テレビでは今日も国会中継が流れていた。

 俺は何となくその画面を見ながら首をかしげる。

 

「おっ、やってるな」

 

「何が?」

 

 ソファの後ろから咲の声がした。

 振り向くと、案の定ポテチを持っている。

 

「お前ほんと毎回いるな」

 

「国会とポテチは相性がいいからね」

 

「初めて聞いたわ」

 

 咲は気にせず隣に座った。

 テレビでは、高市総理の応援動画の話が続いている。

 

 俺は腕を組んだ。

 

「この問題、もっと国会で質問を積み重ねないと真相が分からんな」

 

 咲はポテチを一枚つまんだ。

 そして少し考えてから言った。

 

「じゃあ聞くね」

 

「何だよ」

 

「国会って何する場所だと思う?」

 

「法律作る場所じゃないのか?」

 

「うん」

 

 咲は指を一本立てた。

 

「法律を作る」

 

 二本目。

 

「予算を決める」

 

 三本目。

 

「行政を監視する」

 

「だいたいこの三つ」

 

 俺はうなずく。

 

「行政監視は大事だろ」

 

「もちろん」

 

 咲は即答した。

 

「行政監視は必要」

 

「じゃあ今回も監視じゃないのか?」

 

「そうかもしれないね」

 

 咲はあっさり言った。

 

 そしてメモ帳を引き寄せる。

 

追及

 

 

何を確認したい?

 

 

何を改善したい?

 

「これ」

 

「改善?」

 

「うん」

 

 咲は真ん中を指さした。

 

「今回の追及が成功したとして」

 

「うん」

 

「何が変わるの?」

 

 俺は少し考える。

 

「高市総理が謝る?」

 

「動画作成者と接触があったことに関して間違いを認めて謝る。で、そのあとは?」

 

「そのあと?」

 

「うん」

 

 咲は続けた。

 

「応援動画作ってますって言う支援者がいて」

 

「応援ありがとうございますと陣営が答える」

 

「今後とも応援よろしくお願いしますとも陣営は言うよね」

 

 そこで顔を上げる。

 

「追及前と後で何か変わる?」

 

「……」

 

「変わる?」

 

 俺はしばらく考えた。

 

 そして首を横に振る。

 

「言われてみると変わらないな」

 

「私もそう思う」

 

 咲はポテチを食べた。

 

 

「もちろん、話は単純じゃないよ」

 

 咲はそこで一度区切った。

 

「もし動画作成にお金が出ていたとか」

 

「高市氏側が誹謗中傷動画の作成を指示していたとか」

 

「そういう話なら意味は変わってくる」

 

 俺もそこはうなずく。

 

 単なる応援活動と、組織的な関与では話が違う。

 

「でもね」

 

 咲はポテチを一枚つまんだ。

 

「週刊誌って注目を集めるのが仕事でしょ?」

 

「まあな」

 

「だから見出しは派手になることもある」

 

「うん」

 

「でも私が見た限り」

 

「その見出しですら」

 

「そこまでは書いてないんだよね」

 

 咲は肩をすくめた。

 

「だから私には分からないの」

 

「国会で何を確認したいのか」

 

「確認した先で何を改善したいのか」

 

 俺は少し考えた。

 

「でもさ」

 

「うん?」

 

「誹謗中傷動画そのものは問題じゃないのか?」

 

 咲はあっさりうなずいた。

 

「それは議論する価値があると思うよ」

 

「あるのか」

 

「ある」

 

「表現の自由をどこまで守るのか」

 

「誹謗中傷への対応をどうするのか」

 

「SNS事業者にどこまで責任を求めるのか」

 

「そういう議論は普通に価値がある」

 

 咲はそこで少し首をかしげた。

 

「でもね」

 

「今の話って、そういう進み方してる?」

 

 俺は言葉に詰まった。

 

 確かに。

 

 今話題になっているのは、誹謗中傷動画全体の問題というより。

 

 高市氏と応援動画の関係についての話だった。

 

「……してないな」

 

「でしょ?」

 

 咲はうなずく。

 

「誹謗中傷動画の問題を議論したいのか」

 

「高市氏との関係を確認したいのか」

 

「そこが私にはよく分からない」

 

 

「でもさ」

 

 俺はまだ引っかかっていた。

 

「その理屈だと行政監視なんて全部無意味にならないか?」

 

