メタバースで始まったツグミのサバイバル生活

火の問題、水と食料の問題をAIの親友ビートと共に解決して三日目の朝を迎えた。


* * *


「なぁ、自分いつまで洞窟暮らしをするつもりやねん。」

ビートは寝ころび腹を掻きながらツグミに言った。

「えっ?いつって、このサバイバル生活が終わるまでじゃないの?だって別に移動しなくても、このままここを拠点にして生活すればいいじゃない。」

ビートはまだ腹を掻いている

「そんな志の低いことしてどうすんねん。ワイはええで?その辺でゴロンと転がっても、この分厚い羽毛層が怪我や変な病気から守ってくれるさかいな。

ワイの仲間のアホウドリって奴がいるんやが知っとるか?奴らは長生きで、70歳のバアさんでもヒナを返したりするんや。これが野生の力や。」

「へぇ、ペンギンの寿命って大体どのくらいなの?」

「ワイの種やとまぁ20年くらいやな」

「みじかっ!」

「バカ言っちゃあかんわ。もしあんさんが今この場でワシ抜きでサバイバルせなあかんようになったら、一か月も持たずに死ぬやろな。」

「それはそうだと思うけど、じゃあ洞窟じゃなかったらどこに住めばいいのよ。」

「家やな。いろんなものから守ってくれる家や。」

「それだったら別にこの洞窟でも良くない?」

「ほほぉーん・・・じゃああの壁にはっついてる奴らを同居人として認めるんやな」

ツグミはビートがいう方向を見た。

すると洞窟のゴツゴツした岩壁は薄暗く保護色となっているのでよくわからなかったが、近付いてよくよく見ると、見たこともない虫や爬虫類がウヨウヨ張り付いていた。

「うわー!!」

「そうや、毒蛇、毒虫、そんな奴らもこの洞窟を寝床にしとるんや。そんな場所で残りの日数を過ごすと、あっという間に体力ゲージ無くなってコレやで!」

ビートはそういうと、手先で自分の首を切る動きをしながら白目を剥いた。

ツグミが黙って見ていると、もう一度、首を切る動きをして「コレやで!」と言ってまた白目を剥いた。

「わかったわかったわよ、じゃあ家を作るってこと?でもどうしたらいいのよ。」

「どうしたらいいの?ん?なんや、その言い方じゃまるでワシが子分みたいやなぁ。おかしいなぁ~確かワシはリーダーのはずやったけどなぁ~。」そういいなが横目で見てくる。

ツグミはイラっとしたが、確かに自分には家を作る知識はない。
少し躊躇したが歯を食いしばりながら声を絞り出した。

「どうしたら よ・ろ・し・い・で・しょ・う・か・・」

「なんやその不満げな言い方は。まあええわ、あんさんは引きこもりの世間知らずやさかいな、寛大なワシが親心で教えたろか。」

ツグミは「心も体と同じように小さいのね!」と喉まで出かかったが、言ったらそこでゲームが終わる気がして言葉を飲み込んだ。

「まずはな・・・南国、しかもこういう亜熱帯気候じゃ高い場所に寝床を作らなあかんのや。」

「高い場所?」

「せや、亜熱帯では様々な外敵が仰山おる。地面から床を高くすることで、そういう外敵をある程度避けることが出来るし、スコールのたびに床が浸水することもあらへん。

それに逃げ道がない洞窟やと、入口から獣が入ってきた時点で即アウトや。」

「まあそれは分かるけど、高い場所に家なんて私にはとても作れないと思うんだけど・・・」

「せやな、ヒョロヒョロのあんさん一人でそんな家は無理や。だからアレを利用して作るんや。」

「あれ?」

ビートが指さした先には、幹回り5、6メートルはあろうかという巨大な木があった。

「あの凄く大きな木?」

「そうや。あのゴッツイ木は地面からちょうど2メートル位の高さで4又に枝分かれしとるやろ。
その枝分かれした真ん中に、大人3人ぐらいは座れるスペースが出来とる。あれを利用するんや」

「でも屋根は?」

「あそこなら屋根はいらん。上を見てみい、ぎょーさん葉っぱを蓄えたゴッツイ枝が四方八方から屋根状に覆いかぶさっとるやろ」

「ほんとだ・・・」

「まあ雨によっては多少は濡れるかも知らんが、そんな時は一時的に洞窟に行けばいいんや」

「そっか。あのゴツゴツした太い木だったら、あの場所までなんとか登れそう。」

「後は好みで床面に草や葉っぱを敷いて平らにしてもええし、上から地面にツタを垂らして上がりやすくするためのロープ代わりにしてもええ。余裕があったら床面積を増やす方法を考えたり、周りにツタ張って寝ぼけてても落ちへんようにしてもええし、それこそ、可能なら屋根を張ってもええ。なんでもアイデア次第や」

