限定記事込みのオリジナルのお話は→「1011

コチラはどちらかといえばギリギリNormal版、かな?

 

 

 

 

N版『小さくてクリーム色の豆柴豆太と二人のマスター(ご主人様)』

 

 

 

部屋に入るのを待ち受けて引き込むように抱きしめる。

年上の人は驚いたように少し身を固くしていた。

「…やっと会えたね…」

噛み締めるよう囁く。

腕の中の人はからかうように答える

「さっきから何回も同じこと言ってるぞ」

「ほんとにそう思ってるから」

「まぁ、やっと、といえばやっと、だからな」

優しい声が身体に響き、ジワリと熱くなる。

より存在を感じたくて髪に鼻をくっつけ香りを嗅ぐように息を吸う。

「何してんだよ」

少し呆れたような声色。

だけど棒立ちだった人が抱きしめ返してくれるようになる。

癒やされる。。

 

そう思ったとき、

先輩の身体がピョンっと跳ねた。

「わわわッ!」

何かを避けるように激しく動き出す。

「どうしたの?!」

「何ッ?何??」

足元を警戒し身体を離す。

「あ…」

マサさんの足元にクリーム色のものがまとわりついていた。

「え?え?」

足に抱きついてくる小さいやつがいる。

「あ、、そうだった」

「な、何?!」

「豆柴」

「豆柴??」

「うん、ちょっと預かってたんだ。マサさん迎えに行くまでに返そうと思ってたんだけど間に合わなくて」

 

先輩は自分の足首に絡む小さな子犬を見る。

子犬もマサさんを見る。

ふたり?の目が合う。

「可愛い!」

急にテンションが上がっていた。

俺と久しぶりに会ってもここまでテンションあがったことなくないですか?

とちょっと思う。

ニコニコしながらよしよしし始める。

「こっちでも日本犬人気あって飼ってる人がいるんだけど、トイレもちゃんとできるし数日だったらいいかなって預かってたんだ。」

「なまえは?」

「豆太」

「日本の名前じゃん」

「うん」

「お前、豆太っていうのか。かわいいな」

マサさんはしゃがむと小さな豆太の頭を撫でる。

豆太は嬉しそうに抱っこしてもらいたそうに前足をかきながら先輩にくっついて離れない。

「もう一日預かる予定だったけどマサさんが一日早くこっちに来れるようになったから、今から返しにいく」

「返しちゃうの?!」

「うん。」

「ほんとはもう一日預かれるならこのままでいいじゃん」

マサさんは豆太を抱き上げると胸に寄せる

「二人の時間邪魔されちゃうよ?」

「邪魔じゃないよ。全然」

「邪魔だよ」

「俺、豆太と一緒にいたいな」

「えー?」

「すごい可愛い」

「うーん」

「世話は俺がするから」

それで時間取られちゃうのが邪魔になるってことなんだけど、、、

そう思ったが豆太にデレデレしている顔をみると滅多に見せないその表情をもう少し見たくもなる。

判断が悩ましい。

「…だめ?」

なぜか豆太も俺にねだるような目を向けてきている気がする。

なんだお前、そっち側か?

豆太とマサさんの縋るような瞳に耐えられなくなりそうだ。

まるで俺がこの可愛い親子を引き裂く悪者であるかのように感じる。

マサさんが豆太に頬を寄せ、すりすりしながら上目遣いで見つめてくる。


反則だ…

この人は自覚ないんだろうけど。

あまりにかわいくて変な声が出そうになるのを必死で抑えようと苦労していると、難色を示してると思ったのか再度ねだってきた。

「お前のお願いも聞くから」

「・・・」

「だめ、、かな?」

切ない声でねだってくる。

 

う…、めちゃくちゃかわいい…

 

もはや突っぱねることができなくなる。

「…いい、ですけど…」

「ほんとに?やった!」

無邪気に喜ぶ先輩をみて苦笑する。

 

マサさんは豆太に顔を近づけて挨拶をする。

「一日だけだけど、よろしく。豆太」

そう言うと豆太は喜びを示すようにマサさんの鼻をペロッと舐めてかえした。

 

 

---

 

 

 

