泣き出したキョーコをどうしていいかわからずに蓮はオロオロとする。

「最上さん?どっか痛い?そんなことないか…。えっと、なんか飲む?俺、言っちゃいけないこと言った?どうすればいい?」

矢継ぎ早な蓮の問いかけにキョーコは全て首を横にふる。お手上げ状態の蓮はキョーコをそっと胸に抱いた。

「もういいや。泣きたいだけ泣いて。落ち着くまでこうさせて。」

不意のぬくもりと蓮の匂い。逞しい胸は硬くてなにものからも守ってくれそうな安心感がある。キョーコは声を出して泣いた。いつも虚勢を張って辛い時こそ背筋を伸ばして何でもないフリをしてきた。でもこの胸と腕はそんな鎧を外させてしまう。こんな弱さなんてさらけ出したくないのに。だから愛なんて望まなかったのに。失ったあとが辛いから。

時折、しゃくりあげるキョーコに蓮は背中を優しくさすり頭の天辺にキスをする。幼子をあやすように辛抱強くキョーコが落ち着くのを待った。

やがてキョーコの泣き声がやんだ。

「最上さん?」

静かになったキョーコの顔を覗き込むと泣き疲れたのだろう眠ってしまっている。先ほどの泣き方とは正反対の穏やかな寝顔だ。

「まったく…。」

蓮はキョーコを抱きかかえると自分の寝室に運んだ。ゲストルームになんて考えはちらとも浮かばなかった。目が覚めた時に側にいたい。なぜ泣き出したのかはわからないが、鬱積したものがあったのだろう。キョーコが辛い時こそ側にいてあげたい。何もかも一人でやってきたキョーコが泣ける唯一つの場所でありたい。

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あぁ~、瞼が重い。

喉が痛い…。

なんでだっけ?

あぁそっか、あれだけ泣けば。

あんなに泣いたのは子どもの頃以来…。

でも、まっ、いいか。

なんだかあったかいし。

キョーコは頬をすり寄せるとぴったりとあたたかなモノに体をそわせる。

「気持ちイイ~。」

自分でも声に出していたなんて思っていなかったので、返事がかえってきたことに驚いた。

「おはよう。ホントだ、気持ちイイね。それにイイ匂いだ。」

蓮はキョーコを抱えこむと首筋に顔を埋める。蓮に抱きつかれてやっと本当にキョーコは覚醒した。

「なっ、なにするんです?!放してください!」

腕の中でジタバタと暴れるがその程度で蓮の腕から逃げられるわけもない。

「自分からひっついてきたくせに。」

その一言にキョーコはこれでもかと真っ赤になった。

「そっ、それは寝ぼけてたからで!敦賀さんだなんて思ってませんでしたから!」

「ヒドイなぁ。他の誰だと思ってたの?俺のこと弄んだんだ。傷物にした責任はとってもらうよ。」

「傷物って…。責任とってもらうって、それ女性側の言い分です。それに敦賀さんに傷なんてついてません。」

「男女差別はいけないなぁ。見た目にはね。でもこれからついちゃうかもしれないだろう?」

「なんなんです、さっきから。だいたいどこが差別ですかぁ!」

ムリだとわかっているのに往生際悪く抜け出そうとキョーコはもがき続けるが、そんなことどこ吹く風で蓮は続けた。

「元気になったみたいで良かった。」

急に微笑まれてキョーコの勢いがしぼむ。きっと夕べ大泣きしてそのまま眠ってしまったのだろう。それなのに気分が晴ればれしているのは…やっぱり蓮の腕の中だったからに違いない。

「夕べはすみませんでした、すっかりご迷惑おかけしてしまって。」

「迷惑なんかじゃないよ。嬉しかった。」

「人が泣いてるのが嬉しいって、どんだけイジメっ子なんですか。」

スネて膨れるキョーコも可愛らしいと思えるのは惚れた者負けか。なにより、腕の中にいてくれるのが嬉しい。今はただ話に気が削がれているだけな気がするけれど。

「そりゃあね、笑ってるほうが好きだけど。泣きたいときは俺のそばで泣いて。涙の理由を教えて、一人で泣かないで。二人なら悲しみは半分に、喜びは二倍っていうじゃない?俺に悲しみも喜びもわけて。」

泣くなと言われたことは何回もある。泣いて許されると思うなとも言われたことだってある。でも、泣いてもいいと言ってくれた人は今までキョーコの周囲にはいなかった。どうしていつもこの人は欲しい言葉をくれるのだろう。キョーコの目にまた涙が溢れてきた。昨日のようなしゃくりあげるようなものではないけれど、みるみるうちにふくらんでもうすぐこぼれおちそうだ。

「なんで泣いてるの?」

蓮は静かに問う。

「ズルいです。どうして私の欲しいものがわかるんですか?」

「どうしてだろうね?」

黒髪に翠の瞳の蓮はなんとなく不思議だが、蓮がコーンだと同一人物だと納得できる。その蓮が極上の笑みを向けてくれる。

「敦賀さんには何をさしあげればいいんでしょう?私ばっかり頂いてばかりで申し訳ないです。」

「俺こそもらってばかりな気がするけど...。そう思ってくれるなら、そのままの最上さんをちょうだい。一生、そばにいて。」

「本当に?そんなことでいいんですか?」

「そんなことなんかじゃないよ。昨日も言ったけど俺が君のそはにいたいんだ。いい?」

「…はい…私でよければ。」

「嬉しい!約束だよ。もう一人で泣かないで、いつでも側にいるよ。」

蓮はキョーコにキスをした。優しい優しいキスだった。ちょっと長めのキスのあとに満面の笑みを見せる。キョーコの瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちた。キスが恥ずかしかったのか真っ赤になってはいるがキョーコもまた満面の笑みだ。

「泣かないで。」

蓮はキョーコの涙を唇ですくいとった。

「こっ、これは!そういうのではなくて!」

「うん、悲しいわけではないんだよね?嬉しいって思ってくれてるってことでいいんだよね?」

「はっ、はい。」

「俺も嬉しい。幸せになろうね。」

蓮はそのまま何度もキスをして……。そしてその日、キョーコは『付き合ったら日本人ではないことがバレる』ことの意味を知ったのだった。