神経絞めは鮮度保持の高等テクニック編
神経絞めは、業者さんが魚を絞めてからトラックに乗せ、刺身になって食卓に並ぶまでの、やや長い時間の鮮度保持を目的とした処理技術です。脳が死んだあと、まだ生きている脊髄がATPを消化しますが、この消費を抑えることで、死後硬直の始まりが遅くなり、新鮮さを長持ちさせる効果があります。
神経絞めすると、身肉にたっぷりの栄養成分が残るため、なにも処理しないよりはるかに美味しく食べることができます。が、ただ栄養のムダ使いを押さえるだけなので、きちんと処理して、きちんと熟成したときのMAXの食味より、さらに美味しくなる訳ではありません。
締めてすぐに家に持って帰って食べるなら必要な処理ではなく、また、わざわざ神経絞めしても、その後に冷やしすぎれば何の意味もありません。
生き絞めで血液を抜くだけにしても、さらに神経絞めをするにしても、温度管理次第で食味は大きく変わってきます。神経絞め単体ではなく、絞めたあとの温度管理までをトータルで行ってこそ、狙い通りの効果を発揮できるのです。 脊髄は第二の脳 脊髄には、大脳からの指示を体に伝える役目のほか、とっさのときに大脳で考えるまでもなく、反射的に体を動かせる原始的な中枢神経としての役割もあります。
魚は、頸の骨を断ち切って絞めたつもりでいても、まだ脊髄の神経が生きていてエネルギーを消費します。絞めて30分くらい経ったころに、クーラーボックスの中で突然バタバタと暴れ出すのは、この脊髄が生きていたからに他なりません。筋肉が動けば体温も上昇し、ATPも消費してしまいます。そこで、死後も独立して働く脊髄をつぶして無駄なエネルギーの浪費を防ごうというのが神経絞めです。
血抜きしただけなら、およそ4~10時間で死後硬直が始まって、解硬から腐敗へと進むところが、神経を破壊することで魚のゾンビー化を防ぎ、硬直を最大で24時間近く遅らせることが可能になります。直径約φ1mm、長さ30cm程度のステンレス鋼の針金を用意してください。ピアノ線でも大丈夫です。先端はカドを取るくらいで、決して尖らせないようにしてください。尖らせると脊髄から逸れてしまいます。
身崩れさせないためにはスポンジマットがあれば完璧です。マットの上に乗せればバタバタ跳ねることもなく、硬いマナ板と違って身が弾けるのを防げます。魚が陸の上で尾をビビビッと激しく動かすと、これは無負荷状態のエンジンの空ブカシと同じで、海水の抵抗がないために回転が上がりすぎて身割れの原因になります。過大な運動によって筋肉中のATPが枯渇し、あっという間に死後硬直が始まってしまいます。
手からの体温を伝えないための手袋、または薄手のスポンジを用意してください。生きた魚を直接手で握ってイケスに入れると、2~3日後か、早ければ数時間後には、握った手の形にウロコが浮き上がり、皮が白く変色することがあります。火傷をさせないよう、つよく握らないように注意して、エラ蓋の上の黒い模様を目印に、よく切れる刃物で思いっきりよく骨を断ち切ります。
絞めるときも直接魚体に触れてはいけません。頭を折り下げ、背骨の上にある白い脊髄の中に、背骨に沿って針金を差し込んでください。針金の先が逸れたり、進まなくなったりするので少し苦労しますが、針金を上下に抜き差しして、すでに死んでいるはずの魚がビリビリと痙攣すれば成功です。脊髄まで完全に殺せば旨み成分の消費を抑えることができます。