建築を学ぶ者は1度つくばを訪れるべし②(カピオにみる日本人的な感性) | セグウェイで街に出よう

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「みちのコミュニケーション」を楽しもう。一番身近な公共空間である「みち」から始める、まちを「わたしたちごと」と思えるアクティビティ。小さな公共への意識を育む「セグウェイガイドツアーinつくば」のブログです。

今回紹介するのつくばの有名建築は、「つくばカピオ」です。

つくばカピオは、前回紹介した「つくばセンタービル」の歴史や神話への引用を散りばめたとても凝ったコラージュ的な造りとはとても対照的な建築です。

直線的でシンプルな造りが特徴です。余計なものをそぎ落としたシンプルさの中に浮き出てくる面や線の力強さを強調したような建築と言えます。


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つくばカピオを設計した谷口吉生さんは、つくばセンタービルの磯崎新さん同様に建築に携わる方なら知らない人がいないでしょう。谷口さんは何とニューヨーク近代美術館(MoMA)の新館の設計もしています。
なので、つくばカピオとMoMAの造りは結構似ているのです。
ニューヨークのMoMAを設計した建築家の、MoMAを想起させるモダニズムの建築がつくばにあるなんて、ちょっと嬉しくなります。

つくばカピオの特徴は、何と言っても、巨大な軒下です。83m x 14mもあります。

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この巨大な軒下によって、何もない、風がふっと吹き抜ける空間が生まれています。
深い軒は、日本の昔の家屋にも多く見られたもので、伝統的な日本の建築の特徴ともいえるそうです。
軒下というのは、外の爽やかな風が感じられるものの、雨や強い日差しからは守られるという家の中にいるのとも外にいるのともちょっと違う空間です。
適度に開放的で、適度に心地よく、軒下の好きな方は結構多いのではないかと思います。

軒下は、内でもない、外でもない、不思議な中空的な空間を作ります。

前回のブログでつくばセンタービルの下がった目立たない広場が日本的な空洞のシンボルのようだと書きましたが、同じような中空の領域がカピオのこの軒下空間だと思っています。

心理学者の河合隼雄さんが、「中空構造 日本の深層」という本において、日本神話における神々には、有名な神々の間にあまり知られていない無為の神が数多く描かれていることをもとに、日本人のメンタリティには伽藍堂のような中空構造があるというようなことを言っています。

有名なアマテラスとスサノオ、対照的で強烈な個性を持つ二人の神のあいだには、あまり目立たないツクヨミという神がいます。この中間的な存在があるから、対照的な2人が対立しあいながらも最終的にはうまくまとまるようになっている。

こうしたことから、二つの対立するものだけでなく、はっきりしないけどどちらにも属さない中間的なものがあること、中心が空っぽであること、それがうまく左右の均衡を保っているのが、日本的なものの特徴なのだそうです。

日本人が物事を白黒はっきりつけたがらないとか、人間と自然との対立とかの二元論的な考えを好まないとか、よく言われることですが、白と黒に区分けしても、その間にも白でもあり黒でもあるような何かがあるなと感じとるようなところは日本人的なメンタリティだと思います。

内でもない、外でもない、はっきりしない中空的なもの。
はっきりと分からないけれど、何となく何かありそうな気配だけは感じとれる。

日本の神社も、そのような空間です。
本殿は簡素で、拝殿は常に外に開かれています。木にしめ縄だけのシンプルな神社もたくさんあります。

はっきりとは目に見えるものは何もない。
無の空間のようです。
けれども何か安心感もある。

そこには時おり、風がふきます。

無であるはずの空間が、どこかへつながっているかのような何かの気配を、風が無言で伝えてくれるのです。

西洋的なモダニズム風のつくばカピオですが、その特徴の大きな軒下は、時おりふっと吹く心地よい風が、どこか遠いところにつながっているような不思議な感覚を覚えさせる、日本人的な感性の表現なのだ。
と勝手に思っています。

おおくぼ