◇深い森 魔女 | NO残業DAYに憧れて

◇深い森 魔女

一見するとどこにでもあるような、深い森だった。
森の中へは一筋の道が通っており、その入り口に立つと、視界の奥へ―――ずっと遠くまで背の高い木々が並び、青青と茂る葉の隙間から陽光が差し込んでいる。凶暴な魔物も生息していないことから、近隣の村の人々が狩りや採集で訪れることも多かった。
そんな場所に不思議な噂が流れ始めたのは、つい最近のことのようだった。

「ーーー魔女の森?」
「ええ、そうなんですよ。最近は皆恐ろしくて近寄りません。お兄さんもやめておいた方が良いですよ、ええ」

その事象は、ここ数年の間に起きるようになったらしい。
森に一歩足を踏み入れると不思議な感覚に襲われ、方向を失う。慌てて辺りを見回しても、自分が通ってきた道はどこにも無い。呆然と立ち尽くす者、混乱し歩き回る者、いずれの者も、…暫くしてふと気付くと。突然目の前が開けていて、入ってきた筈の入り口を背に、森を抜けているというのだ。

「以前、あの森で魔女を見たと言う者も居ます。それは恐ろしい容貌だったとか…」
「ふぅん…」
「何でも、魔女は漆黒の衣に身を包んだ大女で、巨大な鎌を振り回しながら襲ってきたそうですよ!!」
「……」
恐ろしい恐ろしい、と老婆が震え上がる仕草を見せる。

釜を振り回して襲いかかってくる大女、か。
魔女と聞いて、自分が真っ先にイメージする人物が居る。そもそも“魔女”の定義は不明だが、人からそう呼ばれた彼女をそうだとすると、随分と雰囲気が違うものだな、とそんな感想を抱いた。