ユーロ2024、ポルトガルがスロベニアに辛勝し8強へ | パーソナルトレーナー/写真作家 古川貴久 【Personal Trainer / Photowriter】 Takahisa Furukawa

パーソナルトレーナー/写真作家 古川貴久 【Personal Trainer / Photowriter】 Takahisa Furukawa

◆ピラティス・マスターストレッチ・ウェイトトレーニング
◆東京浅草、ポルトガル写真

 ユーロ2024ノックアウトステージのラウンド16が先日行われ、ポルトガルがスロベニアと対戦。90分プラス延長120分でも決着はつかず、PK戦の末、辛くも勝利し、8強進出を決めました。ポルトガルは前の試合のグループステージ第3戦、ジョージア戦のスターティングメンバーから実に9人を入れ替えてこの試合に臨みました。グループステージでは2戦を終えた時点で1位通過が決まっており、ジョージア戦はターンオーバーを敷いたためで、温存させたレギュラークラスのメンバー9人をスタメンに復帰させた形となりました。GKのディオゴ・コスタを除き、フィールドプレーヤーでは唯一の4試合連続スタメン出場となった不可侵の選手、クリスティアーノ・ロナウドは未だ今大会無得点。初ゴールの期待がかかっていました。

 

 ポルトガルのフォーメーションは4-3-3。スロベニアが配置上、2トップであったため、3バックで入るかと思われましたが、4バックスタートで、その代わり明確なワンボランチ、アンカーの位置にパリーニャが起用されました。攻撃時はジョアン・カンセロかヌーノ・メンデスのサイドどちらかが高い位置を取るか、両サイドとも高い位置を取ってCBの間にパリーニャが落ちるか。前半は前者、後半は点を取りに出るため後者の形が多く目につきました。いずれにしても、この試合でのパリーニャの守備面の重責は大きなものだったと言えます。

 序盤からポゼッションで大きく上回るポルトガルは、ハーフスペースからファーへのアーリークロスで幾度かチャンスを創出していました。グループステージではこのプレーがなかなか選択されず、ロナウドが苛立つシーンがありましたが、ベルナルド・シルバが右サイド深くまで侵入し、ブルーノ・フェルナンデスへのバックパスからダイレクトでクロス、あるいはどちらかが単独でインサイド・レーンからファーに入れて中で合わせる、という形を試みていました。いずれも間一髪のところで合わなかったものの、決定機となり、指揮官のロベルト・マルティネスも思わず頭を抱えながらも拍手で称賛。引いた相手に対して手詰まりだったグループステージから修正して、意図的に狙っていたのではないでしょうか。

 一方、守備面に目を向けると、この試合でやや精彩を欠いていたのはCBのペペ。前の試合での出場はなく、完全休養日となったものの、やはり疲労の蓄積があるのか、得手であるはずの1対1の場面で振り切られるシーンが度々あり、コンビを組むルーベン・ディアスの後処理や中央に絞ったヌーノ・メンデスのカバーなど、周囲のフォローで事なきを得ていました。スロベニアも意図的にペペに一人付けていた感もあり、後々、延長戦でもスロベニアにビックチャンスを献上することになります。

 

 後半はジョアン・カンセロが攻撃のキーマンになって躍動していました。開始早々からドリブルで右サイドの深い位置まで侵入するシーンが増え、相手より質的優位に立っていました。後半の早い時間帯でゴールを挙げることが出来ていれば、ポルトガルの勝機は一気に高まっていたかもしれません。

 後半途中に発表されたボールポゼッション率は69%対31%。圧倒的にボールを保持するものの、ゴールが奪えず。ロナウドもこの試合、ゴール正面から3本も直接FKの機会がありましたが、得意のインサイドインステップキックはGKの正面かクロスバーを越え、決めきれず。64分にはヴィチーニャに代えて前でフィニッシュに絡めるディオゴ・ジョタ、75分には質的優位を創り出せなかったラファエル・レオンに代えてグループステージ第1戦目の殊勲者フランシスコ・コンセイソンが投入され、状況打開が図られましたが、スロベニアのフィジカルと集中を切らすことのない堅牢な守備により、ポルトガルに好機を与えませんでした。88分、この試合唯一のオープンプレーからのロナウドの絶好機。ディオゴ・ジョタが中盤でボール奪取し、自らドリブルで持ち込むと、その前にダイアゴナルで裏に走ったロナウドへのスルーパス。ワンタッチで合わせ左足を振り抜くも、GK正面を突いてしまいゴールならず。試合はこのまま延長戦に突入します。

