七色遠景 -24ページ目

感情と言葉

この間、深夜番組で作家の小川洋子さんが
「言葉に出来ないほど切ない」
「言葉にならないほど恋しい」
というような「言葉に出来ない思い」を伝えるのが作家の役目、だと言っていた。
その番組では、それの例として、
佐野元春さんやサザンの桑田さんの歌詞を紹介していた。
確かに大切な気持ちほど、伝えたくても言葉に出来ないもの。
最近、言葉に出来ないような感情に突き動かされることが
殆ど無くなった。
あると言えば、何となく言葉に出来ない憂鬱や焦燥感。
それを言葉にするのは上の切ない感情たちより、ずっと簡単なのだけれど。
言葉にしやすい怒りや悲しみの感情だけが、自分を取り囲む。
どんどん単純な、薄っぺらな人間になっているようで。
そういえばここ数年、昔よりずっと人間関係も希薄。
見栄えのいい写真と大きな文字だけの薄っぺらいパンフレットみたいな
「え、これだけ?」みたいな人が近頃多いと思っていたけど
自分もそうなりつつあるのかな。
現代化。行間の無い言葉。言葉にならないほどの感情も持て余していない。
ハンディサイズの気軽な喜怒哀楽だけ。
希薄な人間関係。うわべだけの友達ごっこ、恋愛ごっこ。

言葉に出来ない思いは、何処に閉まってあるんだっけ・・・。

誕生日に歌う


手を挙げて声を出せ


何の思想にも囚われない傭兵の目をして走れ

乾いた土に這って進め

土塊を舐めて唾液を吐き出せ

戦争のヴィジョンが誕生日を祝う

日曜の朝に戦車はゆっくりと

かたつむりみたいに横切る

中東の空爆ですら踊りを忘れた火花

疲れた朝の飛蚊病みたいに網膜に浮かぶだけ

借り物の部屋で目覚めた朝に

借り物の幸せが

今朝はいつもより痛い痛い

いつだって彷徨える魂の

自らが矛先になってるけど

今朝は痛い痛い

すべてが足りていて

何もかもが足りない

誰も責めないのに

誰からも責められている

誰も此処を知らないから

誰にも秘密に出来ない

ずっと足りなければ手をつけていた

手癖の悪い小娘のように唇噛んだ瞬間

蛍光ピンクにきらめくキャンディをくすねては

真実を忘れたのに

今朝はもう借り物の温もりすらない

桜が咲いても観には行かない

それは戦争と同じヴィジョン

画素が荒いか細かいかそれだけ

それに気づいた夜明け前の

アスファルトに滑る車以外の静けさが

フローリングに投げ出した歪んだ爪先の冷たさが

耐えられないと呟いても

また今日も誰も自分を知らない世界に生きている

誰も知らない此処の世界で

戦争を観てる

嗚呼

手を挙げて声を出せ

傭兵の目をして走れ

もっと速く


もっと速く


(2003年春に)

ちいさなバイキング


戸惑いは45度のカーブ
誰もが見つけられないオーブ
白い雪の中でいつまでも
発見されない冒険家
君の行く末はライト
青空に浮かぶカイト
どこだって行ける筈さ
海賊船でいつまでも
帆を揚げ漂うバイキング
どこまでも君の水平線さ

僕の夜はダーク
暗闇の中でチーク
白いシーツの中にそっと埋もれた
遭難者を助けようとしてボーク
戸惑いを隠し切れずに
抱きしめたちいさなバイキング

VIRGINITY


この体躯は
指紋だらけのくびれたグラス
彼等の手で触れて品定めされるごとに
媚態を覚えた 猜疑を覚えた 欺瞞を覚えた
今夜も熱帯夜 指紋の渦巻き

自虐の泥はいつまでも
この体躯から 拭い去られることなく
独りきりでも 誰かといても 
絶えず自らを自らの言葉で 汚し続ける

熱帯夜 手で触れられるものは僅か
その中で確かなものは皆無
熱い闇に零れる 言葉の中に
あの あらかじめ失われた白い花を 
いつだって 見ようとしていた
澄み渡る高原に咲いているような
あらかじめ失われていた
小さく淡き白い花
指紋の渦巻きは
今夜も 誰の汗と吐息と唾液で
泥の舟の中に溶けてゆく
緩やかに闇の波に呑まれて沈む 泥の舟

自分の子が天使になったと
いつまでも信じる娼婦のように

今夜も また探してしまった
あの白い花
もう探さないと 
こんなにも決めたのに

人魚

人魚は 地上を ひとりで立って歩ける脚を貰うために
海底に響く 船を沈没させるほどの歌声を
魔女に売った
大海原を自由自在に泳ぐ 虹色に輝く鱗の撓る体
その魚の要素を売った
わたしは 地上を ひとりで立って地面を歩けるために
ポケットに入るくらいの 使い道のない感性を売ろう
この地上で生きていくには 無益
この声を響かせても その不安定な波に沈没していくのは わたし自身だし
夢想の海原を自由に泳げても
その歓びを 形にする力が足りない

歌声は 海底に沈めて
詩を知らないふりを 続けよう
詩を知っていても この街は歩けない
水泡になる 勇気があるなら
歌いつづけるけれど
自らの体が 情緒のうたかたに消えるまで
歌いつづける 価値はないし
人魚のようには 誰も欲しないし
誰にも羨まれないし
売る価値もない歌声

もし魔女がいるのなら
このちっぽけな 魂の代わりに どうぞ普通に歩かせて