ぷっ きゅ~~ん ぷっ きゅ~~ん
いつもならば、プキュプキュと小気味よく歩く坊なのだが今日はたった一歩が恐ろしく重い。撮影はどうにか意地で乗り切ったがスタジオから楽屋までのほんの少しが永遠のように長く感じられる。笑顔で固定された坊の顔も心なしか悲壮感が漂っている。
とうとう、その時がきてしまった。
敦賀さんは自身の闇を克服したに違いない 。そして、大切な『きょーこちゃん』と関係を深めようとしている。敦賀さんがその気になって堕ちない女の子なんているわけがない。敦賀さんへのこの気持ちは地獄の底まで持っていこうとは思っているが、いざその時が迫るといままでの想像よりもはるかに身を切られるように辛い。祝福するフリなんてできるだろうか。とにかく、どうにもならないかも知れないけれど会わずに済むうちはできるだけ会わないようにしよう。卑怯と言われようが構わない。これは勇気ある撤退なんだから。
カツカツと足音が響く。それだけで誰なのかわかってしまう自分が怖ろしい。キョーコは気づかないフリをして足を早めた。足音は速度をまして近づいてくる。
「おーい、鶏君、坊君、待ってくれ。」
明らかに自分を呼んでいる。そして坊の楽屋はどん詰まり。覚悟を決めてキョーコは振り返った。
「おや、敦賀君じゃないか。そんなに慌ててどうしたんだい?」
「あぁ、良かった。君にお礼が言いたかったんだ。」
「お礼?」
「えっと、そのアドバイスのさ。いつか、君がアドバイスしてくれたろう?お陰で撮影上手くいったよ。」
「撮影って、ダークムーンのことかい?そんな前のこと別に良かったのに。案外、義理堅いんだな。」
「なんだ、その案外ってのは。心外だな。とにかく、アレがキッカケで吹っ切れたんだ。ありがとう。」
「いいんだよ、そんなこと。君が活躍してくれているようで僕も嬉しいよ。」
「それに...。」
急にくちごもる蓮を見ると赤くなってうつむいている。その姿が可愛らしくて心臓がドキンと跳ねる。
「そ、それになんだい?」
「それに、仕事だけじゃないんだ。さっきの聞いてくれてただろう?彼女に自分の気持ちを伝えようかと思って。こんな風に考えられるようになったのも君のおかげだよ。」
「そ、そうか...。それは良かった。あの時の彼女のことかい?」
「そうなんだ。」
恥じらう乙女のような姿の蓮を目にするのがいたたまれずにキョーコはそっぽを向いた。
「でも大丈夫...かな?さっきの君の話しぶりじゃちょっと変わった感じの女の子みたいだし。あれから何年も経つのに君の魅力に屈しないみたいだし。玉砕しないことを祈ってるよ。」
『坊』でいるからなのか、つい、本音が滲み出てしまった。『きょーこちゃん』に振られてしまえばいいのに...。いくら演技のためとはいえこんな醜い感情は欲しくない。
蓮はムッとして言葉をかえした。
「彼女のことを良く知らない君にそんな風に言われる筋合いはないよ。玉砕うんぬんはどうなるかわからないけれど、とにかく彼女のことを悪くいうのは君でも許せない。」
悪口なんてこれっぽちも言った覚えはない。ただ、蓮の話した内容からいろんな意味で『すごい』と思っただけだ。蓮が美人だと言うくらいだからそうとうなのだろう。頭もいいと言っていた。それなのに努力家で気配りができるなんてどうあがいてもキョーコに太刀打ちなんてできるはずがない。そして、極めつけが蓮に恋愛感情を抱いていないらしいところだ。それだけで尊敬に値する。一緒にいて堕ちないなんて信じられない。
「そんなつもりはなかったんだけどね。そういう風に聞こえたなら悪かったよ。じゃ、上手くいくことを祈ってるよ。」
つっけんどんに別れの言葉をはいて立ち去ろうとする坊を蓮は引き留めた。
「ごめん、俺こそそんなつもりじゃなかったんだ。ただ、彼女は俺のこと男として見てくれてないのがわかるから。玉砕はけっこうホントになるかもって思ってしまって。ごめん、八つ当たりだったよ。」
「いや、そんな気にするなよ。お互い様じゃないか。君がその気になって堕ちない女の子なんていないよ、羨ましい限りだね。」
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だいずの得意技、ブッタギリです (・∀・)
SSで終わるのかという気がしてきました。
5話ならSSでいいかしら?