高校生の夏休み。
「めちゃくちゃエンジョイできるじゃん。」
「高校生だし何でもできちゃうんでしょ。」
「高校生っていいよね~。」
などとよく言われがちだが、そんな事はあり得ない。
課題は多い、課外で1週間は潰れる、部活は辛い、高校生の夏休みとは実際はそんなものだ。
中3の春にとあるアニメを見て高校生ライフに夢を抱いていた自分が馬鹿らしい。
もし自分が本命の高校に入っていてもおなじ事を感じていただろう。
課外が終わっても毎日のように辛い稽古(部活)があり、家に帰れば課題に追われる。俺の場合はそこに動画作成も加わるからもうたまったもんじゃない。
本当に高校生の夏休みなんてそんなもんだ。
遊びまわってとことんエンジョイする事もできるのだろうが、代わりに大きなものを失ってしまう。
そうなるくらいなら黙って勉学に励んだ方がいいのだろうと俺は思う。

この3か月、俺はただひたすらに進んでいた。

そこに以前のような輝かしさなどない。もうやけだといってもいいくらいだ。

「どうしても越えなくてはならない。」

その一心だった。

俺目標とする者の存在は大きな幻影となって俺の心の中に立ちはだかっている。

それでも越えなければならない。

これは自分にとっては大きく、とてつもなく無謀な挑戦だろう。

だが自分が自分であるためにはやり遂げる必要がある。

やるんだ。まわりがどう言おうと関係ない。

もうがむしゃらに突き進むしかないのだ。






「ありがとうございました。」
そう言って道場から出る。時計の針は午後7時30分をさしていた。
雨の降る中たった一つ残された自転車のもとに急ぎ足で向かい、荷物をおろした。
なぜ自分が最後なのかというと、稽古のあと技術面の質問をしている間に他の人たちが帰ってしまっていたからである。
迷惑なことにさっきまで小雨だった雨は俺の出発を待っていたかのように土砂降りへと変わっていた。
突然のことなのでカッパなど持ってきているはずもない。
このまま黙っているのも嫌なのでとりあえず出発した。
ペダルをこぎながら今日の反省を確かめる。
時間はあなどれない、ついこの間まで手にしていたものも砂のように吹き飛ばしてしまう。
これではあの時の繰り返しだ。
そう脳裏でつぶやき、歯噛みする。

自分の真後ろで心の闇が手招きをしている。
「あの頃は良かったよな。じゃあ戻って来いよ。」
ちがう。俺は逃げない。力を失っていたとしても、ここから取り戻すだけだ。

まっすぐつづいたこの1本道を1台の自転車は進み続ける…。

午後6時半。
春の暖かいような冷たいような風の中いつものように竹刀を振る。
ついこの前までは6時といえばもう真っ暗な空だったが4月となればまだ明るい。
時の流れというものはゆっくり動いているようで実はとても早いものだ。
そう、去年の今も同じことを思いながら一心に竹刀を振っていたような。
そう考えると今もあの頃もそう大差ないかもしれない。
でもそれは違う。 あの頃の俺は1つの目標のために必死だった。 信念も硬かった。 だが今はどうだ?夢を思うだけで何ひとつ変えようとしない。
何がしたいんだ?夢があるんだろ?だったらその夢を必死に追いかけろよ。目標とするもののために本気になれるのが自分じゃないのか?
1度の挫折にいつまでも止るなよ。次に進め。…

1年前の自分はそう語るだろう。
そして自分も歩み続けるんだ。






「Reason教えてくれ!! どうして俺の唇は大量出血しているの!?」
血だらけの手を見て叫んだ。
ほんの数分前、俺は大空に問うた。
「Reason教えてくれ…。」
叫んだあとに気がついた。
手が血で真っ赤に染まっている。
床には血がしたたり小さな斑点が描かれている。
その血は唇から出ていた。 それもかなりの量を。
ティッシュで押さえ続けること5分が経った。
血はその流れを止めようとはしない。すでに6枚ものティッシュがその身を血に染めた。
これも運命なのだろうか。
なら運命は我が身をも血に染めるというのだろうか。