「ならないよ?」

 

 咲は即答した。

 

「むしろ逆」

 

 咲はメモ帳を一枚めくる。

 

森友

 

 

国有地売却

 

 

公文書管理

 

 

再発防止

 

「例えば森友」

 

「うん」

 

「この件、評価はいろいろあると思う」

 

「でも一つだけ共通してることがある」

 

 咲はペン先を止めた。

 

「国の財産を売る時は公平じゃなきゃ困る」

 

「それはそうだな」

 

「もし同じ条件で買えるなら欲しい人がたくさんいた」

 

「そう思われる価格だった」

 

 俺は静かにうなずく。

 

「だから問題になった」

 

 咲は続けた。

 

「そして追及の結果」

 

「少なくとも公文書管理は前より厳しくなった」

 

「同じ問題を繰り返さないために何を改善するか」

 

「そこは議論された」

 

 俺はそこで気付いた。

 

「なるほど」

 

「追及そのものじゃなくて」

 

「改善に価値があるのか」

 

「そういうこと」

 

 咲はうなずいた。

 

 

 そして最後に、新しい図を書く。

 

不正発見

 

 

原因究明

 

 

制度改善

 

 

再発防止

 

「国会の仕事はどこだと思う?」

 

「……下の二つか」

 

「そう」

 

 咲は静かにうなずいた。

 

「不正を見つけるだけなら監査人でもできる」

 

「国会が特別なのは」

 

「その先を決められること」

 

 制度を変える。

 法律を変える。

 予算を変える。

 再発を防ぐ。

 

 それが国会の力だ。

 

「だから私はね」

 

 咲はペンを置いた。

 

「誰が悪いかより」

 

「何を改善したいのかを見るかな」

 

「改善か」

 

「うん」

 

「だって改善できないなら」

 

「怒って終わりだから」

 

 俺は思わず苦笑した。

 

 テレビではまだ国会中継が続いている。

 でも今の俺には別のことが気になっていた。

 

 この議論の先に何があるのか。

 何を確認したいのか。

 

 何を改善したいのか。

 

「なあ、咲」

 

「ん?」

 

「政治を見る時って」

 

「うん」

 

「誰が悪いかだけ見てても駄目なんだな」

 

 咲は少しだけ笑った。

 

「そうだね」

 

「私は」

 

「その人が何を良くしたいのかを見るかな」

 

 そして立ち上がる。

 

 最後に振り返った。

 

「国会ってね、和にぃかずにい

 

「不正を見つける場所じゃないの」

 

「本当は不正を見つけた先で」

 

「何を改善するのかを決める場所」

 

 俺はテレビを見ながら少し考えた。

 

 たぶん今日初めて。

 国会という場所を、そういう目で見た気がした。

 

 

 

 

 

 

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あとがき

 

この話は

『限界総理キッシーが覚醒したってマ?』

の番外編として書いた作品です。

 

ただしこの物語は、本編とは少し違う世界線のお話になります。

 

この世界では

 

・祝田咲は総理に転生していない

・岸川ドクトリンもまだ存在していない

 

という設定です。

 

もしこの短編で咲と和馬に興味を持っていただけたなら、

本編では

 

・咲が日本の総理に転生し

・政治制度を変えながら世界を動かしていく

 

という物語が描かれています。

 

よろしければ本編も読んでいただけると嬉しいです。

 

https://kakuyomu.jp/works/16817330664870883901

高市政権は、ホルムズ海峡情勢について、現時点では護衛任務派遣を予定していないとしつつも、「法的に可能な範囲で何ができるか」を精力的に検討していると説明している。報道ベースでは、検討対象には機雷除去、船舶防護、さらには各国軍への協力まで含まれているという。つまり、政府はまだ一案に固めてはいないが、かなり幅広い選択肢を棚卸ししている段階にあると見てよい。

 

 

 

 

だからこそ、いまの段階で明確にこれはするべきではないと線を引いておくべきことがある。
 

それは、「調査名目で護衛艦をホルムズ海峡に乗り入れること」と、「近海で補給艦を運用して片方の陣営だけを支えること」の2つはするべきではないということである。

 