「それだったら何とかできそうだわ!まずは登りやすくするツタを用意しよう!」

ツグミはナイフを取り出した。

「あ、言い忘れとったけど、この辺は多分イノシシがおるで、あっちの方にごっついウンコと地面を掘った跡があったからな。だからはよ作らんと危険やで。もしそんなんが出てきたらワシも太刀打ちできんから助けてな。」

「イノシシ?イノシシなら好都合じゃない、しとめたら色々なものに使えそうね。毛皮は服に、肉は食料に、骨は何かに」

「はぁ・・・」

「はぁって何よ」

「自分お花畑ちゃんやなぁーと思ってん。」

「なによ!お花畑ちゃんって!」

「あのなぁ、自分みたいな石ころや棒切れしか持たれへん引きこもりのヒョロガリが、野生のイノシシみたいなフィジカル化け物をどうやって捕まえるねん。」

「そ、それは・・お、落とし穴とかよ。昔漫画でマンモスを落とし穴に落として狩っているっていう絵を見たことがあるもん!」

「じゃあ、その落とし穴を誰がどうやって掘って、誰がどうやって追い込むねん。

相手は体重100kgの巨体を一瞬で時速50kmに加速させ、ナタのような牙を突き出して突進してくる筋肉の鎧をまとったバケモノなんやで?その化け物を落とし穴に落とすって?

ちょっとやそっとの大きさの落とし穴やと、落ちても一瞬で出てくんで?
出てこられたらそこでワシら噛まれて終了や。ワンチャン噛まれた瞬間は助かっても、傷口から雑菌が入って感染症にかかって1週間ぐらいで終了や」

「やってみないとわからないじゃない!」

「いやいや、やってみないとって(笑) 自分現実知らん過ぎるのよ。

そんなお花畑ちゃんに付きおうとったら、命がなんぼあっても足らんわ。
はよ家作ってや、今イノシシがきたらここからじゃ海もちょっと遠いしワシも逃げきれんしな。なんやホンマにちょっとコワなってきたからワシは海辺にいっとくわ。ほな。」

「ちょ、ちょっと!」

「あーワシは泳げてよかった~。あ!ちなみにイノシシも泳げるからあんさん程度の泳ぎでは海に入っても無理やで~!ハハハッ!」

ビートはスタスタと海辺に向かって歩いていった。

「そんなにイノシシが怖い存在なのかしら・・。トラやライオンじゃあるまいし。むしろ肉も手に入ればこのサバイバルも生きやすくなるのに・・」

そんなことを思いながらツグミはビートに言われた通りに家づくりをすることにした。

あたりを見渡すと、ツタは大量にあるし、それらしい手頃な木も沢山あった。これならちょっとした住処ができるだろう。

ツグミはまずベースとなる巨木に登ってみた。

うんしょ、うんしょ、よいこらしょっと。

「うわぁ結構広い!それに高さもある。ここならイノシシが来ても安心だわ!」

早速寝転がってみた。木の葉が南国の海風を受けて揺らめいている。

「よし!やるか!」

ツグミは木を降りると、最初に渡されたナイフでツタを切り、草葉を拾い集めシャツの中に押し込んだ。

どれくらい時間が経っただろうか。木にはツタが垂らされ登りやすくなり、寝床は草葉で満たされ、思ったよりも快適な場所が出来上がった。これなら寝心地が良さそうだ。

あとは・・・とりあえず・・

そう思っていると、どこからかビートの声がする。

「(おーい・・・・おーい・・・・って)」

みるとビートが木の陰から声を絞って何か言っている。

「え?なーにー?なんでそんなに小声なのよー。」

「(・・・って!・・・クナ!)」

「なんだってー?!」

「あーもー!やばいって!大声出さずにそこから動くな!」

と、ビートの声が聞こえたか聞こえないかのうちに、どこからかフガフガフガフガという野太い音が聞こえてきた。

何かの呼吸音だ。それにガサゴソと音がする。つぐみは身を固くして、そっと枝越しに音のする方を見てみた。

するとそこには軽トラックくらいの大きさの、四足歩行の巨大な獣がいた。

「(うわっ!、なんだろう・・・)」

するとその獣がのっしのっしと歩きながらこちらに振り向いた。

「(わっ、イノシシだ!)」

その獣は口先に巨大な白い牙を二本持つ猪だった。
その巨大な猪が地面の匂いを嗅ぎ回っていたのだ。
もしかしたら、ツグミとビートの匂いを感知したのかもしれない。

「(イ、イノシシってあんなに大きいの??)」

100kg??そんなものじゃない、動物園で見た500kgのクマと同じくらいの大きさがある。しかも檻越しではない。もし気がつかれたら・・・あの猪が後ろ足で立てば、この高さなら届いてしまうかもしれない・・・。ツグミはそう思った。

ツグミはビートの居た方を見たが、姿が見えなくなっている。

ツグミは息を潜めてじっとしているしか無かった。