ムスコのガル男
オーボエとサックスで大会に出るの巻、サックス編
オーボエの出番を終えた1時間後、いよいよサックスの出番となった。サックスはオーボエよりも仕上がっていたのでオーボエの時よりはリラックスした表情であった。
演奏20分前にはサックスの先生も到着、その日24人分の伴奏を掛け持ちしていた、今ノリに乗っている人気若手伴奏者もやってきた。
会場に入る前、先生と伴奏者が話していた。「ここのピアノの状態どう?」「なかなかの音・・」と苦笑いの伴奏者。そこでサックスの先生、ジャッジの前に行ったら、まず、チューニング作業をしよう、と言い出し、コンサートAで合わせるから、とガル男に言った。
いよいよガル男の出番。
すぐに音の調整に入る。すると微妙に音が合わなかったようで、サックスの先生から、「ガル男、リード位置を少し変えろ」と指示が入った。
まさか、本番のこの場所でリード位置の変更の声が飛んでくるとは思っていたなかったガル男、慌ててリードを言われた通りに直し、再度チューニング。
この時、オカンは思った。ガル男の動きがぎこちない・・・と。そして曲は始まった。最初はスローで悲しめな曲なのだが、途中から一気にテンションの上がる曲。スローパートが間もなく終わる、という所にさしかかった時、ガル男の演奏が止まったのだ。
どうした?なんでとまった?
すると、ガル男、楽譜をずらしたのだ。そう、1枚目と2枚目の楽譜の端が重なってしまっていたのだ。
ほんの一瞬の出来事。吹かなかった音はほんの少し。今思えば、よく冷静に元に戻したな、と思うのだが、しかし、飛ばしたことは飛ばしたのだ。
悔やまれる。楽譜をファイルするか、台紙に貼ろうと促したのだが、それを断ったガル男。本人の好む形が一番か、と強く推さなかった。あの時、やっていれば・・・
なんとかラストまで吹ききり、演奏は終了した。
出て来たガル男に、先生も伴奏者も「よかったよ、よくやったよ」とこんな時にも褒めてくれる。それが余計に悔しいのか、ガル男、やや呆然自失で涙目に。
先生たちも期待していた。なぜなら、ガル男のサックスは中学生レベルをはるかに超えている、と言われていたため、1位は当然という空気であったのだ。その中でいかに得点を伸ばして1位を獲るか、大人たちの期待はデカかった。
しかしガル男はそんなことどうでもよかったのだ。「最後、もっといつもなら盛り上げれるのに・・」とミスしたところとは違うところを悔やむような言葉を口にしたのだ。そう、ガル男は、みんなの前で、スカッと聞きごたえのある曲を披露したかったのだ。
そしてガル男は黙り込んでしまった。
20分いや30分ほど経った時だったか、サックスも片付けず、一言も発することなく座っていたガル語が顔を上げてこう言い始めた。
「あん時、慌ててたよな、オレ。何で、伴奏者のare you ready?にOKって言うてもうたんやろう・・・」と。
ガル男、失敗の原因に辿りつこうとしていた。
そこで、オカンは、ガル男が小学生の時のピアノの発表会のことを話した。発表会の後、先生が1曲披露してくれたのだが、先生は、観客から拍手をもらった後、ピアノの前に座り、しばらく天を仰ぐように上を向き、目を閉じた。その時間は、なかなかの長さであり、すぐ弾くと思っていた観客は、先生に釘付け。たっぷりと沈黙の時間を作り、いつの間にか観客はその雰囲気にのまれ、気が付くと会場は先生の空気になっていたのだ。
「何度もステージで弾いている先生でも、心を落ち着かせて、自分の中で『整いました』ってなるまでは弾き始めへんかったよね、あの動き、いつも練習するときもやってるんやろうね」と言うと、静かに頷いていた。
そこへ旦那がやってきて「ルーティーンや、ルーティン。本番は何が起きるか分からん。だからいつもと同じことを全部やってからやるってことや」とワタシのアドバイスを勝手に要約・・・。そしてシメのひと言、「失敗もまた良し。打率10割の打者なんかおらんからな」と。
「打率」「打者」みたいなムズイ日本語
ガル男に通じるかいっ
と「え?どういう意味?」と案の定な返しがやってきて場は和み、ガル男の顔に表情が戻ってきた。
結果発表まで1時間。
「ガル男、今日の夕飯なんにする?」
「タイ料理のカオパット」
こうして、お通夜みたいな暗い空気は少し晴れ、普段の会話に戻っていったのであった。
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