『確か偏差値というのは50を基準とした分布指標だったはずだ。
 この32という数字は定義上ありえるのか?』


家庭教師をはじめた時、その生徒の成績を見た時の正直な感想だった。


『偏差値を5上げるならばテクニック的なもので解決できるかもしれない。
 が、並の大学に入れるには15以上あげる必要がある。
 これはもう努力とか根性とかでは無理だな(もともとそういうの嫌いだし。)』


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「君は”自分は数学ができない”と言っていただろう。」


「はい」


「実はそんなことはないのだぞ。
 テストの問題ができない、それはただ単に君が”解き方”を知らないだけだ。
 知らない問題が解けるわけないだろう。俺だってそうだ。

 それに関しては安心したまえ。
 俺が教える。俺が教えることによって君は知る。
 だからもう間違うことはない。」


「おお!」


「それにアンタ、見るからに勉強あんまりやってこなかっただろう。
 いかにもスポーツ一筋と言った感じだしな。
 そんなんで成績がよい方がビビる。だって”知る機会”がなかったのだから。

 君がテストの点が悪いのは当たり前だ。だって解き方を知らなかったのだから。
 そしてこれからは大丈夫だ。俺がついているのだから。

 しつこいが、大切なことは”自分はできない”という思い込みを捨てることだ。」



「はい!」



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「この問題集を1ページやれと言っても
 今のアンタの実力ではほぼ真っ白なままで返ってきて
 ただ自信を失うだけだな。

 そうだな、では、今からこの1問を俺が問いてみせよう。
 その後すぐ『まったく同じ問題を』そのまま1人で問いてみろ。
 ”解き方”を知っている君が解けないはずがない。わかったか?」


「はい!」



・・・・


「先生、解けませんでした…」


「まぁな。人にやって見せてもらうのと自分でやってみるのはぜんぜん違うもんだ。

 では、俺に説明してみろ。

 君はどうやってこれを解こうとして、それがなぜ破綻したのか。」


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「宿題。

 この1ページ出しても君もやるのめんどくさいだろう。
 …というか俺がそんな宿題出されてもやらないで来週謝ってすます。

 ということで俺は今から帰るがアンタはこのまま机に残って
 コレとコレとコレ、この3問を解く。

 俺がクルマで家につくまでだいたい30分ぐらいかかるから、
 それまでやって、終わったら俺にメールくれ。
 それやったら来週まで俺のことも、宿題のことも、
 アタマからキレイさっぱり消しさってもらってかまわん。」


「ええ!そんなんでいいんですか!」


「わからん問題に何時間 うなってもわからんし、
 だいたい何時間もうなるようなパーソナリティじゃ君も俺もないからな。

 数やる奴は言われなくても勝手にやるしやらん奴は殺されてもやらん。
 俺も君も「30分ぐらいの残業」ならばやると思っただけだ。

 それぐらいならばやるだろう。」


「はい! 家庭教師の先生、何人もきましたが先生みたいな人は初めてです!」


「俺は現在進行形で勉強ができない先生だからな。
 アンタ達の気持ちがよくわかる。
 できるだけ努力も勉強もしたくない、させたくないのだ。」




気が向いたら後編を書きます。