蓮はあれから魔女の使いがなくても時間をみつけては例の陸へあがりました。オレンジの髪の人魚を探すためです。日によっては海から探すこともありました。近海の人魚達に聞いては見ましたが誰も知りません。1年前に聞いた『人魚を飼う伯爵』というのも気になって岩の囲いも行く度に確認しましたが一度も人魚がいるのは見たことがありません。もう諦めようかと何度も思いましたが、どうしても諦めることができなかったのです。
強い風がいつの間にか雲を全て流してしまい、月が顔を出します。雲はなくなりましたが風はやまず、海は時化ていました。
蓮はおなじみになったルートをたどります。最初に伯爵の岩の囲いを、次に浜辺を町に向かって歩きます。人魚が座っていた岩場の前では立ち止まりしばらく目をこらしてオレンジ色を探します。なんとなく立ち去りがたくてあと少しあと少しだけ待ってみようと思っていたときでした。波間にオレンジ色がチラリと見えたかと思うとすぐに沈んで見えなくなりました。あまりにも会いたいと思っていたために見えた幻かと思えるほど長い時間がたったとき、岩場に人魚が身をのりだしているのが見えました。
「あっ...。」
蓮は思わず声を出してしまいました。強風の中で聞こえるはずもないような小さな声でしたが、人魚も蓮に気づいたようです。お互いにしばし見つめあっていましたが、やがて人魚が顔を背け海に戻ろうとしました。
行ってしまう...と思ったその時、蓮は今度は大きな声で呼びかけました。
「待って!行かないで!」
蓮の懇願とも言える声音に人魚は動きをとめ、もう一度蓮のほうを見ました。悲しげな表情を見せると首を左右に振り、再び海に戻ろうとしました。
ようやく会えた人魚が目の前にいるのです、蓮は必死でした。服が濡れるのもかまわず、海に足を入れました。そのまま人魚のもとへ歩をすすめます。驚いたのは人魚です。時化ている海ではそれ以上すすめば溺れてしまいます。
「来ないで!危ないから!」
蓮は初めて聞いた人魚の声に動きを止めました。
「なら...どこへも行かないで。何もしないから...。ただ話がしたいんだ。」
人魚は岩場に掴まったままじっと蓮を見つめました。本当は人間には近づきたくありません。人魚に危害を加える者もいるからです。長い間、人魚が動かないので焦れた蓮は人魚に向かって歩きはじめました。
「わかった。わかったから動かないで。」
蓮は人魚の承諾を得るとその場で立ち止まりました。
「俺は蓮。君は?」
「私は...キョーコ。」
その日から蓮とキョーコの逢瀬がはじまりました。