白と黒
この単純なモノトーンにこれまで何年も、きっとこの先ずっと悩み、惑い、苦しみ、苛立ち、自信をもぎとられ、また喜びに歓喜し振り回されていくのだろう。
純白の和紙に黒々とした墨を含ませた筆を静かに降ろす。
その瞬間から白と黒の世界が存在をはじめ、今までにおのれが積み重ねた経験と技術、感性などを呑み込みながら無限に広がっていく。
やり直しはきかず。積み重ね、吸収してきたものが容赦なくそのまま顕れ、決して誤魔化すことができない文字のひとつひとつに毎度一喜一憂する。
遠いむかし、時は安土桃山時代。織田信長、豊臣秀吉に仕えたとされる茶人千利休という人がいた。
この利休という方は…と話が長くなるので割愛させていただくが、彼は空間を捉える感覚に丈ていた。
限られた狭い空間の中で優雅な時を過ごせるよう様々な功夫を凝らしておられたと思う。世にいう侘び寂びの心。
茶道は空間、もてなし、華・書道といった全てをプロデュースする総合芸術と云われている為、僕はその類の方々に何度もお世話になってきた。
この空間の意識こそ書道に於ける余白の美に繋がると思ったから。
最初は黒い書線を見て次第に白い余白に眼をやり其処を観ていく。その観点からまた己が墨跡を眺め、気がつけば無限のループに陥りその都度自分の無力さに愕然とする。
「茶の湯とは一ではじまり十を知り
十から戻る元のその一」
これは彼が詠んだと云われる歌であるがなかなか味わい深い。
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