パーソナルトレーナー/写真作家 古川貴久 【Personal Trainer / Photowriter】 Takahisa Furukawa

パーソナルトレーナー/写真作家 古川貴久 【Personal Trainer / Photowriter】 Takahisa Furukawa

◆ピラティス・マスターストレッチ・ウェイトトレーニング
◆東京浅草、ポルトガル写真

 ユーロ2024のノックアウトステージ・ラウンド8が先日行われ、ポルトガルはフランスと対戦しました。90分と延長戦でも決着がつかず、PK戦に突入。フランスは5人全員が決めたのに対し、ポルトガルは3人目のジョアン・フェリックスが左ポストを弾いて失敗。ポルトガルが敗退し、2016年以来2大会振りの制覇とはなりませんでした。

 

 ポルトガル対フランスは、8年前のユーロ2016決勝と同じ対戦カード。当時の試合でポルトガルは、前半早々にクリスティアーノ・ロナウドの負傷退場というアクシデントに見舞われました。ただ、代わって投入されたリカルド・クアレスマがその穴を十分に埋める働きを見せ、諦観モードを一掃。それでもフランスの圧倒的攻勢は変わらず、ポルトガルはシュートの集中砲火を浴びるも何とか耐え凌いで延長戦に突入。すると延長前半、途中出場していたエデルがミドルサードでボールを受けるとマーカーを弾き飛ばし、そのまま持ち込んでシュート。左下隅に決まり、これが決勝点となって、ポルトガルが欧州初制覇を成し遂げました。私は当時、ポルトガルのリスボンに滞在しており、アラメダというメトロの駅を上がってすぐの広場に設営されたパブリックビューイングでこの試合を観ていました。エデルのシュートが決まった瞬間はまるで暴動でも起きたかのような騒ぎで、上下に揺れる地面の振動が足裏から全身に伝わってくるほどでした。優勝が決まった時の感動は今でも胸の内にありますし、目撃した景色は今でも脳裏に焼き付いています。

 

lisboa 2016

2016年 アラメダのパブリックビューイングにて

(筆者撮影)

 

 あれから8年後の今回の対戦もフランスが圧倒的優位なのかと思いきや、ポゼッションではポルトガルがフランスを上回り、非常に見応えのある試合でした。前の試合でやや精彩を欠き、疲労の色を隠せなかったペペも問題なく先発に名を連ね、獅子奮迅のプレーでチームを鼓舞。普段パリ・サンジェルマンでプレーするヌーノ・メンデスとヴィティーニャもその持ち味を遺憾なく発揮し、フランスのディフェンスに手を焼かせていました。目を引いたのは前線の動きでした。ロナウドはこれまでほとんどセンターレーンから動かず、痺れを切らした時だけくさびに入ってくるという印象でしたが、この試合は特に左サイドのインサイドレーンに積極的に顔を出し、ボール回しに絡んでいました。またラファエル・レオンも普段は左サイドでアイソレイトし、個で勝負をかけることが多かったのですが、インサイドレーンにポジションを取る機会も多く、ヌーノ・メンデスのオーバーラップを引き出していました。もっと早くからこういった動きやローテーションがあれば、これまでの試合もスムーズに勝ち切れた気もしますが、修正してきたというところでもあるでしょうし、フランスという列強国がそうさせたという側面もあるのでしょう。ポルトガル以外の他国の多くが批判していたほど、この試合のロナウドは悪くはなかったと個人的には思います。結果的にポルトガルは3試合連続で無得点に終わったわけですが、それは相手とて同じこと。フランスも決定機を創出はしつつも、フィニッシュに精彩を欠きました。PK戦は時の運。ルーベン・ディアスが、“抽選のようなもの”と表現していましたが、GKディオゴ・コスタにしても前の試合ではユーロ史上初の3本連続でセーブをしているのに、この日は5人全員に決められるわけですから。失敗したジョアン・フェリックスを誰も咎めることは出来ません。

 

 今大会のポルトガルの収穫としては、ロベルト・マルティネス体制で初の大きな国際大会において、チームの中軸、中核が鮮明になったことではないでしょうか。グループリーグ第1戦でMOTMに輝いたヴィティーニャは確実にこのチームのマエストロになっていくでしょうし、出場機会が限られたパリーニャも今後はアンカーとして不可欠な存在になるでしょう。左サイドで躍動したヌーノ・メンデスは指揮官の評価も非常に高く、3バックだろうと4バックだろうと左利きの大型DFとして攻守両面で期待されるでしょう。

 検討修正しなければならないポイントは、やはりベテラン2人のところであることは誰もが考えるところです。ペペは確かに41歳とは思えないパフォーマンスを見せていましたが、連戦となるとやはり年齢からくる疲労の蓄積は否めません。ワールドカップまであと2年ある中で、彼の後継者を立てることは必至のタスクではないでしょうか。ジョージア戦でA級戦犯扱いされたアントニオ・コスタなのか、今大会特にインパクトを残せなかったゴンサロ・イナシオなのか、本職はディフェンシブハーフですが前監督のフェルナンド・サントス体制の時代から代表では最終ラインでの起用が主になっているダニーロ・ペレイラなのか。注目したいところです。そして、言わずもがな、クリスティアーノ・ロナウド。彼だけでなく、今大会の結果で指揮官ロベルト・マルティネスに対する批判が高まっているようですが、契約が2026年までとなっている中で、よほどのことがない限り解任されることはないと思われます。そして、マルティネスが監督である限り、首尾一貫してロナウドは代表に選出され続けるでしょう。だとするならば、ロナウドとの組み合わせが攻撃においては重要なカギになります。左サイドでアイソレイト気味になるラファエル・レオンでいいのか。右サイドのベルナルド・シルバと同様に、ロナウドの周りを衛星のように走り回れるタイプの選手、ジョアン・フェリックスの方が合うのではないか。ラファエル・レオンを使うのであれば、セントラルMFのところに一枚、セカンドトップのような役割でロナウドをサポートする動きが出来る選手を置いた方がボール回しもスムーズに、そしてゴール前の詰めのところでも厚みが出るのではないか。ポルトガルサッカーに少なからず通じているものなら、それぞれが考えるところではないでしょうか。

 

 ユーロは終わってしまいましたが(ポルトガル以外はまだですが)、ワールドカップまではあと2年。ロナウドにとっては、唯一手にしていないタイトル。あと2年、彼のフィジカルは持つだろうか。アスリート、特に高齢の選手にとって、2年という年月は身体が変化し、パフォーマンスを変えるには十分な期間です。2年後には彼の年齢は41歳に到達します。不惑のプレーヤーとして、変わらずピッチに君臨し続けているのか。はたまた予想に反して、指揮官の禁断のメスが入るのか。他の代表選手共々、注視していきたいと思います。