マサさんは豆太の好きなおもちゃで相手をしているかと思ったら

今度はボールを転がして取りに行かせ遊んであげている。

ほんとに犬が好きなんだなと思って眺めてしまう。

 

「クリーム色でふわふわしてるシュークリームみたいだな、お前」

にこにこ顔で子犬に話しかけては撫でる。

豆太は全力でしっぽを振っている。

ボールをくわえてマサさんに返し、また転がされるボールを取りに走る。

トテトテと、おしりを振って時々転びながらも懸命に走る姿は確かにかわいい。

しかし、、


 

「かわいいなぁ…」

そういって滅多に見せないデレた表情になっている先輩のほうが俺からすれば可愛くて仕方がない。

 

…それにしても豆太のやつ。

飼い主よりも俺に懐いてべったりだったのに、マサさんがきたらそっちにべったりだ。

“浮気者め。いや、そもそも俺のマサさんだぞ”

腹の中ではそう思うのだが、口に出していうタイミングがはかれずにいた。


飽きもせず、ずっとキャッキャ遊んでいる。

 

エンドレスに続いたらどうしよう、、

さすがにそろそろ二人きりになりたいんだけどな。


眺めているとソファに寝ころぶマサさんに豆太が乗っかっていくのが見えた。

今度はボールを転がされてもそっちを追わず、先輩の胸に頭を擦り寄せて甘えている。

ペロペロと舐 めはじめた

マサさんはくすぐったそうに身を捩りながらボールを指差す。

「ボールあっち行ったよ、豆太」

楽しそうに笑いながら子犬に舐 められ続けている

「やめて、くすぐったいよ。」

そう言いながらも嬉しそうにじゃれている。

 

俺が同じことしたらすごい抵抗するくせに…

 

豆太もずっと遊んでもらってるもんだからめちゃくちゃ興奮してはしゃいでいる。

はしゃぎすぎておもらししないか心配なくらいだ。

「豆太、だめ。くすぐったいッ、、、てばッ」

口元を舐 めはじめた

「んーッ…」

口をずっと舐 められてるから喋れなくなる。

ペロペロ 攻撃から逃げようとする先輩と懐きまくる子犬の図

「だめ…、豆太…ッ」

責 められているマサさんが妙に色っぽくて、ついじっと見つめてしまう。

 

「……」

 

…俺も混じりたい…

 

そんな考えを振り払う。

もうだめだ!

待ちきれず、カットインする。

 

「マサさん!」

「ん?」

「豆太はまだ子犬だからそろそろ寝かさないと」

「あ、そうか」

「俺たちももう寝ようよ」

「もうそんな時間?」

「そうだよ。」

「そっか。子どもはもう寝ないとだな。おやすみ、豆太」

そう言うと豆太にキスをする。

 

ただ、ただ、豆太が羨ましくなる。

 

名残惜しそうにしているがきりがないので強制的に豆太を抱き上げると柵の中に入れる。

ずっとこっちを見てしっぽを振っているが今日はもうマサさんは俺に返してもらうのだ。

 

 

 

 

---

 

 

 

タオルを差し出してシャワーを促す

「ありがと」

やっと二人の時間になるかと思うとワクワクしてくる。

「一緒に入る?」

シャワールームを指差し、言ってみる

手渡したタオルが顔に投げつけられた。

冗談だよ、って俺が言っても真っ赤な顔はすぐには戻らなくて、反応の良さに思わずニヤけてしまう。

「これ使って」

投げつけられたタオルとともに着替えを渡す

「お前バスローブとか使ってんの?」

「チームからもらった」

「エッ?だとしたらそんな貴重なの、使えないよ」

「別に貴重じゃないよ」

「セリエAのバスローブだぞ。大事においといた方がいいんじゃないのか?」

「頼めばまたもらえそうだし、大したことないって。マサさんまだ荷解きできてないんだから普通に使って」

「じゃぁ、、お借りします」

恭しく受け取ると、バスローブをジッと眺めている。

「まささん?」

「そうだよな。セリエAで、、お前、頑張ってんだもんな」

独り言のようだったが俺は返答した。

「…うん」

「お前はやっぱりすごいよ」

バスローブから目をはずし、俺をみてそう言った。

目をキラキラさせて言ってくれるもんだから俺も嬉しくなる。

 

