イロイロと悲しくなってきたキョーコだが、考えてみるとこれはチャンスかもしれない。『キョーコ』では敦賀さんに思いを告白することはできないけれど、『坊』ならできるかもしれない。本人にこんな気持ちを直接吐き出せるなんて二度とないだろう。もしかしたら、少しは気持ちの整理がつくかもしれない。

「そんなに聞きたいのかい?」

「そりゃ、聞きたいよ。」

「仕方ないなぁ。毒にこそなれ薬には絶対にならないけどそれでもかい?」

満面の笑みでブンブンと勢いよく蓮が首を縦に振る。坊に対する態度はどこぞの小学生のようだ。

「どんなこって言ってもなぁ。普通…ではないか。とにかく、美人だね。」

「ヘェ~、この業界の人かい?」

「まぁね。でも、その中でも際立ってるかな。」

「それはそれは…。でも、容姿にだけ惹かれるわけじゃないだろう?」

「もちろん、仕事に対する態度は尊敬に値するね。もともと才能があるにも関わらず人の3倍は努力してるしね。しかも、それに奢らないんだよ。場の雰囲気も大事にしてより良いものを作ろうとするしね。」

「それは素晴らしいね。けどあとは?この業界は才能も努力もたくさんの人が持ってるだろう?何かこう、もうこの人じゃないとみたいなのはないの?」

「うーん…。実は最初は嫌われてたんだよ。なんかこいつは生理的に無理!みたいな感じで。僕も嫌いだったしね、あんまりにも綺麗だからどうせ顔だけなんだろうって思ってたし。」

「それで?」

姿は『坊』なのにどんな表情をも見逃さないように蓮はじっと見つめてくる。真剣そのものだ。どんなに見つめても『坊』は眉も動かせないのに。

「だけどね、偶然にも仕事とかで関わらなきゃいけなくなってしまって。さっき言ったみたいな仕事に対する真摯な態度とかがわかったんだ。僕のこと好きじゃないくせにイロイロと世話焼いてくれてアドバイスとかくれてさ。そのうちにお互いの事情がわかり始めたらだんだんと打ち解けて。あとは、もう坂道を転げ落ちるようだったね、いつの間にか目が追っちゃうんだよ。アンテナがついてるのかってぐらい、ほんのちょっとしか映ってなくても、後ろ姿でも身体のほんの一部でもすぐわかる。今なんて足音だけでもわかるんだから、末期もいいところだ。相手が悲しいと僕も悲しいし、喜んでると僕も嬉しい。そんな気持ちになったことは初めてなんだ。もっと前にそんな風に思ったと勘違いしたことはあったけど今とは全然違うね。あれは相手を好きなフリをして自分の存在意義を確かめてたんだ。」

「どういう意味?」

「昔ね、盲目的に好きだった人がいたんだ。振り返ると好きだと思ってた人がいたって感じかな。相手が喜ぶことを考えて、自分のことは後回しにして何でもしてあげてた。ある時ね、別の人とキスしてるのを見てしまったんだ。今、僕の想い人がそんなことしてたらと思うと想像しただけで耐えられないね。あの時はショックだったけどそれだけだったんだ。」

坊はそこで呼吸を整えるように一息ついた。

「今、僕の想い人には好きな人がいるんだ。その人に会ったっことはないけれど、それはそれは素敵な人みたいなんだ。想い人がその人のことを語る時は本当に幸せそうで、あの様子からすると僕には微塵も勝ち目はないね。二人は、上手くいくと思うよ。想い人が本気になったら上手くいかないわけがないんだ。でも、僕はそれを祝福できない。上手くいかなきゃいいのにって、不幸を願ってる。そんな卑怯な奴なんだよ、僕は。軽蔑するだろう?好きな人の幸せを願えないなんてさ。」