スルーハイカーの間では、自然に一緒に歩いたりキャンプしたりする仲間ができる。これを「トレイルファミリー」(TrailとFamilyを組み合わせ、略してTramilyと呼ぶ。)

 

歩く速さや年齢層により「棲み分けの法則」が働くので、同じようなペースで歩く5-6人のハイカー集団があちこちで自然発生する。特に若い世代はすぐに仲良くなれるためか、最初はソロでもそのうちグループで歩くケースが多くなる。だがその結束も流動的で、途中で違うグループに鞍替えしたり、一人になったりと、状況によって変化する。

 

私は独りか二人で歩くことが多かったので、この集団(Bubble(バブル)と呼ぶ。)に出会うと、たまにうるさく感じた。(若いエネルギーに着いていけない。)

 

今年の五月、Campo(メキシコ国境)から300マイルを超えた地点にいた時、スルーハイカー専用FBポストClass of 2024で、次のようなコメントを読んだ。

 

「私はPCTを歩くためにフランスからはるばるやってきたんだけど、歩き始めて3週間経つのにTramilyができないんです。おそらく私のペースが遅いせいだと思います。私はどう頑張っても一日に10マイル程度しか歩けません。他の人は20マイルは歩いているので、どんどん抜かれてばかりで、私と一緒に歩ける人を探すのは難しいです。寂しさで心が折れそうです。」

 

この心情吐露のポストに対し、あっという間に100以上のコメントが付いた。そのほとんどが精神論コメントばかり。

 

「今が踏ん張り時だ。頑張れ。」

「諦めてフランスに帰るなよ。せっかくここまで来たんだからもったいない。」

「一日に10マイルは恥ずかしいことではない。そのうちに速くなるから歩き続けろ。」

「そのうち必ず誰かが見つかる。元気だせ。」

 

こんな感じのコメントが100も付いたら、私だったらますます落ち込むだろうと思った。

 

フランス人の彼女はこういう激励コメントが欲しかったのではないと思う。彼女は単に寂しいから、誰か遅い人いない?って聞いていたのだ。彼女は一緒に歩く友達が欲しかったのだ。一日10マイルは彼女にとって自然なペースであり、彼女は自分のペースを恥じていたわけではないと思う。恥じていたらポストしなかっただろう。そのうちもっと速く歩けるようになるとか、そのうち誰か見つかるとか、そういう「遅いのはダメ」という基本的姿勢、かつ無責任発言は慰めにはならなかったと思う。大体「そのうち」っていつだよ?私は今寂しいんだよ。今、辛いんだよ。彼女は共感を求めていたのだ。

 

私はその頃、100マイルぐらい彼女の前を歩いていたが、親戚の行事のため1週間ほどトレイルを離れる必要があったので、ひょっとしたらシエラの前あたりで彼女と合流できるかもしれないと思い、彼女にメッセージを出した。5月の末あたりにどこどこで会えたら会おうって。そしたら彼女からすぐにDMが来て、その日が近くなったらまた連絡しあおうということになった。

 

次に彼女から連絡が来たのは、もうトレイルを離れたっていう事後報告だった。350マイルまで頑張ったけど、もう止めたって。今はラスベガスにいて楽しんでいる。止めたことは後悔していないっていうメールだった。そうか、私は彼女とは縁がなかったのだな。でも350マイルやって良かったねって思った。一応自分でやってみて、そして自分で決断できたんだから。

 

スルーハイキングは向き不向きもあるし、その時のタイミングもある。だからどんな決断をしようが、間違った決断など無い。

 

 

 

上は私が2週間ほど一緒に歩いた面々。左端は私、そしてトレイルネームNeo、Poppins, Wasabi。みんなそれぞれ次の仕事に就く前とか、大学院に入る前の休みを利用してとか、そういう若者が圧倒的に多かった。

 

 

これはVasques Rockという場所でみんなと一緒にCowboy Camp。(テントを張らずに野外で寝る。)

 

 

 

 

サザンカリフォルニアの春は暑い。ちょっとでも日陰があるとそこに群がるスルーハイカー達。ここは水場脇の橋の下。暑い時間帯は日陰で昼寝して、夕方から夜中にかけて歩くハイカーも多い。みんな汚い。さながらホームレスシェルター。

 

黙々と食べて、寝る。しゃべらなくても気持ちは通じる。それがトレイルファミリーの絆だ。