マサさんはバレーボールが大好きだから俺がセリエAにいることをすごく応援してくれる。

高みを目指すためにセリエAでプレイすることは俺にとっては最早デフォルトだと思ってるけど、

こうしてマサさんに応援してもらえるのはやっぱりすごく嬉しくて、別の意味でもモチベーションになる。

 

手放しで褒めてくれることに照れる。

「早く、シャワー浴びてきて?」

変にデレてしまいそうでごまかすようにそう促していた。

 

 

 

先輩の後に超短時間でシャワーを終えて部屋へ戻る。

真っ白なバスローブに身を包まれた人はもぞもぞと何かをしている。

とっくに寝る準備が出来ていると思っていたため、聞かずにいられない。

「何してるの?」

「荷解き」

「・・・シャワーのあと何してたの?」

「依頼されてたインタビュー記事確認してた」

「・・・」

忙しい中、イタリアまで来てもらっている。

しかも予定より一日前倒しで。

だから今夜はボーナスタイムみたいなものなんだから俺はもっと余裕をもたないと、、そう自分に言い聞かせた。

 

だが、

そもそも荷解きもせず子犬と遊んでいた。

それくらいテンションが上がってたのだとは思うが。

やはりつい焦れてしまう。

 

 

「マサさん、まだ?」

「ちょっと待って」

「早く寝ようよ」

「まだ時間かかる」

「焦らしてんの?」

「はぁ?」

「豆太に邪魔された上に、マサさんにも焦らされてる」

「何言ってんのかわからん」

返事が冷たい。

髪をタオルオフしつつ先輩の傍に座る。

背中に自分の胸を重ね作業しているのを覗き込む。

確かにまだかかりそうだ。

拗ねるように唇を突き出す。

まるで俺が目に入っていないかのようにマイペースに作業している。

自分もマイペースだがまた種類が違う気がする。

早く終わらせてほしくて作業するマサさんを後ろから観察する。

 

うなじがすっきりしていて清潔で目に眩しい。

耳の裏までも真っ白で触りたくなる。

つい指で撫でていた。

「うわッ?!」

ビックリして後ろを振り返る

「な、何だよ?!」

「早く終わらせて」

「すぐだって。先に寝てろよ」

「やだよ。マサさんいるのに一人で寝るとか寂しいよ」

「子供か」

そういう意味じゃないのに、、と思ったが言い合ってる場合じゃない。

「じゃぁ手伝う」

手をのばす。

「別に手伝わなくていいよ」

「早く終わってほしいから」

そう言って衣類を勝手にセットしては畳んでいく

先輩がそれに目を向ける

「明日の俺はその組み合わせを着ればいいってこと?」

「うん。いつもこんな感じでしょ?」

「よくわかるな」

「まぁね。こっちやるから早く寝る準備して」

「そんな時間変わんないよ」

「いいから」

だめと言ってもきかないという気配を察して先輩は自分の作業を早めてくれる。

「終わり」

「やった。」

やっと寝る準備ができた。

横から抱きしめる

「ワワッ!」

肩を竦めて驚いている。

驚かせて申し訳ないけど、もう待てないよ。

「…ベッド行こ?」

抱きしめた腕にマサさんの鼓動が急に早くなったのが伝わる

「…うん」

立ち上がらせるとベッドへと導く。

二人とも座ったところで再び肩を抱き寄せた。

 

 

 

---

 

 

 

 

久しぶりだからか、、、

 

あらためるとなんだかお互いにドキドキしてしまってる感じだ。

 

さっきまで先輩然としていた年上の人が急にそわそわしはじめる。

自分も緊張してしまう。

だけど早くマサさんとギュってしたいから顔を近づけて求めた。

 

下を向いてしまう。

頬を右手でそっと包むと少しだけ上を向かせた。

目はまだ合わせてくれない。

伏せる瞳を長いまつげが守っている。

 

 

きれいだ。

 

いつ見てもそう思う。

 

再び顔を寄せてみる。

少しだけ身体が後ろに引かれたけれど、その分、深く先輩に身を寄せた。

 

 

照れるマサさんがかわいくて、からかいたくなってしまう。

 

「いっぱい可愛がってあげる」
「…ッ、その言い方…、やめろッ」
めちゃくちゃキツイ目で睨んできた。

すごく怖い。
でも顔赤くして言うもんだからほんとは怖くない。

むしろ、だ。

 

「ずっと豆太と遊んでたんだから、その分、たっぷりと俺の相手してもらうからね」

そう強請った。

バーカ、、ってマサさんの口が動いた。

 

そして

 

 

ちょっと強引に、ギュって抱きしめた。

 

 

夜がずっと続いてほしい

 

そう思った。

 

 

 

 

 

 

---

 

 

 

キュゥ…ン!

