私は昨年の春に、2020年のうちに無観客で五輪をしよう!5G回線を利用した無観客でも盛り上がれるイベントの形を日本から発信するべきだと申し上げました。今春には状況も変わっていたため、ワクチンの希望接種者に対して秋には打ち終わる可能性が出てきたため秋までの延長を提言しました。

 

ご存じの通り、いずれの形にもならず最悪の形のでオリンピック開催となりました。無論、この時期に現在の日本のワクチン摂取率で開催するなら無観客以外にはあり得ませんから、正しくは最悪の時期、世界と日本の状況でのオリンピック開催というべきかもしれません。

 

アメリカやイギリス、そして中国などではワクチンの接種を希望する人は、すぐにワクチンの接種ができますが、我が国においては、現時点でもワクチン接種がしたくてもできない方が大勢います。ワクチンの接種を希望する人は、すぐにワクチンの接種ができる国でイベントを行うなら、多くの観客を入れて盛り上げることもできるでしょうし、現に本日のアメリカのメジャーリーグのオールスターでのお祭り騒ぎを見れば羨ましく感じることでしょう。

 

そういう背景もあってか、最近、ワクチン接種により感染者数は増えても重症者数は増加しないからイベントを楽しもうとの言説が増えています。この理論自体は間違いではないのですが、現在の東京のワクチン摂取率と感染状況を見て、感染者数の増加割合に対して重症化率の下落率を総合的に勘案すると、この言説が増加するにはまだ早い状況と言えます。

 

例えば、感染者のうちの重症化率が今まで1%だったとして、それがワクチン接種の進捗により0.5%まで抑えられるようになったとしても、感染者数が2倍を超えたなら重症者は増加します。これは当たり前の話でしょう。現実に、東京では重症者数は6月26日には37人だったのが、10日時点で63人と増加しています。

 

 

 

東京の感染者数が増えるなら、やはり重症化する人も増大します。ワクチン接種を希望していたにもかかわらず、ワクチンを接種することができずに、感染の広がりに巻き込まれ後遺症を残す人や重症化する人が現にいて、そういう人が増加しようとしています。そういう状況があるにもかかわらず、「ワクチン接種が進んでいるから大丈夫、重症者数は増えていないなど」というような言説をするのは無責任の極みだと私には思えます。

 

東京大学名誉教授で食の安全・安心財団理事長の唐木英明氏の言葉としてデイリー新潮が掲載したのは

「日本も同様で、ワクチンを1回打てば、感染は防げなくても死者数は抑えられる。2回打てば相当な効果が見込まれます。現在、高齢者は少なくとも1回打った人が65%。7月中には7割、8割と増えていくでしょう。日本では感染の波が、これまで4カ月に1回訪れているので、次は8月ごろに、また感染者が増えるはずです。ただ、いままでと状況が異なり、高齢者の多くはワクチンを打っているので守られる。あと2週間もすれば、感染者数は右肩上がりになっても、重症者数や死者数は右肩下がりになるはずです。五輪開会式のころには、状況は一変してくるでしょう」とする言説ですが、甘すぎる見込みでしょう。

 

秋にかけてワクチンの接種が進むほど重症化率が抑えられるだろうという全体の記事の流れは正しくても、秋までは、感染の広がりに巻き込まれ後遺症を残す人や重症化する人が現にいて、そういう人が増加しようとしているという事実があるなら、その事実をこそしっかりと報道しなければなりません。

 

イベントで不幸な事故が起これば、イベント主催者は事故の責任を問われます。

事故の予見可能性、そして事故を防ぐためイベント主催者が通常求められるべき対策を行っていたかというのが裁判では争点になります。

 

東京五輪というイベントでは新型コロナウイルス感染症の増大、それに伴い東京を中心とした全国で感染の広がりに巻き込まれ後遺症を残す人や重症化する人が増大することは簡単に予見できます。それに対する通常求められるべき対策は、希望するすべての人に対してワクチン接種を行うというものです。この安全対策が完了していない中でイベントを主催したなら、イベント主催者やそのイベントを後押しする立場の政府は責任を問われるのは当然でしょう。

 

ただ、逆に言えば現時点でできる通常求められるべき安全対策は、それ以上ではありません。

 

交通事故が起こるかもしれないから道路を全部封鎖するというのが馬鹿げていますし、道路の管理者としても一定程度安全に走ることができる道路であれば交通事故に対して責任は問われることもありません。

 

現時点で新型コロナウイルス感染症への通常求められるべき対策はワクチン接種を希望者全員に行うこと以外にはあり得ません。ワクチン接種を進めて、その上でイベントなどを全面的に解禁し経済的な復興も行うべきです。五輪を、この象徴的なイベントにするなら夏までにワクチン接種を終えて1年遅れの五輪とするか、秋まで延期したうえで接種を終わらせるかのいずれかしかなかったのですが、そのいずれでもない形で開催することとなりました。

 

そして、その半年後に中国で大々的に多くの観客を入れて冬の五輪が開催される(変異種や新たな疫病により状況が大きく変わらなければですが。)ということがほぼ確定しているのですから、そことの対比で見られてしまうことまで考えると、最悪の時期、世界と日本の状況でのオリンピック開催としか言いようがありません。