まず、調査名目で護衛艦を危険海域に入れる発想は、制度国家として非常に危うい。現在の日本独自の中東情報収集活動は、政府の閣議決定に基づいて行われており、その対象海域はオマーン湾、アラビア海北部、アデン湾東側とされている。これはあくまで情報収集のための枠組みであって、戦闘の危険が高い海域に護衛艦を実質的な作戦行動のように進出させるための白紙委任ではない。

 

ここを曖昧にしたまま、「調査だから入れる」とやってしまえば、将来、どんな危険海域でも「調査」や「情報収集」という言葉で自衛隊の行動範囲を広げられることになりかねない。これは単なる法解釈の問題ではない。シビリアンコントロールそのものの劣化である。

 

シビリアンコントロール(文民統制)とは、本来、軍事に対して政治が優位に立ち、国会が法律や予算、必要な承認を通じて自衛隊を統制する仕組みのことだ。任務の中身に比べて法的根拠が曖昧なまま艦艇を前に出すことは、この統制原理を内側から傷つける。政府が「いま何ができるか」を幅広く検討すること自体は否定されるべきではない。しかし、その検討の結果として、現行法の趣旨を超える運用拡張が既成事実化されるなら、それは極めて危険である。

 

補給行動についても、安心はできない。日本法上、補給や輸送といった後方支援は制度として位置づけられており、過去にはインド洋で補給活動を行った前例もある。法形式だけを見れば、曖昧な名目で護衛艦を入れるより、補給艦を後方支援任務として出すほうが、むしろ条文上は整理しやすい面すらある。

 

しかし、問題はそこではない。
 

ホルムズ近海で片方の陣営にのみ燃料や物資を供給する行為は、日本政府が国内法上どれほど「後方支援」と呼んでも、相手から見れば中立的な行為とは映らないだろう。
 

比喩で言えば、それは撃ち合っている当事者の一方にだけ、弾を込めた銃を手渡すのに近い。もちろん、補給艦が実際に引き金を引くわけではない。だが、現に戦っている側の継戦能力を支えるという意味で、それは単なる「安全確保」や「調査」の延長ではない。

 

日本政府の側では「後方支援」という言葉で整理できても、イランから見れば話は別である。相手にとって重要なのは、日本が自国の法律でどう呼ぶかではなく、実際に何をしているかだ。近海で片方の陣営にだけ補給を行えば、それはかなり直接的な敵対支援として受け取られる可能性が高い。少なくとも、中立的な航行安全確保措置とは見られにくい。

 

その点で、仮に日本が何らかの関与を考えるとしても、少なくとも掃海のように「停戦後に、誰が設置した機雷であっても除去する」という一般的・事後的な任務の方が、まだ中立性の外観を保ちやすい。もちろん、それでもイランから完全に中立と見られる保証はない。だが、少なくとも近海補給のように、現在進行形で一方の軍事行動を支える行為とは性質が違う。

 

いま必要なのは、「何が法的にできるか」を広く探すことだけではない。
 

何をしてはいけないかを、先に明確にすることである。

 

調査名目で護衛艦をホルムズ海峡に入れてはならない。
補給支援の名で、実質的な参戦行為に近い行動を軽く考えてはならない。
自衛隊の艦船を危険海域で動かすのであれば、なおさら、その任務、海域、武器使用基準、国会関与を明文化しなければならない。

 

曖昧な法的根拠で前へ出ることは、一時的には「柔軟な対応」に見えるかもしれない。だが長い目で見れば、それは政府の裁量を際限なく膨らませ、国会の統制を弱め、シビリアンコントロールを空洞化させる。
 

それは、日本が最も避けるべき道だと思う。

春めいた空気の裏側で、
世界のエネルギー市場はずいぶん落ち着かない動きを見せています。
その影響は、日本にも静かに近づいているように思えます。

 

それは、今回の事態が単なる「中東情勢の緊迫化」で片づけられる話には見えない、ということだ。


もちろん、直接の材料はイラン情勢だろう。供給不安、輸送不安、ホルムズ海峡への警戒。原油市場が強く反応するのは当然だ。世界の景気が弱含みであっても、供給側のショックが起きれば価格は一気に跳ねる。今回の上げ方は、まさにそういうものだった。

 

ただ、気になるのはそこから先だ。

 

