盛から三陸鉄道南リアス線に乗って釜石を目指す。所々車窓に海が現れる。恋し浜駅という駅は海岸より一段高いところにある駅で、ホーム上の待合室の壁にはメッセージが書き込まれたホタテの貝殻がたくさん掲げられている。その恋し浜では撮影タイムということで数分停まった。
 釜石に到着すると空はだいぶ曇ってきた。駅の近くにプレハブの建物があり、そこに居酒屋がたくさん入っている。私達は川を「渡って海の方向に歩いた。
 駅から海のほうは町のメインストリートになっている。以前は昭和レトロな店が並んでいたこの通りは再開発が始まっていて、綺麗な構えの店も点在する。太陽が雲に隠れて寒いので途中にあったミッフィーカフェに入ろうと考えたが、Tさんの釜石の海を見たいという願いに応え歩く。
 港は以前の景色も残しながら再生に向けて動き出している感じがあった。錆びたクレーンに様々な思いが浮かんできて、潮風に立ち尽くす。
 釜石からは釜石線の旅となる。ラグビーワールドカップの開催会場に選ばれたラグビーの町釜石は、少しずつ新しい風景を造り始めていると感じた。

 




 盛駅はJRの駅舎が真ん中にあり、その左に三陸鉄道の小さな駅舎がある。私達はまず三陸鉄道の駅舎に入った。きっぷ売場の前には三陸鉄道のグッズが並んでいて華やかだ。窓口に立つ女性駅員さんにサンプルを見せてもらってから卓上カレンダーを購入。横でTさんが硬券を売っているのを発見し、このあと乗る釜石までの切符を硬券で購入。駅員さんいわく、降車の際に車掌さんに言えば記念にもらうことが出来るとのこと。
 こじんまりとした駅前広場に出て、さっそく盛の町を散策開始。駅前の道に出ようとするとランニングしている学生たちが後ろから現れ、追い抜きざまに「こんにちは」と挨拶してくる。その元気な姿にこちらも思わず挨拶を返した。駅前には近々市民マラソン大会が行われることが書かれた宣伝塔が建っていた。

 盛駅前の線路と平行して通る道沿いに小山が立っていて、どうやらその上に神社があるようだとわかり、急な石段を登って参拝をしてみることにする。荷物をコインロッカーにまとめてくれば良かったのだが、少し汗ばみながら登りきった。
 境内には児童公園もあり、市民の憩いの場でもあるようだ。こういう町に溶け込んでいる神社の風景が好きだ。静かに手を合わせる。
 急な階段だっただけあって境内からの眺めはよく、盛の町を一望出来る眺め。盛の町を見守る神社なのだなと思いながらその風景を眺めた。帰りは階段ではなく、横にあるつづら折りの山道を下りる。

 さて、そろそろ昼食の時間なので店を物色する。駅前からの道沿いに創業明治という鰻屋を見つけ、喜び勇んで戸を開けたが本日はお休みとのこと。残念ではあったが、盛はなかなか良い店が結構ありそうな手ごたえを感じ、道を曲がって町の中へ入っていくと、サッシ戸の鮮魚店を見つけた。Tさんに促され入ってみると活きのいい切り身が並んでいる。どれか買って駅の待合室で食べようと思うが、どれも美味しそうで迷うところ。悩んだ結果、色がきれいなカジキの刺身を選び、店のおばさんにお願いして箸と醤油を付けてもらう。以前は港の方で店をやっていたのだそうで、今はこうして駅の近くで営んでいるとのこと。店の造りは簡素なものであるけれど、並ぶ魚介類の美味しそうな雰囲気はさすが大きな漁港町。急いで駅に向かいさっそく食べたカジキの味はかなり美味で大満足。
 鮮魚店の刺身がとても美味しかったので予感が確信に変わり、私達は先ほど歩いている途中で見つけた寿司店を目指した。カウンターに収まり、おまかせにぎりを注文。ちょうど店内のテレビでレポーターが寿司を食べていて、シャリの上にはみ出しているネタの大きさをレポートしていたけれど、カウンターの前にやってきたこちらの寿司は薄切りなどせずに、厚く切ったネタがシャリの上にはみ出さず乗る。これぞ漁港町の寿司という味に満足して店を出た。

