚氷(あつごおり)」である。

この句の感覚の冴えは素晴らしい。
凄まじささえ感じる。

一般的に感覚を全面に出す作品は、感覚に頼りすぎるためか、本格的な写生句と較べると一句の立ち姿が弱々しく、重量感が足りないのだが、加藤氏の作品は、感覚の冴えを存分に発揮しながら、迫力もあり、すっきりとした立ち姿になっている。
技術的土台をしっかりと鍛えた上での観念であるからだろう。

薄氷は日が高くなるにつれ小さくなり、水面を漂っていたりする。
そしてゆっくりと解けて消えてゆくのだが、その氷が消滅する瞬間を「火のごとく」と捉えた眼は鋭い。
まるで消滅した瞬間に煙が立ちあがっているかのような光景が眼前に浮かんでくる。

この句、「いつも」という、曖昧な表現ゆえに感覚句、観念句となっているが、それ以外は、厳しい写生眼によって支えられている。

「いつも」という表現を“感覚の冴え”と見るか、“写生から逃避した安易な表現”と見るかは、見解の分かれるところだが、現代の新しい表現感覚に充ちた作品である。