アメリカ発の軍事的・地政学的圧力が国際価格を大きく押し上げているのに、アメリカ側の発信は驚くほど国内向けに寄っているように見える。語られるのは、米国内のガソリン価格であり、有権者の負担であり、政治日程への影響であって、国際価格の暴騰が同盟国や輸入国経済にどう響くのか、という視点がかなり薄い。

 

ここに強い違和感がある。

 

昔のアメリカが常に責任感にあふれていた、などと言うつもりはない。イラク戦争の頃だって、米国が市場安定のために積極的に動いたとは言いにくい。だが少なくとも、戦争が原油価格や供給不安、世界経済にどう影響するかは、今よりもっと公的な論点として扱われていた印象がある。


今回はそこがかなり違う。国際価格のショックを引き起こしておきながら、その説明がほぼ国内向けの言葉だけで済まされているように見える。私には、それがかなり無責任に映る。

 

特に日本のような国にとって、これは軽い話ではない。


日本はエネルギーを海外に依存している。しかも中東依存が高い。原油高はそのまま輸入額の増加につながり、交易条件を悪化させ、企業収益と家計の双方を圧迫する。すぐに危機になるわけではないにしても、じわじわと経常収支を削っていく力を持っている。

 

しかも日本企業にとっては、ただ「価格が上がった」で済まない。


日本は3月末決算、4月新年度という企業が多く、この時期の急変は予算編成や契約更改、価格交渉にそのまま刺さりやすい。実際の輸入価格がまだ全面的に反映していなくても、見積もりの前提が崩れ、ヘッジ条件が悪化し、利益計画が苦しくなる。家計への影響が広く見える前に、企業の現場ではすでに「きつい」が始まっていてもおかしくない。

 

では、今回の動きは日本の経常収支を狙ったものなのか。

 

そこまで断定する材料は、少なくとも今の段階ではないと思う。そこを断言すると話は弱くなる。

 

ただし、別の言い方はできる。

 

日本や韓国のようなエネルギー輸入国が深く傷むことは、最初から十分予見できたはずだ。


にもかかわらず、そのコストがアメリカ側の説明の中でほとんど正面から扱われていないとすれば、それは「敵意」よりもむしろ「優先順位の低さ」を示しているのではないか。つまり、日本が傷むことを主目的としているとは言えないが、日本が傷むことを大きな問題としては見ていないように映るのである。

 

この構図で相対的に得をする国もある。


ロシアは原油高の恩恵を受けやすい。中国も、ロシアなどからの調達余地や備蓄を持つ分、日本や韓国ほど一方的には痛まない。もちろん中国も無傷ではないが、少なくとも日本ほど「3月に高値を真正面から食らう」構図ではない。そう考えると、今回の価格ショックは、アジアの中でも日本や韓国のような同盟国にとってかなり不利なものになっている。

 

だからこそ、日本がやるべきことは単純な反米感情の噴出ではないと思う。
大事なのは、「日本国内でアメリカへの不満が高まっている」という現実を、交渉可能な言葉に変えることだろう。

 

トランプ氏は、理念で動くというより、自分の利益になるかどうかで動く印象が強い。


であれば、日本側も「困る」「遺憾だ」と言うだけでは弱い。


このままでは日本国内で対米協力案件を通しにくくなる、対米投資やエネルギー協力の政治的余地が狭まる、日本経済の傷みが強まれば同盟の基盤にも悪影響が出る――そういう形で、アメリカにとっても損だと伝える必要がある。

 

幸い、日米首脳会談の予定もあり、伝える場所には困らない。

そして、日本にはまだカードがある。


アメリカがシェールオイルやLNG、エネルギー輸出拡大に強い関心を持つなら、日本はそこに資金、需要、長期協力という形で関与できる。理念ではなく案件ベースであれば、協調の余地はあるだろう。


問題は、その協調を引き出す前提として、日本国内の不満や危機感がどこまで可視化されるかだ。政府だけでは言いにくいこともある。野党、民間、経済界、世論が「これは日本にとって看過できないコストだ」と声を上げてこそ、水面下の首脳交渉にも重みが出る。

 

今回の原油高を見ていて感じるのは、陰謀論めいた話ではない。


もっと単純で、もっと現実的なことだ。

アメリカは、自分たちが引き起こしている国際価格ショックに対して、あまりにも国内向けの言葉だけで話を済ませているように見える。


そして、そのしわ寄せは日本のような輸入国に静かに押しつけられている。

 