 

かわいい声が聞こえた。

子犬みたいな啼き声。

 

 

クゥン…、、キュゥん

 

ん?

子犬みたい、、な?

 

クゥーン、、、

俺のTシャツを握りしめるマサさんの手に力が入る。

 

「ゆうき…、鳴いてる…」

「……」

「…祐…ッ希、ってば」

肩を揺り動かされる

「?」

「豆太、鳴いてる」

 

クゥーン、キューーーン、キューン

滅多に鳴かない豆太が鳴いている。

 

さっき聞こえたのは豆太だったようだ。

しかし、気にはなったが今はそれどころじゃない。

 

「…大丈夫だよ。そのうち寝ちゃうから」

「寂しがってる」

「もう赤ちゃんじゃないんだから大丈夫だって。」

「けど・・・」

俺はマサさんには自分に集中してもらいたかった。

「あ…、祐希ッ……!」

 

… ……キュゥン

 

クゥンン………

 

無視してると、ガタガタっと何かが崩れる音が聞こえた。

 

 

 

そして

 

キャイーン!!!

 

 

豆太の悲鳴が聞こえた!

 

「キャイン!!キャイン!!!」

 

その後、声がしなくなる。

異変を感じ、身を起こす。

身体は重かったがなんとか豆太の元へと駆け寄った。

 

柵の中に入れていたのにそこには居なかった。

周りを見回したがどこにもいない。

 

「豆太!どこ?」

「どうした?」

マサさんもバスローブを手で寄せ、俺の傍にきてくれる。

「豆太がいないんだ!」

「エッ?!」

「柵の中に入れてたのにッ」

 

ふたりで探す。

俺はクッションや本をよけ、柵や棚の後ろを探す。

マサさんは床に頭をつけ、家具の下をのぞいてくれている。

 

「いた!」

マサさんが声をあげる。

「ソファの後ろだ」

「ほんと?!」

のぞきこむとソファの背の下に落っこちて、はさまっている豆太が見えた。

「豆太!!」

動いていないように見え、すぐにでも出してあげようと手を伸ばすとマサさんに止められた。

「どんな状態かわからないから、引っ張りださない方がいい。ソファ動かそう」

「わ、わかった」

二人でソファの両脇をもつ。

「お前も怪我しないように気をつけて持てよ」

「うんっ」

人が入って抱き上げられるよう隙間を作る。

マサさんがその隙間に踏み込むと、豆太をすくい上げるように救出する。

 

四つ足をピンと張ったままプルプル震えていた。

「豆太!」

震えが止まらないのをみると心配でたまらなくなる。

「病院!つれていかなきゃ!」

「診てくれるとこ知ってる?」

「うん。飼い主さんから聞いてるとこある!」

俺が連絡先を確認してる間、マサさんは隣で豆太を診ている。

自分のバスローブの内に入れ、抱っこを安定させると、

豆太に声をかけながら胸に手を置き動悸を確認している。

 

電話をした。

だけど繋がらない。

「まささん、教えてもらってたとこ、繋がんない!」

泣きそうになる。

「寂しがってたのに俺が放っておこう、って言ったからだ。。どうしよう、、どうしようッ」

 

不安でしかたがなくて、マサさんをみた。

マサさんは豆太を支えながら俺に身を寄せる。

ギュッと抱きしめられていた。

「祐希、」

マサさんの顔が目の前にくる。

 

頬と額を優しく撫でられた。

 

「落ち着いて。大丈夫だから」

「マサさん…」

「他の連絡先は聞いてない?」

「あ…、バッグの中にも…」

「そっち電話してみよう。ダメだったら近くの病院探して診てもらえそうならつれていこう。飼い主さんにも連絡しよう」

「う、うん」

 

