書を読み解く
この書は私の好きな新派の名優花柳章太郎の文字である
俳句の一部を写真に撮ったものだが
帯揚げの朱つまり着物の朱色の帯揚げについて書いた文字である
実はこの四文字を見ただけで花柳章太郎が書の真理を理解していたことがわかる
まず一文字目の帯の上部だがたっぷりと墨をつけ大ぶりに書いており
下部はのびのびと明るく書き巾で小さく締め明るさを出している
二文字目の揚の文字はてへんの一画目は小さめにして縦線は強くしっかりとはねており三画目は筆を逆から入れて一気にはねている
そして間をあけ右の部分は上にあげ短めの線で可愛らしく上品に収めている
三文字目ののは変体仮名の能の字で小さめに納め周りに空間を開けていることに役立っている
この空間の効果が抜群であり
四文字目の朱の文字は軽い調子だが中心が安定しており右左の点は力を抜いてリズム的に筆なりに書いている
良寛の書をよく見ると自然の流れだが文字の構築が確かで章太郎の二文字目のてへんなどは良寛の雰囲気を醸し出している
花柳章太郎は書家ではなく俳優であるのにこれだけの書を残したのである
彼は着物のデザインからろうけつ染めガラス絵日本画俳句などすべてに精通していた
女形として優れた光を放った彼は間の絶妙さを全ての芸術から吸収し書においてもこれを見事に表現したのである
谷崎潤一郎と花柳章太郎は心の底でいつも対立していたと想像するが異常なまでの美意識とセンスを持ち合わせていた二人だけにこれはよくうなずけるのである
坂東玉三郎さんは現代では花柳章太郎の神髄を違った面で受け継いでいる人かもしれないが
時代に生きることの違いとは芸術の啓蒙にはなかなか難しい課題なのである