部屋に入るのを待ち受けて引き込むように抱きしめる。

年上の人は驚いたように少し身を固くしていた。

「…やっと会えたね…」

噛み締めるよう囁く。

腕の中の人はからかうように答える

「さっきから何回も同じこと言ってるぞ」

「ほんとにそう思ってるから」

「まぁ、やっと、といえばやっと、だからな」

優しい声が身体に響き、ジワリと熱くなる。

より存在を感じたくて髪に鼻をくっつけ香りを嗅ぐように息を吸う。

「何してんだよ」

少し呆れたような声色。

だけど棒立ちだった人が抱きしめ返してくれるようになる。

癒やされる。。

 

そう思ったとき、

先輩の身体がピョンっと跳ねた。

「わわわッ!」

何かを避けるように激しく動き出す。

「どうしたの?!」

「何ッ?何??」

足元を警戒し身体を離す。

「あ…」

マサさんの足元にクリーム色のものがまとわりついていた。

「え?え?」

足に抱きついてくる小さいやつがいる。

「あ、忘れてた」

「な、何?!」

「豆柴」

「豆柴??」

「うん、ちょっと預かってたんだ。マサさん迎えに行くまでに返そうと思ってたんだけど間に合わなくて」

 

先輩は自分の足首に絡む小さな子犬を見る。

子犬もマサさんを見る。

ふたり?の目が合う。

「可愛い!」

急にテンションが上がっていた。

俺と久しぶりに会ってもここまでテンションあがったことなくないですか?

とちょっと思う。

ニコニコしながらよしよしし始める。

「こっちでも日本犬人気あって飼ってる人がいるんだけど、トイレもちゃんとできるし数日だったらいいかなって預かってたんだ。」

「なまえは?」

「豆太」

「日本の名前じゃん」

「うん」

「お前、豆太っていうのか。かわいいな」

マサさんはしゃがむと小さな豆太の頭を撫でる。

豆太は嬉しそうに抱っこしてもらいたそうに前足をかきながら先輩にくっついて離れない。

「もう一日預かる予定だったけどマサさんが一日早くこっちに来れるようになったから、今から返しにいく」

「返しちゃうの?!」

「うん。」

「ほんとはもう一日預かれるならこのままでいいじゃん」

マサさんは豆太を抱き上げると胸に寄せる

「二人の時間邪魔されちゃうよ?」

「邪魔じゃないよ。全然」

「邪魔だよ」

「俺、豆太と一緒にいたいな」

「えー?」

「すごい可愛い」

「うーん」

「世話は俺がするから」

それで時間取られちゃうのが邪魔になるってことなんだけど、、、

そう思ったが豆太にデレデレしている顔をみると滅多に見せないその表情をもう少し見たくもなる。

判断が悩ましい。

「…だめ?」

なぜか豆太も俺にねだるような目を向けてきている気がする。

なんだお前、そっち側か?

豆太とマサさんの縋るような瞳に耐えられなくなりそうだ。

まるで俺がこの可愛い親子を引き裂く悪者であるかのように感じる。

マサさんが豆太に頬を寄せ、すりすりしながら上目遣いで見つめてくる。


反則だ…

この人は自覚ないんだろうけど。

あまりにかわいくて変な声が出そうになるのを必死で抑えようと苦労していると、難色を示してると思ったのか再度ねだってきた。

「お前のお願いも聞くから」

「・・・」

「だめ、、かな?」

切ない声でねだってくる。

 

う…、めちゃくちゃかわいい…

 

もはや突っぱねることができなくなる。

「…いい、ですけど…」

「ほんとに?やった!」

無邪気に喜ぶ先輩をみて苦笑する。

 

マサさんは豆太に顔を近づけて挨拶をする。

「一日だけだけど、よろしく。豆太」

そう言うと豆太は喜びを示すようにマサさんの鼻をペロッと舐めてかえした。

 

 

 

つづく