確かにいまは慌てずどうすればいいか考え、行動すべきだ。

落ち着け、俺。

言い聞かせ、豆太のお世話グッズが入っているバッグからメモ帳を取り出す。

電話をしようとしたとき、

「ヒャッ?!」

っていうマサさんの声が聞こえた。

驚いて振り返ると、白いバスローブの胸元がもごもごと動いている。

ローブの中からヒョコッと豆太が顔を出した。

「豆太!」

キョロキョロしている。

そしてマサさんをみて、俺をみた。

目が合う。

「あ…」

びっくりしながらも、

キラキラした瞳に少し安堵する。

なんだかとっても嬉しそうな顔に見える。

そしてどこかいたずらっ子のような。

すると、またマサさんの胸の中にもぐった。

「豆太……?」
声をかけ、様子をみようとしたら、抱っこしてるマサさんの焦るような声が聞こえた。

「ワワッ!、、くすぐった…ッ」

マサさんの胸元でジタバタしている。

「…ッ、、舐めないでっ、、豆太ッ」

「え?」

ローブの隙間からはみ出した尻尾がめちゃくちゃ振られてる。

「だめ…ッ」

豆太を落とさないようにしながら、マサさんは豆太をローブの胸元から出そうとする。

「豆太?!」

少し見えていたクリーム色の柔らかな耳がクルッと振り返る。

また豆太がローブから顔を出して俺をみた。

ハッ、ハッ、てベロをだして愛想をふりまいてくる。

「ちょッ…!…ゃッ」

マサさんが顔を真っ赤にしてくすぐったがってる。

豆太のしっぽがマサさんの胸をめっちゃ撫でてるようだった。

「ぁッ!、、、んッ

 

・・・豆太、、マサさんにそんなこと・・・

 

「祐希!、、、助けてっ」

 

あ…、助けないと、、、

我に返る。

 

「豆太、こっちおいでっ」

 

手を伸ばすと

豆太が俺の胸に飛び込んできた。

嬉しそうに身を寄せてくる。

なついてくる豆太が愛しかった。

まっすぐな目で俺を見つめている。

罪悪感に胸が痛んだ。

 

「豆太、…ごめんね。」

小さな尻尾がプルプルと左右に揺れている。

「寂しかったんだよな、お前」

俺がそう言うと、なんだかニコニコって笑顔を返してくれてるようにみえる。

「ほんとごめん」

申し訳無さそうにしていると、ペロペロと顔を舐められる。

「くすぐったい」

はしゃぐようにじゃれてくる。

 

なんだかいつもの元気な豆太のように見える。

少しホッとした。

だけどちゃんと診てもらいたい、って思った。

「病院、行こうな」

そう言って頭を撫でた。

すると、途端に豆太が俺の顔を舐めるのをやめた。

「ん?」

なんだか一瞬、

エ?( ・ロ・)

っていう感じの顔になってた。

 

「怪我してないか診てもらおうな?車ですぐ連れて行ってやるから安心して」

 

そう言うと、今度は、

エエー?( ̄Д ̄;;

ていう感じの顔になった。

 

俺の気のせい?

「豆太?」

怪訝な顔をしたあと、途端に体をよじって暴れだした。

「え?え?どうしたの?」

俺の胸を後ろ足でバンバン蹴って腕から逃れようとする。

「ちょ、、暴れないでっ」

じたばたして落ちそうになるから、慌ててしゃがむ。

とりあえず床におろしてやる。

すると豆太はダッと走り出した。

 

 

 

---

 

 

子犬だから

足はまだ短め

おしり大きめ

ヨチヨチ感満載

途中コロンコロン転びながらも

一生懸命に部屋の中を走りはじめた。

 

