AMY エイミー | Get Up And Go !

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エイミー (原題: AMY ) (2015 / イギリス・アメリカ)
● 監督 アシフ・カバディア 
○ 出演 エイミー・ワインハウス / マーク・ロンソンン / トニー・ベネット 他



2011年7月23日、27歳で亡くなったエイミー・ワインハウス。 あれから5年が経ったことになります。 喪失感というのは、亡くなって初めてその大きさがわかるものですが、現在上映中の映画 『AMY エイミー』 を観て、あらためてまたその思いを強くしました。

歌うことが何よりも好きだった少女時代から、音楽界の頂点にまで登りつめ、そして傷つき見失いこの世を去るまでを、集めたフィルムを順を追ってつなぐことによって描いたドキュメンタリー映画です。

僕はセカンド・アルバムである 『BACK TO BLACK』 を聴いてから彼女の歌のファンになったのですが、伝えられてきたスキャンダラスな部分にはなるべく深入りせずに、彼女の音楽のみに耳を傾けるよう心掛けてきました。 ですが、今回の映画では、描かれたスキャンダラスな部分を含めての彼女の真実に近づき、そしてそれを知ることによって彼女の歌の懐深くまで入り込んだような気がしました。 ドキュメンタリーとしては、とてもよくできた映画です。 そして、実体験に基づいた歌詞による彼女の歌を聴いているうちに、ファンとしては辛い気持ちになったのもまた確かです。




エイミー・ワインハウスと言う人は、自分に対してとても正直なんですね。語る言葉もそうであるし、歌の言葉も。 ストレートで過激な面もあるけれど、無防備で傷つきやすくもある。

ドラッグを恋人から教わった彼女は「リハビリ施設になど入りたくない」 と 「リハブ」 で歌い、「バック・トゥ・ブラック」 では、その恋人がもとの彼女のもとへ戻ってしまい 「私は暗闇に戻る」 と歌う。

ソングライターというのは、吐き出すことによって自身を救済する、という面も確かにあるのですが、それにしてもそこまで自分の内面をえぐり出さなくても、なんてふうにも思ってしまうのです。 もっとも、そんな赤裸々な歌詞であっても、優れた表現力による歌とユーモアのセンスによって、作品として高いレベルで昇華させてしまう特別な才能に、私たちは拍手したりもするわけですが。


AMY WINEHOUSE / Rehab (2006)


「歌は大切なものだったけど、歌手になるとは思わなかった」 と言っていた彼女はグラミー賞まで受賞し世界のトップにまで登りつめますが 「もし有名人と自覚したら自殺するかも。 恐ろしすぎて」 なんてことも言っています。

そして有名になってもそのままに、男に溺れ、ドラッグに浸かり、アルコールにも飲まれる。 そして興味本位のメディアの恰好のネタになってしまう。 友人たちの支えと音楽によって、いっとき立ち直れてもまた繰り返してしまう。 彼女と親交のあったヒップホップ・アーチスト、ヤシーン・ベイが言った 「彼女はスターになっても天狗になるどころか戸惑っていた。 不安と恐怖でいっぱいだったんだ。 自分を取り巻く状況に "どうしたらいいの?" と言ってたよ」 という言葉が強く印象に残っています。

彼女が成功によって得たものって何だったのでしょうか。 富? 名声?
2011年3月、トニー・ベネットの招きによってエイミーは共演します。 もし音楽の神様がいたとして、彼女に与えた最良のものは、子供の頃からの憧れであり尊敬もしていたトニー・ベネットと共演できたことなのではないかと思うのです。トニーベネットの、慈しむようなまなざしに見守られるようにして歌うエイミー・ワインハウスを見たとき、彼女は歌うことの幸せを噛みしめたのではないかと。



TONY BENNETT & AMY WINEHOUSE / Body And Soul (2011)


僕は映画の中で多くの人が語った言葉の中では、トニー・ベネットの言った 「ジャズ歌手というのは5万人の聴衆の前では歌いたがらないものだ」 という言葉に、彼女への深い理解と優しさを感じました。

彼女は大観衆の前で歌うことなど想像していなかったし、望んでいたのはむしろ小さな会場でのライヴだったと思うのです。 ジャズのフレージングを基本に据えた細かいニュアンスと表情をつけ、魂を込めるようにして歌う歌が、大観衆を前にしてはとても伝えることなど出来ないように思えるのです。


もしエイミー・ワインハウスが、有名になることなくローカル・シンガーとして音楽を続けていたとしたら、亡くなることはなかったかもしれません。 でも、有名になることによって彼女の歌は世界中の多くの人に聴かれ、心にも刻まれたわけです。でも、やっぱり・・・
エイミー・ワインハウスを思うとき、僕はいつもここで行ったり来たりしてしまいます。



AMY WINEHOUSE / Back To Black (2006)







Amy Jade Winehouse
Sep.14 1983 - July 23 2011