 次に乗る三陸鉄道の列車までもう少し時間があるので、駅の裏に回って散歩をしてみる。駅の待合室にあった盛駅を模した鉄道模型のレイアウトの風景に旅情をくすぐられた格好である。
 駅の裏手に広がる入江の眺めは、その向こうにある山の風景とともに私が以前訪れた時の記憶よりも大きく広がっていた。そんな眺めを橋の欄干に上がってカメラで撮る。風が少し強いが空は晴れていた。




1月5日 (火曜日) 晴れのち曇り

 快適に眠ることが出来て朝を迎えた。北国の冬の旅で迎える、ひんやりとした空気の朝が好きである。
 出発が少し早いため朝食は無しの素泊まりにしたので、支度を済ませると荷物を持って下に下りた。女将さんと宿泊費の清算をしているとお土産としてハンカチをいただいた。恐縮をしてお礼を言っていると、おばあちゃんが紙細工を持って現れた。鶴の置物と花のつぼみのようなペン立てだ。驚きと感謝でおばあちゃんを見ると、とても優しい笑顔でニコニコしている。私達は玄関を出ても何度も頭を下げた。家庭的で良い旅館だった。気仙沼の町も大好きになったので、また来よう。そして、この旅館に泊まりたいと思った。

 旅館から気仙沼駅はすぐだ。駅舎の写真を撮って待合室に入る。本日最初に乗るのはBRT大船渡線。BRTとはバスを使った運行システムの名称で、シンプルに言えば、鉄道に近い定時運行やバス停の駅化などを行なっている。BRTも鉄道と同じように気仙沼駅の改札を抜けたところに乗り場があり、列車用のホームと並んでいる。私達は青春18きっぷに日付印を捺してもらい乗り場に向かった。
 バスは地元のゆるキャラがラッピングされた車体で、普通の路線バス仕様の車両である。7:36気仙沼を発車したバスは線路跡に造られた専用道を走り駅構内を出ていく。しばらくは線路跡の道を走るため、踏切もあり、線路の上を走っているような眺めである。「駅」も鉄道時代の面影をほのかに残している。
 気仙沼の町中を抜けると、やがてバスは一般道に入り、海を見下ろす高い斜面の上を走る。青い海がよく見える。長いトンネルを抜け、バスは宮城県から岩手県に入った。
 道は少しずつ下り勾配になり、陸前高田に入った。海岸沿いに高く土が積み上げられている。その広々とした中を左折して内陸部に上っていくとBRT陸前高田駅。8:09に着いた。
 駅舎は小さなかまぼこ型をしていて、待合室や事務室を備えている。みどりの窓口の機能も持っているので、やはりバス停というより駅の風情が嬉しい。待合室には地域の情報などが貼り出されている。
 私達は朝食を求めて周辺を歩きだした。駅のまわりは未来通り商店街と名づけられ、市役所や市民センターがあった。近くには昭和な風景の住宅地もあるが、まだ時間が早いため開いている店もなく、駅近くのコンビニに入りパンを買った。店員さんがとても丁寧で爽やかな印象。
 空は晴れているが、風が真冬の冷たさであるためか寒く、待合室で休みつつ、予定よりも一本早いバスで出発することにした。やってきた9:29発のバスはクリスマスのラッピングが施された仕様だ。待合室にこのバスの運行のお知らせが貼ってあり、乗ってみたかったので嬉しい。中に入るとサンタクロースや雪だるまのぬいぐるみも飾られてあり、窓の周りには電飾も施されている。トンネルの中に入るとその光が綺麗にバスを彩った。
 大船渡市内に入ると少しずつ乗客は増えていく。鉄道時代のホームがそのまま残る駅もある。BRT大船渡線は鉄道への復旧は見送られ、今後もバスで走ることが決まったが、これからはディーゼルカーに代わってバスが地域の足として活躍してくれることを祈りながら、その風景を見つめる。真新しい魚市場も現れ、大船渡市の中心地である盛に10:24に着いた。