「?」

一周すると俺の目の前でとまり、お座りをする。

「え…と?」

俺はマサさんと顔を見合わせる。

何だと思う??と目で問うと、マサさんもわからない、と返してくる。

「お前、カラダ大丈夫なの?痛いとこない?」

するとピョンピョンジャンプし始めた。

「わわッ、、病院で大丈夫、って言われるまでそんなに動いちゃだめ!」

今度はパッと伏せた。

そして伏せたままお尻を左右に振りながらじりじりと後ずさりしはじめる。

いつも懐いてくれる豆太なのに、俺から遠ざかろうとしている。

かなしくて豆太の方に近づくとその分、後ろに下がる。

「豆太!どうしたの?!」

焦って声をかける俺にマサさんは冷静に言う。

「もしかして、、アレ、かなぁ?」

「アレ、て何?」

「病院嫌いなんじゃない?」

「俺がさっき病院行こうって言ったのがわかったってこと?」

「に見える。僕はこんなに元気だよ、だから病院なんていかなくて大丈夫だよ、って感じ?」

「でも…診てもらわないとだめだよね」

「そうだよなぁ。とりあえず一度、飼い主さんに電話しよう」

「そうする!」

 

こっちはすぐに電話が繋がった。

経緯を説明し、スピーカーとカメラをONにして豆太をスマホで映す。

元気そうに噛み噛みおもちゃのクマさんを相手に一人プロレスをしている。

噛んで飛ばしては追いかけ、クマさんの下に潜り込むと、クマさんにやられた感を出してジタバタしては楽しそうにしている。

飼い主さんはその様子を見て、

柵から脱走したはいいけど、ソファから落ちてびっくりして一瞬気絶しちゃっただけじゃないか、と言った。

今どこか痛がってる様子もないし、はしゃいでるから病院まで連れて行くとかはしないでいい、とのことだった。

そして、兎に角、あの柵から飛び出したことにとてもびっくりしていた。

 

「すみません。預かってるのに…」

「いーの、いーの。豆太は兎に角、ユーキのことが大ッ好きで、飼い主と離れてるのに寂しいとか全然言わずに、ユーキと一緒に居られるだけで喜んでんだから。」

そう言ってくれた。

御礼を言って電話を切るとソファにホッとして座り込んだ。
「病院行かなくていいんだって。」

耳がピンと立った。クマとのプロレスとやめて豆太が足元にじゃれにきた。

そっと抱き上げる。

「助かったな。」

豆太はおしりを左右に振ってはしゃぎはじめた。

「おまえ、調子いいやつだなぁ」

なんだか笑えてくる。

「豆太も、ユウキも、良かったな」

マサさんが微笑みながら俺たちの頭をモシャモシャっと撫でた。

俺は何度もウン、ウン、って頷いた。

 

「大丈夫そうだけど、また柵から出たりすると心配だから、豆太、一緒に寝てもいい?」

「うん!うん!一緒に寝よう!」

マサさんに許可をもらう。

もともとマサさんは豆太と一緒に寝たそうにしてたから二つ返事でOKしてくれた。

2人だけの時間は明日からでいいや、と自分に言いきかせつつ、マサさんの方を見た。

目が合う。

途端にマサさんが急に吹き出すように笑う。

「え?なに?」

「お前たち、って、兄弟みたいだな」

「兄弟??」

「おんなじような顔してコッチみてくんだよ」

俺と豆太が兄弟??

「目キラキラしてるし、まっすぐ見てくるし。」

「・・・」

「ごめん。かわいすぎて笑っちゃった」

そう言うと今度は声を出して笑う。

 

かわいい………か。

 

「お前に弟できたな」

そう言ってちょっとからかってくる。

まだ子どもの豆太と一緒にされて、納得はできないけど、一部わかるところがあった。

 

「俺、マサさんと少しでも長く一緒にいたい、って思ってるから、

豆太も俺たちと離れたくない、とかだったら、俺は豆太の気持ちはめちゃわかるんだ」

髪をクシャってされた。

そしてマサさんは豆太をのぞき込むようにかがみ込む。

真っ白な耳が視界に入る。

きれいだ。

俺も豆太みたいにじゃれてカプってしたくなるのをグッと我慢する。

 

ハーッ

我慢はできても小さなため息はついてしまう。

 

そしたら

目の前の人が俺を見る。

「あ…、ごめん」

今のは気にしないで、、

そう言おうとしたとき

 

首に腕が絡められる。

 

あ…

 

ギュゥってされた。

そしてスッと離れた。

ベッドの方へ向かう後ろ姿が見える。

 

柔らかな感触

 

ドキドキ

  ドキドキ

 

マサさんが背中を向けたままチラリと俺を流し見る。

 

「早く来いよ?」

 

そう言われた。

 

