
今年はビートルズの記念すべきデビュー・アルバム 『プリーズ・プリーズ・ミー』 の発売から60周年となります。 1963年3月22日、イギリスにてモノラル録音によるアルバムがリリースされています。 4月26日にはステレオ盤もリリース。単にビートルズのデビュー・アルバムという事だけでなく、ポピュラー・ミュージック史の中での最初の革命的なアルバムとして記されています。
このアルバムに続いていくビートルズの作品はどれも素晴らしく、甲乙を付けるのは非常に難しいですよね。 皆さんにとってのそれぞれの "ベスト" があるかと思います。 あくまでも個人的なランク付けとしては、常に上位にあるアルバムということで。 アルバムのポイントだと思われる曲をいくつか選んで記事にしてみました。
I Saw Her Standing There
このアルバムは、プロデューサーであるジョージ・マーティンによって、当初は彼等のホーム、キャバーン・クラブでのライヴ・レコーディングが計画されていたといいます。地元リバプールでのライヴにおける客たちの熱狂を知っていたマーティンは、それをレコード盤の溝の中に刻もうと考えたんですね。
しかしながら、クラブの音響の悪さと当時の機材移動の困難さを考えてそれを断念。ならばということで、スタジオでライヴ演奏を再現しようとなったわけです。スケジュール上、スタジオが使用できるのは10時間。 多くの時間を与えられなかったのには、新人バンドという事情もあったからかもしれません。 ですがそれがプラスに働いたというわけです。時間は限られているぞという、ライヴと似た緊張感ですね。
ジョージ・マーティンは4人に自由に演奏させ、ジョン・レノンも、ハンブルグやキャバーンでのライヴの雰囲気を意識して演奏したそうです。アルバム冒頭の 「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」でのポールの掛け声 "ワン・ツー・スリー・フォー" は、まさにライヴの始まりを告げるカウントを意味しています。
Please Please Me
アルバム発売に先立つ1月に、この曲はシングル発売されています。これは有名な話ですが、録音の際にジョージ・マーティンによってアレンジ面でひとつの提案がなされています。 簡単に言うと「テンポが遅いので、もっとヒット性のある軽快なテンポで」 ということ。 「プリーズ・プリーズ・ミー」は当初、もっとゆったりとした曲だったんですね。
結果としてビートルズは、この曲によってイギリスで大ブレイク。 ビートルズというグループの奇跡を語るさい、ジョン・レノンとポール・マッカートニーの出会いがまず語られますが、4人とジョージ・マーティンとの出会いが、 ”奇跡のビートルズ・トレイン” 最後のピースとしてはまり疾走を開始した。それは歴史が証明したことになります。
ビートルズ最初のナンバー・ワン・ヒットであるこの曲は、ビートルズ革命の始まりとなった曲です。曲ラストの、残響音の中で繰り返す "ミー・オー・イェー! " の歌声の中に、当時のビートルマニアたちは、これから4人と共に過ごす幸せな時代という未来を見たのではないでしょうか。
Baby It's You
「ベイビー・イッツ・ユー」は、ビートルズが公式に残した唯一のバカラック・ナンバーです。バート・バカラックのソングライティングからすると、影響と言う意味ではポール・マッカートニーが先に思い浮かびますが、これはジョン・レノンが歌っています。
おそらくジョンは、バカラック云々よりもこの曲のオリジナルソングであるシュレルズからの影響が大きかったのではないかと考えます。ジュレルズは、60年代前半にアメリカで人気となった黒人女性4人によるガールズ・グループです。ジョン・レノンはこのグループのファンであったそうです。
10時間と言う時間的制約の中で作られたアルバムの、最後から2番目に録音した曲です。 すでにかすれ気味となっていたジョンの声がプラスに作用し、曲に切実感を与えています。こういったソウル・フィーリングは当時のポール・マッカートニーにはないもの。 初期のビートルズにおいては、表現力ではジョンの才能が先行していたことがわかります。
Twist And Shout
1963年2月11日、わずか10時間で録音された疑似ライヴ 『プリーズ・プリーズ・ミー』のラスト・ナンバーとなったのが、それに最もふさわしい曲「ツイスト・アンド・シャウト」です。当日風邪をひいていたというジョンの声はすでにつぶれる寸前。 ゆえにファースト・テイクをアルバムに採用。 2テイク目では、ジョンの声はつぶれて出なくなっていたとのこと。
この曲はアイズレー・ブラザースのバージョンをカバーしたもの。 ずっとライヴでも演奏し、やり慣れていた曲です。ですが、一発で決めなければならない事情によって、ジョンは上半身裸でスタジオに入り、気合いを入れて歌ったそうです。ジョンを追いかけるポールとジョージのシャウト・ボーカルも素晴らしいのですが、それはジョンによる全身全霊の歌唱が引き出したものと言ってもよいのではないでしょうか。
プリミティブな情熱によって生み出されたアルバム。 このアルバムを聴くたび、演奏技術以上に大切なことがロックにはあるということを思います。 今聴いても、4人の瑞々しいエネルギーが、褪せることなくアルバムに詰まっていることがわかります。未来を見据えた4人の笑顔を捉えたジャケット写真も秀逸です。