 

 延長戦のポイントは二つ。前半のロナウドのPK失敗と、後半のGKディオゴ・コスタのビックプレーです。PKをミスしたロナウドを見るのはかなり久し振りな気がしますが、どうやら2年ほど前、マンチェスター・ユナイテッド在籍時以来のこととか(本人は試合後、今年2度目の失敗と言っていましたが、サウジアラビアリーグで、でしょうか)。インターバルでは涙を流しながらうなだれ、チームメイトから慰められるシーンが画面に映し出されました。PKを獲得した張本人であるディオゴ・ジョタが近づき、常時ロナウドのバックアップメンバーに甘んじているゴンサロ・ラモスが声をかける。パリーニャが円陣を組んでいる最中、後ろからロナウドの首を叩き、普段から仲の良い後輩ディオゴ・ダロットは首と頭を掴み、耳元で強い口調で叱咤激励しながらピッチに送り出す。そんなシーンは中継画面だけでなく、SNSでも散見しました。後半のポルトガルの絶体絶命のピンチは、ペペのミスからでした。明らかに疲労の色が隠せなくなり、足元がおぼつかないまま中途半端にボールタッチした瞬間を相手にかっさらわれ、GKとの1対1。ディオゴ・コスタは落ち着いて重心を落とし、左下に放たれたシュートをはじき出しました。これが決まってポルトガルが敗退していたら、ロナウドの代表のキャリアは終わっていたかもしれない。それぐらい大きな意味のあるファインセーブでした。

 

 結局両チームとも無得点に終わり、PK戦に突入。ポルトガルはこの日PK2本目となったロナウドが一人目、続くブルーノ・フェルナンデス、ベルナルド・シルバが順当に決めたのに対して、スロベニアはGKディオゴ・コスタのユーロ史上初となる3本連続セーブに阻まれ、万事休す。ポルトガルがこの試合を辛くも制しました。MOTMは無論、ディオゴ・コスタ。延長後半のビックプレーだけでなく、PK戦3本全て両手でのディフレクティングで完璧に止めてみせるなどのパフォーマンスを踏まえ、文句なしの選出でした。ディオゴ・コスタは現在FCポルトの選手ですが、度々プレミアリーグ移籍の噂が囁かれています。今回の活躍で再び注目されると思われますが、先日FCポルト会長に就任したアンドレ・ビラス=ボアスが“今は売らない”と明言しており、少なくとも来シーズンはFCポルトの選手としてプレーすることになるでしょう。

 

 この試合で印象に残ったのは、ロナウドがPKを失敗した後のチームの反応でした。まだ試合中だというのに人目をはばからず涙を流しうなだれるロナウドの姿を見たイギリスのメディアが、“恥ずべき行為だ”“自分のことしか考えていない”と痛烈に批判したとの報道もありました。確かに、ピッチに立っている一選手として、キャプテンとして、適切な振る舞いではなかったかもしれません。ただ、そんな“人間”ロナウドをチームが慕い、指揮官が全幅の信頼を寄せ、サポーターが感情を共にして、今のポルトガル代表が成り立っています。ロナウド本人にとっては不運と幸運と安堵の、ジェットコースターのような試合だったかもしれませんが、今回の彼のPK失敗の功名として、チームが改めて一つになり、またジョージア戦の敗戦で滞った感のあった良い流れを再び急流に押しやるような、そんな試合ではなかったかと感じました。

 

 ラウンド8の対戦国はフランス。8年前の決勝と同じ対戦カードです。個人的にも、当時をいろいろ思い出しながら観戦したいと思います。