俺は今のハグでさえ目が潤むほど嬉しいんだな、

って、痛感する。

 

 

フーッと熱い息を一つ吐き、豆太を見た。

「豆太。マサさんと一緒に寝ようか」

そう話しかけると豆太はこれ以上ないってくらい尻尾をプルプルプルプル振った。

 

 

 

---

 

俺の腕の中で豆太が嬉しそうにコロコロ転がっている。

一緒に寝られるのがどんだけ嬉しいんだよ、と呆れながらも愛しくなる。

 

無邪気な豆太をみて思い出す。

マサさんが一日早くこっちに来られる、って聞いたとき、

俺も嬉しくて嬉しくて

抱き枕をギュってして、

今の豆太のようにベッドの上でコロコロはしゃいだ。

 

ふと思う。

 

「…もしかして、、マサさんの声聞いて鳴きはじめたとか、、ある?」

豆太は、ウヒャウヒャはしゃいでいたが俺の言葉を聞いてピタっと動きをとめた。

「マサさんがいじめられてるって思ったとか?」

すると、豆太がヘソ天をしながらコクっと頷いた。

「え?」

気のせいかもしれないが、返事をしたように見えた。

 

…俺のせい??

 

それでなんとかしないとって、暴れてこんなことになった??

じっと豆太をみる。

豆太も俺をじっと見つめる。

あらためて膝の上に豆太を乗せる。

自分と向き合うように座らせた。

つぶらな瞳の豆太に言う。

「豆太、お前にはちゃんと話ししておこう」

真面目な顔で言ってみる。

豆太も真面目に聞いている。

 

「あのね。俺とマサさんは、その、、特別な関係なんだ。

だから仲良くするっていうのは当たり前のことでさ、、

まぁ…さっきは強引で、、俺が悪かった、んだけど…」

 

豆太が俺の話をジッと聞いている(ようにみえる)

なんだかちょっと責められてる気がしてちゃんと宣言する。

「反省はしてる。ちゃんと大切にします。」

そういうと、コクッと頷いた。

俺の言ってることがまるでわかっているかのようだ。

お互いにキリッとした面でマサさんに誠実に接する同盟を組んだかのようだ。

石豆同盟だ。

だが、

マサさんの愛らしい姿が脳裏に浮かぶと、

その考えを見透かすかのように、豆太がまた厳しい顔で俺をみてくる。

「いや、違う!これは仕方がないんだよ、豆太!」

たぶんデレデレした顔をしてたんだと思う。

「マサさん、さ。ほんと、めちゃくちゃ素敵でさ、どうしたらいいかわかんなくなるんだよ。。」

思い出してつい熱い吐息をもらしてしまう。

「…お前も、好きな人ができたら俺の気持ち、わかってもらえると思うんだけどなぁ」

そう言うと、豆太は小首をかしげた。

神妙な顔つきで何かを考えてるようだった。

聞き終わると、スルッと腕から降り、柵の横の豆太用クッションに入って丸くなった。

「豆太?」

なんだか寝た風にしている。

「・・・」

暫く考える。

けど、自分に一番納得できる選択をしようと思った。

「豆太、そんな気を遣わなくていいよ。一緒に寝よう」

パッと顔を上げた。

やっぱ寝たふりだったか。

ワンコのくせに狸寝入りか?

子どものくせに俺たちに気ぃ遣おうとしたのか?

 

「お前…いいやつだな」

小さく息を吐き、やさしく豆太を抱きしめる。

 

「マサさんのところに行こっか」

豆太を抱いたまま寝室へと戻った。

 

マサさんがベッドに横たわって俺たちを待っていた。

目の前の空いているスペースに手をおいて、「ここへおいで」ってポンポンってしてる。

感動ものの光景だ。

グッと自制する。

 

とりあえず豆太はベッドの真ん中に置いてやる。

マサさんの横に来ると尻尾をちぎれそうなくらい激しくプルプル振りはじめた。

本当にマサさんのことが好きなんだな、て思った。

マサさんをクンクンしたりペロペロしたり、

ヘソ天して撫でてもらうのをねだってみたり、したい放題してる。

だけど、子供だから、興奮してはしゃいで遊び疲れ、だんだんとウトウトし始めた。

睡魔とすごく闘っているが、マサさんが豆太を宥めるように、眠りを促すように撫ではじめると抗えず、ゆっくりと眠りに落ちてゆく。

今度こそ熟睡してるようだった。

まるで子供に添い寝するママみたいだ。

慈しむような目が聖母マリアみたいで見ているだけで俺もなんだか癒される。

 

