街の中を歩いている
自動車に乗っている
駅の階段を昇り降りしている
机の前に座っている
何処にも山の欠片はない
山を放棄した男
頭の中で山に登るんだと云っている男
何時から君はそんな男に
変わってしまったんだ
絶壁の上から
墜落する明日を
見てしまったからだろうか
梶原杉
杉の木を一本
切り倒したら
町が村であった時代を
人々は思い出した
押し寄せる時代の
洪水の中の杉の木は
過去の小宇宙と
対の巨木であったが
テレビ万能の時代には
何処にでもある
大木でしかなかった
今 杉の木は
郷土資料館の玄関で
ローマの勇者の
石弓となって
切株を
晒している