「ばけもの?」
蓮は伸ばしかけた手をそのまま空でとめました。その様子にキョーコはいたたまれずに目を固くつむります。意を決して目を開けると蓮をヒタと見つめて話し始めました。
「蓮様は私の王子様...。だから知られたくなかった。綺麗な人魚のままでいたかった。」
辛そうに話し始めたキョーコに蓮は言い募ります。
「人魚でも人間でも、どっちでも構わない!」
「私はどちらでもないの。覚えていますか?1年前に浜辺で会ったオレンジの髪の少女を、蓮様を王子様と呼んだ少女のことを?」
蓮は思い出しました。『迎えに来てくれたの?』と聞かれ、違うと答えたら寂しそうに笑った少女のことを。その少女を探してキョーコと出会ったのです。キョーコに出会ってからはあの少女のことを思い出すことはありませんでした。オレンジの髪はキョーコと同じです。大きなはしばみ色の瞳も同じです。見れば見るほど、あの少女とキョーコが同じに見えてきました。蓮の驚いた表情を見てキョーコは蓮が悟ったことを理解しました。あの少女と同じ寂しそうな笑みを浮かべます。
「ね、気持ち悪いでしょう?私は人でも人魚でもない者...。ですから、私のことは忘れてください。」
蓮はたった2歩でキョーコのことを捕まえました。有無を言わさず抱きしめます。キョーコはまさかそんなことをされるとは思わずに呆然とします。
「そんなことない。気持ち悪くなんかない。忘れるなんてそんなことするもんか。」
「離して、お願いだから離してください。」
「いやだ、離すもんか。」
キョーコが身を離そうともがけばもがくほど蓮は腕の力を強めます。いつもならきちんとすべてのボタンをとめるキョーコですが、この時は慌てて服を着たためもがいた拍子に首元が露わになりました。
「これ...は?」
蓮はキョーコの首筋に手を当てます。キョーコは解放された側の手を首にあてました。
「見ないでください!生まれた時からある痣です。見ないで!」
蓮はキョーコの手を無理やりどけさせました。暗い小屋の中でしたが蓮は隙間から月明かりがもれる場所へキョーコを押します。キョーコの首筋を確認すると蓮はこの世のものとは思えない極上の笑みを見せました。キョーコが痣と呼ぶ場所にそっとキスをします。キョーコは何がなにやらわかりません。人魚でも人でもない者だと知られ、抱きしめられ、今はキスまでされています。
「あぁ、俺が王子様ならキョーコは俺のお姫様だ。」
「???」
訳が分からないキョーコに蓮は説明しました。
「本当に俺はキョーコが人魚でも人間でもどっちでもいいんだ。でも、キョーコが気になるなら教えてあげる。俺もキョーコと同じ、人魚でも人間でもない者だ。」
蓮は屈んでキョーコに自分の首筋を見せました。目の前に出された蓮の首筋にも同じような痣がありました。ただ、キョーコの痣よりも少し大きく真ん中が窪んでいます。キョーコが見つめているとその窪みがパックリと開きました。すぐに閉じられましたが、何度かパクパクと開いたり閉じたりします。
「陸だと動かすのはちょっと難しいね。気持ち悪い?」
キョーコは驚いて声も出ません。蓮はイタズラっぽく笑うとキョーコの痣をなでました。
「俺も同じ。俺は海で生活してる。キョーコは陸で生活していたんだね。動かせる?」
動かすことなんてできません。どうすればそんなことができるのかキョーコにはさっぱりわかりません。
「陸での生活が長いから難しいのかな。ここに集中して、水中で息がしたいって思ってごらん。」
キョーコは蓮の言うとおりに動かそうとしましたができませんでした。それでも痣のあたりがピクピクとはしたのです。
「う~ん、魔女様に聞いてみるか...。」
「魔女様?蓮様と私は同じなの?」
「俺の母は人魚なんだ。父は人間。普通、人魚と人間が愛し合ってできた子はどちらかで生まれるのだけれど、俺は尾ひれのない足のある人魚だったんだ。きっと、キョーコもそうなんだよ。」
蓮はすぐにでも魔女のもとにキョーコを連れて行こうとしましたが、キョーコは渋ります。キョーコだけならこのまま姿を消しても構いません。けれど、養い親が病気で臥せっているのです。キョーコがいなくなれば伯爵はおそらく養い親を放り出すでしょう。キョーコをかばったがために苦労を背負いこみ病気になったのです。優しい養い親を見捨てることはできませんでした。
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次で最後です。
大した落ちはありません。
お約束のハッピーエンドです (-^□^-)