日本に必要なのは、感情的な反発ではなく、
「このコストをこちらだけが黙って引き受けるわけにはいかない」
と、冷静に言語化することだと思う。

 

同盟とは、片方が負担を黙って呑み込み続ける関係ではないはずなのだから。

中国が日本企業や大学を対象とする輸出規制および監視リストを発表した。

 

表面的には報復措置のように見える。
しかし実体経済への影響を冷静に見ると、今回指定された企業の多くは既に脱中国対応を進めており、直接的な経営打撃は限定的と考えられる。

 

むしろ注目すべきは、規制そのものよりも「監視リスト」という形式である。

 

完全遮断ではなく、
「いつでも止められる」という不確実性を与える。

 

中国が恐れているのは、日本企業の全面的なデカップリングであり、経済圏の分断が固定化することである。これは中国政府の攻撃というより、自国依存から脱却させないための防御的行動である。

 

だが、この動きは逆説的に、通商ルールの再設計を加速させる可能性がある。


安全保障と通商の融合

かつて通商政策は効率の問題だった。

安く買い、高く売る。
 

関税を下げ、市場を広げる。

しかし現在は違う。

・半導体は軍事と直結
・エネルギーは国家存続と直結
・データは主権と直結

 

安全保障と通商は切り離せなくなった。

米国が安全保障を理由に関税を用いることは、もはや例外ではない。
欧州でも戦略物資の管理強化が進む。

安全保障のための関税や輸出規制は「逸脱」ではなく「新常態」になりつつある。

この前提の下で、TPPの性質も変わる。


TPPは市場開放協定ではなくなる

2015年当時、TPPは市場圧力装置だった。

利益率を押し上げ、株主資本主義を強め、日本型経済を欧米型へ収斂させる可能性を持っていた。この懸念は当時妥当だったと思っている。

しかし今、TPPに求められる機能は違う。

それは「安全保障内包型通商ルール」である。


拡張すべき機能は何か

今後TPPで議論すべきは、単なる関税削減ではない。

拡張すべきは以下の領域である。

① 輸出規制の透明化ルール

・戦略物資の定義共有
・規制発動条件の明確化
・事前通知義務
・恣意的発動の制限

これにより、監視リスト型の曖昧圧力を抑制できる。


② 国有企業への規律強化

国家補助金や優遇融資の透明化を徹底し、
市場競争を歪める行為を抑制する。

これは中国排除ではない。
条件付き参加の設計である。


③ 供給安定条項の導入

・重要物資の供給停止を政治的に利用しない
・サプライチェーン遮断を制裁手段として濫用しない

これを通商ルールとして明文化する。


④ 安全保障関税の枠組み整備

安全保障を理由とする関税を完全否定するのではなく、

・発動要件
・期間制限
・加盟国間協議義務

を制度化する。

無秩序な保護主義ではなく、
管理された安全保障関税。


RCEPとの位置づけ

RCEPは接続維持の枠組みである。
包摂型であり、緩やかなルール圏だ。

一方TPPは高水準ルール圏である。

両者は対立ではない。

RCEPは経済接続の最低基盤。
TPPは制度収斂の上位基盤である。

TPPが安全保障を内包すれば、その性質は根本的に変わる。

TPPに反対してきた人間として片腹痛い部分はあるが、既に存在している条約である以上、使える物に作り替えるべきだと考える。


中国はどう動くか

中国は直ちには参加しないだろう。

しかし産業界はWTO加盟後の成功体験を知っている。

10年単位で主要ルール圏の外にいることは、技術標準から外れることを意味する。

最初は拒否するが、やがて部分適応してくるだろう。
最終的に条件付き参加という可能性も十分ある。

その際には、中国政府の性質は大きく変わっていることだろう。


結論

TPPはかつて、日本型経済を揺るがす装置になり得た。

しかし、安全保障と通商が融合する時代において、
TPPは市場開放協定から安全保障内包型ルール圏へと性質転換できる。

日本がこの枠組みをどう設計するかによってTPPの価値も変わるだろう。

自然に立ち位置が決まる時代は終わった。

新しい制度を設計しなければ、我が国の立ち位置は維持できないだろう。

幸いにも日本の政権は4年間安定することとなった。この4年で世界に対して新しいルールでの経済圏を構築することができるかどうかが、これからの日本の行く末を左右するだろう。