◇深い森 視線 | NO残業DAYに憧れて

◇深い森 視線

肌に触れる空気が随分と冷たくなっていることに気付いてはっとする。
手元の本を閉じて、少し離れた窓の外を見やった。空はすっかり茜色に染まり、遠く鮮やかな緑で覆われている森の色を塗り変えている。

どれだけの時間が経ったのだろう。
この部屋に通されてから、紅茶を運んでくれた女性以外、誰も来ないし、来る気配も無い。退屈だったので棚に積まれていた本を拝借して読んでいたが、三冊目にさしかかったあたりから、これは今日はずっとこのままかもしれないな、と思い始めていた。しかし。

(…おかしいな)
目を閉じて、辺りの気配を探る。

近くに―――この建物に、その周囲に、誰の気配も感じられないのだ。
そういえばあの女性も、気配を感じさせることなく現れ、そして立ち去って行った。あのときは警戒されているからかと思ったが。

意識すればするほどに感じられる、異様ともいえる空気。壁を無造作にくり抜いただけの窓に手を置き、眼下を見下ろした。

(―――)

背筋に冷たいものが流れる。
この、恐ろしいほどの静けさは何だろう。

もはや木々のざわめきすら無かった。この村には自分以外に誰も居ない。その考えに至り、あの女性の姿を思い出そうとして―――
(…そもそも女性だっただろうか?)
紅茶が運ばれてきた筈だった。しかし、どんな味だったか全く思い出せない。
いや、自分は紅茶を飲んだだろうか?確かめたくてテーブルの上にカップを探したが、どこにも見つからない。

(…まさか、)

そもそも、


(―――此処には誰も来ていないし、自分は誰にも会っていない)





そう思った直後、鋭い視線を感じると同時に、視界が暗転した。