運命の人

敦賀さんの運命の人になりたかった。愛を拒絶するしかなかった私に愛を取り戻させた人はなんて残酷なんだろう。今までは夢ぐらい見られた。万が一にも自分が恋人だったら...なんて妄想ぐらいは許されていた。でも、敦賀さんに彼女ができたら本当に虚しすぎてそれすらも辛い。自分と同じ名前らしいけれど、ただの後輩と運命の人という違い…。妄想すらおこがましかったんだ。

「どうかした?やっぱりマスクは外したほうがいいんじゃないか?長くかぶってると辛いだろう。」

「いや、大丈夫だよ。で、いつコクるんだい?」

敦賀さんと彼女が上手くいくところなんて見たくない。社長にお願いしてどこか遠くに行かせてもらおう。そのくらいの温情はあるはずだ。

「うーん、近いうちにと思ってるんだけど。まず、俺の本名というか本性をきちんと伝えてからと思ってるんだ。隠したままなんて卑怯だろう。それにちゃんと付き合えたとしたら、すぐにバレちゃうんだよ。」

「付き合えたらバレる?」

「…まぁ、君ならいいか。俺、黒髪じゃないんだ。純粋な日本人じゃない、詳しくは言えないけど日系人なんだ。」

「!!!」

「そんなに驚く?ってことは俺の演技もまぁまぁってことか。」

「そりゃ、驚くよ。演技なんてもんじゃない。そんなこと誰も思わないよ。しゃべっちゃっていいの?トップシークレットじゃないか。」

「いいんだ、君は友人だし口は堅いし。もう少ししたら頃合いを見て発表しようとも思ってるし。ただ、やっぱり彼女には先にきちんと話したいんだ。」

「ふーん。そんな大事なこと僕に先に話していいのかい?彼女が憤慨しなきゃいいけど。」

「日本人じゃないことなんて俺の秘密の中じゃ大したことないよ。他にも伝えなきゃいけないことが山ほどあるんだから。」

「なるほど、運命の人だもんな。でも、敦賀君の魂の片割れなら相手にとっても魂の片割れってことだろう?さっきから聞いていると彼女は敦賀君のことなんとも思っていないみたいじゃないか。矛盾していないか?敦賀君が勝手に運命の人だ、魂の片割れだって思いこんでいるだけじゃないのかい?」

もう筋違いの嫉妬が止まらない。敦賀さんのことを何とも思ってないような人を運命の人だなんて。どうして、どうして私ではないの!?

場の温度が一気に下がった。

「君は痛い所をつくよね…。その通りだよ、俺が勝手に言ってるだけだよ。本当は当って砕けることが怖くて仕方ない。それでも、諦めるなんてできないんだ。」

しょぼんとする蓮にキョーコもトーンダウンした。

「ごめん…。嫉妬なんだ。敦賀君ならきっと上手くいくと思うよ。それに引き換え僕はどうがんばっても失恋決定で…。差がありすぎて悲しくなったんだ。」

「そんなこと…。彼女に伝えてみなきゃわからないじゃないか。俺だって本当のところどうなるかはわかったもんじゃない。君だっていってたろう?諦めることなんてできないって。」

失恋決定の相手に告白しろと励まされるなんて。どうして神様は私にだけ無慈悲なんだろう。

「じゃあ、敦賀君に聞くけど彼女じゃない女性にコクられたら君はどうする?」

「そんなこと決まってる。丁寧に断るよ。彼女以外に考えられない。」

「だろ?だから、ムリなんだよ。」

蓮は怪訝な顔で聞き返す。

「おかしいだろ?俺は君の想い人じゃない。俺の答えは関係ないじゃないか。ちゃんと彼女に聞いてみればいいだろう、男らしくさ。他人の話になんかおきかえるなよ。」

「だから、もう、ちゃんと聞いた!そしてダメだった!」

キョーコは声を荒げて答えた。

「なに?いったい?逆ギレってやつか?そんなんじゃ上手くいかないだろうよ!」

蓮も負けずに声を荒げる。

「うるさいうるさいうるさーい!さっきから勝手なことばっかり!何にも知らないくせに!きょーこちゃんとでも他の誰かとでも幸せになればいいじゃない!私のことなんかほっといて!どうせ…どうせ私なんかどうなったって構わないんだから!敦賀さんなんか幸せボケで豆腐の角に頭をぶつけておかしくなっちゃえばいいんだ~!!!」

一気にまくしたててキョーコはエグエグと泣き出した。既に『坊』の演技はどこかにいってしまっている。一方の蓮は『坊』の豹変についていけずに、何事かとじっと見ることしかできない。しばらくお互いに動くことも話すこともできずに見つめあっていたが、先に正気を取り戻したのは蓮だった。