「(映画やドラマの)脚本のセリフは、自分が普段使わないような言葉も書かれているものだと思いますが、前田さんはそれをさも普通に、さらっと言えてしまうんです。浅野忠信さんも同様ですが、アドリブと見まがうぐらい自然で。それで『こんなこと普段から前田さんは言ってるの?』と聞いてみると、『全然言いません』と。役柄を理屈じゃなくて瞬時につかんでいるということなのか、とにかくそのセリフなり仕草なりをごく自然に表現する力があるのです」
そして第二に挙げるのは「いかなる状況でも全く動じないところ」だという。前田演じる葉子が、ウズベキスタンでバラエティー番組の撮影を体当たりでこなすレポーターという設定もあり、ドブ川につかるシーンの撮影では川から上がると前田の足にヒルがついていて、監督やスタッフを驚かせたことも。
「前田さんはAKB48の不動のセンターとして活躍してこられたわけで、全く物怖じをしないのです。撮影が外国であろうと、共演者が外国人であろうと全く動じない。今回、かなり肉体的に過酷なこともお願いしたんですが、躊躇せずやってくれました。例えばドブ川に入るシーンでは撮影スタッフが完全防備で入るところを、彼女はほとんど素足。川から上がったら前田さんの足にヒルが何匹かついていて……。でも前田さんは何ともなさそうで、『申し訳ないんだけどもう一回入れる?』とお願いしたら、あっさり『いいですよ』と」
そのほかにも、「普段は『普通の女の子』なのに、スクリーンに映るとものすごい個性を発揮する」「映っているとつい彼女に目が行ってしまう」など前田の強みを挙げ出したらきりがないという黒沢監督。
「AKB48を卒業してから約7年。AKB48と女優のキャリアが半々ぐらいになるので、今はもう抜けられたかなと思いますし、幸せだなと思えるところまで来られたと思うんですけど、卒業前後2,3年は迷い続けていました」
アイドルの傍ら女優としても活動していた時期には、自分の色を模索し続けていた前田。「アイドルと女優は全く違うものなので、映画やドラマの撮影現場に入った時にどういうふうに居ればいいのかも分からず、溶け込めている感覚がまったくなかったですね」
そんなあっちゃんを変えていったのは、これまで関わってきた数多くの名監督たち
「自分で何かを切り替えたというわけではないんですけど、才能ある監督たちの撮影現場で役者さんたちと接する機会もどんどん増えていって、みなさんが染めていってくださったように感じます」
本作で前田はバラエティー番組のレポーターとして数々の体当たりのシーンに挑んでおり、監督を「胸が苦しい」と言わしめるほど過酷さを極めることも。それでも「黒沢監督には『できません』とは絶対に言いたくないんです」ときっぱり言い放った前田の強いまなざしには、女優としての揺るぎない信念が垣間見られた。