くぅくぅとマサさんに見守られながら眠りにつく。

幸せそうだ。

 

じっと見ていると

やっぱり豆太が羨ましくなる。

 

マサさん、俺のこともそんな風に可愛がってよ。

ずっと傍にいて・・・

 

椅子に座って羨ましい光景を眺めて俺はポツリとこぼしていた。

 

「俺、豆太になりたいよ…」

 

 

 

 

----

 

ポツリとこぼしていた。

「豆太に…なりたい…」

「え?」

ハッとする。

俺、、口に出してた?

 

シン、、てなる。

 

なんでもない、って言おうと顔を上げる。

「あの、、マサさ、」

「お前、、」

話しかけられる。

「豆太になりたいのか?」

「・・・」

聞こえてた。。恥ずかしい…

けど、聞こえてたなら仕方がない。コクンって頷いた。

ちょっとヤケになる。

「豆太になったら、そんな風にマサさんにいっぱい可愛がってもらえんのかな、って思って。そしたらちょっと羨ましくって...」

「かわいがってもらいた…い?」

聞かれて反射的にウン、て頷いてしまう。

けど、直後に後悔する。

さすがに正直に言いすぎだ、俺のバカッ!!

どんだけ豆太にヤキモチ焼いてんだよ、って自分の頭を叩きたくなる。

チラッとマサさんをみたら驚いた顔してる。

あきれられたって感じかな、、そんなことを思う。

今日、会ってからずっと大人ぶって頑張ってたっていうのに、全然だめじゃん。

「祐希…」

そう思ってたら名前を呼ばれた。

マサさんはベッドのふちに座りなおしてた。

 

それで…

 

両腕を左右に広げて言う。

「おいで?」

俺を招くよう呼ぶ。

 

「あ…」

俺が戸惑っていると

今度は両腕を少し高くあげ、早くこっちにくるよう促す。

「祐希、、おいで」

俺は吸い込まれるようにマサさんの方に歩み寄っていた。

「マサさん…」

目の前に行く。でも、ただ突っ立っていた。

どうしたらいいんだろう、、そう思ってたら腕を引き寄せられた。

「あ…」

豆太のいないベッドの足元側に俺は押し倒された。

「マサさ…」

マサさんに包み込まれる。

「ん…ッ」

抱き締められて

抱き締めかえす。

身体が離れるとマサさんは俺を見下ろして言う。

「かわいがってほしいって、、お前からそんなかわいいこと言われるとか、思わなかった」

照れながらそう言われた。

「明日は俺の時間ぜんぶ、お前にやるから」

 

 

出会ってからもう何年も経つっていうのに、

心底、ドキドキした。

 

クシャンっ!

豆太のくしゃみが聞こえた。

マサさんは俺の鼻をチョンて指でつつくと身を起こし、豆太にシーツをかける。

 

 

俺と豆太とマサさん。

川の字で並ぶ。

 

「なんか、、豆太、俺たちの子どもみたい」

「フフッ、そうだな」

頬に触れられる。

「ここにもうひとり子どもはいるけどな」

「え、、」

言われてしまう。

チェッて思う。子どもじゃないのに…

けど

めちゃくちゃ色っぽい大人なマサさんが目の前にいて、

 

「いっぱいかわいがってやるよ」

って、俺が言った言葉を逆に言われ、

いたずらっぽく笑うのをみると魅了される。

こんな素敵な人に、こんな風に言ってもらえることだけでドキドキが止まらなくなる。

あんまり眠れなかったけど、マサさん、豆太と一緒に過ごすこんな時間も幸せだと思った。

 

そして

 

このあと、

きっと豆太がみたら俺にすごくヤキモチ焼くだろうなっておもうほど

 

めいっぱい

 

俺は『豆太』になった。

 

 

 

 

 

 

 『小さくてクリーム色の豆柴豆太と二人のマスター(ご主人様)』

おわり