ピンポールカメラ
山で何をなくして
何を拾いたいのか
沸き上がるガスの中で
腐食されたピンポールカメラの針穴から
無制限に引き延ばされた二重写しの峰々
山肌と貴女の 心の襞に立てば
何時か何処かで 記憶の冬の谷に
埋没した合言葉が 蘇生する
ああ 山で 何を失くして
何を拾いたいのか
やがて貴女は
群青色の変色した
都会に帰ってゆく
ひとりで いつも歩いている
誰にも聞かれない
言葉の持ち主より
一番遠く離れた登山者
樹皮
暁の天空に
直立する 私
樹に 貴女の名前を
愛の斧で 刻まれ
傷心のケヤキとなった 私
樹皮を剥ぎ
貴女の言葉や 記憶を
ゴミ捨て場の テ―プレコーダーで
再生してみても
不自然に 明るい空を
印画してしまった 私は
冬枯れ田圃の
ガラス氷のような
朝を迎える