近藤浩一路と墨
墨の色とは不思議なもので墨に五彩ありというが
それどころか無限の色合いを持つのが墨の力である
同じ墨を用いても微妙な色合いを紙面に醸し出すことが面白い
墨は古墨のものが貴重だが中国の明や清の良い墨を使うことなど大変なことで
現在の日本や中国でもこれらを探すのは困難である
大正や昭和の初期までは中国から良い文房具を日本に売りに来る業者がいた
日本にも文人を代表する長尾雨山のような人もいたし
犬養毅のような政治家でさえも文房具に興味があった
写真は私の好きな日本画家の近藤浩一路の作品の一部である
彼は東京美術学校の西洋画のクラスで藤田嗣治や岡本太郎の父の岡本一平と同級である
彼はアンドレマルローにも称賛される画家であるが彼の底知れない力量が日本ではあまり評価されないのが残念である
国立近代美術館にある鵜飼六題などをじっと見ているといかに彼が墨色の研究をしているかがわかる
彼は明墨の状態の良いものしか使わなかった
墨は私も経験があるが膠が勝負で何百年経っても膠の良いものを使っている墨匠の墨は今も新鮮な趣がある
近藤浩一路の妹は建築家の白井晟一の妻であり昔白井晟一の書の豪華本を手に入れた感動は今も忘れない
近藤浩一路は自分の収集した墨を三井の金庫に保管していた
墨は湿度や温度の状態に敏感であるのでこれは名墨を守るのに大切なのだ
お金や金を金庫に預ける人はいるだろうが書の墨を預けた人はまずいないだろう
本当の芸術家とはそのくらい使う道具にも気を遣うものだということを私はいつも自戒しているのである